第4話 白い
第八位階下位
ゴゴゴっと扉が開きアルマロンが前に出る。
僕達はそれに続き、少し高い位置に作られた大きめの玉座を見上げた。
アルマロンが膝を突く。
「アルマロン、御身の前に参上致しました」
「ご苦労様、楽にしてね」
「はっ!」
微笑みながらそう言ったのは、堕天使。
堕天使 ローネリア・グラシア LV799MAX
金に輝く光輪はそのままに、髪は白く染まり、目は血の様な赤、翼は黒く染まった堕天使。
長い髪に長身の美人さんだ。
ローネリアは楽にと言われても跪くアルマロンから視線を外し、ナハトロンを見た。
ローネリアが口を開く前に、もう一人が声を出す。
「ナハトロン! 良く無事に帰ってきたのだわ!」
悪魔女皇 アロカント・グラシア LV743MAX
白髪に白い瞳の少女。
堕天したローネリアと良く似た配色の、1,000年以上の古より生きる大悪魔の1人。
角や尻尾まで白い純白の彼女は、ローネリアの膝から降りるとナハトロンの両手を握った。
「うむ、久しく。まぁ我は一度死んだ様な物だがな」
「良く分からないけど、良かったのだわ。それにテリオヌスとルカナントも、生きていてくれて嬉しいのだわ!」
ニコニコと微笑む彼女の瞳からは、ほんのりと涙が滲んでいる。
……やはりと言うか、アロカントは温室育ちの培養タイプだな。
1,000年以上の間、ローネリアに守られて育てられたのだろう。
アロカントは暫しにこやかに三人を見た後、僕に視線をよこした。
「それで……貴女はどなたなのだわ?」
「僕は彼等の新しい主人」
その答えに対し、アロカントはショックを受けた様にたじろいだ。
「……ぐ、グラシアの者はグラシアに帰るべきなのだわ。お礼は弾むのだわ」
「まぁ、研究機関としては歴史あるグラシアに統合しても良いかな」
「そ、そうなのだわ!」
僕の返答に気をよくしたアロカント。対してローネリアは眉根を寄せた。
特に何と言う事も無く、ローネリアは直ぐにアロカントの前に歩み出る。
そのままアロカント守る様に僕の前に立ち、攻勢意思を滾らせた。
「……グラシアの戦士達を送り届けてくれた事、感謝します。しかしユキ様、どうぞお引き取りください」
そこまで言った所だった。
「な、何をするのだわ! ナハトロン!」
「な、ナハトロン様!?」
アロカントの悲鳴に近しい声に、アルマロンの困惑した声。
ナハトロンがアロカントの首に槍を当て、ルカナとテリーがローネリアに手を向ける。
「……なんの真似ですか?」
動揺を隠し、ローネリアは3人に問う。
それに対する答えは、ナハトロンから与えられた。
「この状況で分からぬとは……ローネリア、貴様、この1,000年で鈍ったな?」
「……」
「我はグラシアの灼星。ユキがグラシアの存続を望むのなら、我はその後押しをするのみだ」
状況と全く異なる事を言うナハトロンに、ローネリアは困惑の表情を浮かべた。
「な、なら安心なのだわ」
平和ボケの化身の様なアロカントは、槍を向けられたまま気を抜いた。寧ろ大物である。
それに対し慌てたのはローネリアだ。
瞬時に多くの可能性を考えた彼女は、視線だけナハトロンに向け、問うた。
「こんな事をして、私を止められるとでも?」
「ではローネリア、貴様はそれを止められるか」
自信満々なローネリアに対し、顎で僕を指すナハトロン。
ローネリアの視線が僕に戻るのに合わせて、僕は不可知化した。
「っ……何処に」
「いないよ」
声だけは響く僕に、ローネリアは即座に光輪を光らせ、翼を広げて警戒する。
その間に、僕はアロカントの頬をつついた。
「ふみゅぅ、なんなのだわ?」
「——やめて!」
「別に何もしてないよ」
慌てて振り返った彼女の背後から声を掛ける。
反応が鈍いな……本当に鈍ってるのか?
此方を振り返った彼女に、視線を合わせた。
「っ……」
「……」
此方を睨むその顔、急速に高まる戦意……だが、尽く遅い。
「はぁ……ナハト、槍を降ろせ。ルカナもテリーも。無駄な戦闘は不要だよ」
第一、天使や悪魔、増してや熾天使級と女皇なら準精霊体なのだから、僕に敵意が無い事くらい分かるだろう。
それぞれ滾らせていた殺気を納め、武器を降ろした。
困惑しているのはローネリアとアルマロンのみだ。
「今のナハトロンくらいだね」
「ふん、本来格上でありながら落ちた物だな」
「アロカントはちょっと弱過ぎる」
「何故か罵倒されたのだわ!?」
戦闘するに値しない相手だ。
「さて……」
そう言いながら、僕はちょうど良く空いている玉座に腰掛ける。
そのまま少しだけ、練り上げていた真気と神気を解放した。
「「「っ!?」」」
おそらくローネリアは神気に、アロカントとアルマロンは真気に気付き、さっと顔を青ざめさせた。
対する配下の3人は、直ぐに膝を付き、頭を垂れた。
演技指導はバッチリである。
「グラシアの決定権を持つのはアロカント、君だね」
「そ、そうなのだわ……」
グラシアの花は白い花。最初からグラシアはアロカントを指す名前だった訳だ。
「僕の目的はグラシアでは無くローネリアだ。ローネリアは何があろうと連れて行く」
「そ、それは……幾ら貴女が強くても承服し兼ねるのだわ!」
「アロ……」
僕に立ち向かうアロカントに、微笑んで問う。
「では、君達グラシアも、付いて来るかね?」
「……それなら確かに万事解決なのだわ」
色々と拙いが、真っ直ぐではある彼女は、色々起きるかもしれない諸問題をスルーし、自らの直感に従い頷いた。
「グラシアは貴女の傘下に降るのだわ! だから皆を大事に扱って欲しいのだわ!」
「良いだろう。おいで」
よたよたあわあわ近付いて来たアロカントの頭を撫で、テイムを掛ける。
テイム程の強制力なら、アロカントでも余裕で弾く事が出来る。
これもまた、一つの篩の役割を持つ物だ。
しかしアロカントは一切の抵抗も無く、テイムを受け入れた。
次はローネリアだ。
「……ローネリア、僕の目的は天界を落とす事だ」
「天界を……」
ローネリアが天使総軍の現状を知らない筈が無い。
それ以外の情報については殆ど当てにならないが、唯一、熾天使達の事情には精通している筈。
「君の協力は本来天界を落とす上で不要だが、あればその分だけ良い。協力してくれるね」
「ふにゅぅ〜」
アロカントの頭を撫でくり回しながら言うと、ローネリアは凄く何か言いたげに、頷いた。
「……分かりました……ですが、一つだけ聞かせてください」
「良いだろう」
ローネリアはすっと、多くの物を飲み込んで、強い信念を覗かせる顔で問うて来た。
「貴女は、銀の巫女ですか?」
偶に、特に五天帝の傘下に聞かれる事だ。
僕は微笑みながら頷く。
「そうだよ」
「……分かりました、私も覚悟を決めましょう」
ローネリアは僕に跪き、首を垂れた。
「天界の命運、そしてシルフィアーネ様の御遺志。全て貴女に託します」
「テイム」
《【大陸クエスト】『グラシアの花々』をクリアしました》




