第3話 グラシア
第八位階下位
グラシアの里から飛び出した何かは、真っ直ぐ此方へ向かって来る。
アルマロン・グラシア LV648MAX
飛来した赤い髪の少女型の悪魔は、此方に槍を向け、高らかに叫ぶ。
「我こそは赫星のアルマロン! グラシアの赫星とは我の事なり!」
いつぞや聞いた様な宣言に対し、ナハトロンは頷く。
「うむうむ、中々の使い手の様だな」
「アルマロン、確か灼星の名を次ぐと言って回っていた娘ですね、1,000年で良く成長した物です」
「一応グラシアの最高戦力で伝説の悪魔なのよ?」
それぞれがそれぞれの感想を言う中で、アルマロンは最大の警戒を持って此方を1人ずつ観察している。
その赤い瞳は突如大きく開かれた。
「きゃー!!?」
響いたのは、黄色みの強い悲鳴。
「な、な、なな、ナハトロン様!!?」
「お、我を知ってるとなると相当古い悪魔だな?」
「私の時代ではグラシアに迎えられたばかりの若輩でしたよ」
「アルマロン様は私より一個下の種族、悪魔女帝よ」
「ふむふむ」
レベル600の壁を越え切れてはいない様だが、それでも研究者肌のグラシアで自力でこの域に至ったのなら相当なやり手だ。
ただ……1,000年でレベル800近くまで到達する一種の天才達と比べると、些か劣ると言わざるを得ない。
「多分ルカナよりも下かな」
「だからそうだって」
「いや、才と言う面の話だろう」
「確かに、1,000年でこれくらいなら妥当なラインでしょう」
「あぁ、そう言う意味ね」
非才の身で良くぞ、とルカナとテリーがプチ感動している横で、アルマロンは地面に槍を突き刺し、ナハトロンに歩み寄った。
「な、ナハトロン様……冥域に消えたと言う貴女が生きておられる事をどれ程願ったか……」
「うむ、我、グラシアに帰還したぞ」
「はい……はい!」
涙を滲ませるアルマロンは、暫し顔を覆った後、ズビッと鼻を鳴らして此方を見た。
「して……貴方達は……ルカナントに……まさかテリオヌス様!? 生きておられたとは」
「まぁ、生きていたとも言えませんが」
「それは我もだな」
「それを言ったら私もよ」
「皆死んでた様な物だよね」
テリーは本物じゃないし、ナハトは本当に死んでたし、海を漂流していたルカナが1番マシとは。
「一体どうやってこれ程の力を……? それに貴方は……?」
「僕は皆の保護者」
「保護者……?」
うむうむと頷く皆。大体合ってるよね。
◇
幾らかの疑問はありつつも、グラシアの里を案内された。
そこは、魔界と言うイメージには似ても似つかぬ、平和な町だった。
ただ、住んでいる悪魔の殆どが研究者肌で、あちこちで何かの実験が行われている。
研究者じゃない者達も少数ながらいて、穏やかに花を育てている者もいれば、アルマロンの様に武術を磨いてグラシアを守ろうとする武人もいる。
そんな平和で綺麗な街並みを、何度も色んな人に手を振られたりしながら進み、大きな施設へと入る直前に、アルマロンが振り返った。
「此処から先はグラシアの名を与えられた者しか入ることを許されていない」
「……うぷぷ、じゃあユキは入れないわね」
「押し通る」
「まぁまぁ、此処は我々の顔を立てて、ユキ様を通してはくれませんか?」
「まぁ、ユキならばその歩みを止められる物等あるまい。止めようとするだけ無駄だな」
何故か煽って来たルカナの頬を引っ張りながら沙汰を待つと、それは響いた。
『通しなさい』
穏やかな女性の声だった。
反応は大きく、アルマロンはさっと背筋を正した。
「はっ!」
広大な施設の中へと導かれるまま歩みを進める。
あちこちでは、外と比べて高位の悪魔達が、施設の広さの割に少数で活動しており、知り合いが多いルカナが良く手を振っていた。
大体の悪魔達は、ぞろぞろとついて来るクリプトシーカーの悪魔達を不思議そうに見ているが、静観に努めている。
広く長い施設を進んだ先には、門があった。
黒い翼の天使と、真っ白なおそらく悪魔が描かれた門だ。
「此処より先はグラシアの深淵、その……」
「うむ、あの方の座す場所だ」
「私入るの初めてだわー」
「私もです」
「取り敢えず皆は此処で待ってて」
あまり多くで通って欲しくなさそうなアルマロンに配慮して、クリプトシーカーの面々を門前に待たせる。
門は重い音を立てて開き、僕達はその門の先へと進んだ。
長い廊下には、石像が幾つも並んでいた。
その中には、ルカナントやテリオヌス、ナハトロンにアルマロンの石像もある。
「此処は、グラシアの名を与えられた悪魔達を永劫残す為に作られた通路だ」
「我の時代には無かったな」
「ナハトロン様がいなくなってから作られた様です。永き時の中で決して忘れる事無き様にとの御心の表れでしょう」
ルカナやテリーは自分の石像の前でしげしげとそれを見詰めている。
僕もぬいぐるみでも置いておこうかな。
道端の真ん中に僕ぬいぐるみを置くと、アルマロンがわざわざ戻って来てそれを小脇に抱えた。
「……なんのつもりか知らないが、変な事はするなよ」
「変……?」
僕のぬいぐるみを置く事の何が変な事なのだろうか。
寧ろ喜ばしい事ではないだろうか?
「ははっ、確かに変ではあるな。アルマロンよ、ソレは我が預かろう」
「は、はい」
「ちょっと! それはずるだわ! いったい幾らで売れると思ってるの!」
ルカナが吠える中、テリーは肩をすくめた。
確かに、僕ぬいぐるみは山程あるが、僕属性に満ちている僕ぬいぐるみは少ない。欲しい子は欲しがるだろう。
無闇と野に放って良い物では無いのかもしれない。
ナハトロンはアルマロンからぬいぐるみを受け取るや、直ぐにアイテムボックスにしまった。
「むむむ」
「ふふん」
そうこうしている内に、第二の門前まで到達した。
確かに、この扉の向こうから、強大な気配が2つ感じられる。
いよいよ、グラシアを支配する堕天使、ローネリアと、その伴侶である古の悪魔との邂逅だ。




