第2話 出発
第八位階下位
学園都市オムニメイガス。
そこにある研究施設では、久しぶりの帰省に向けて、グラシアとその傘下の悪魔達が忙しそうに準備に奔走していた。
僕はその中でも、暇そうにしているナハトロンに声を掛ける。
「やぁ、ナハト、おはよう」
「うむ、良き朝だな」
ささっと黒霧が席を用意し、僕はそこに腰掛ける。
ナハトロンも、手に持っていた槍を地面に突き刺し、椅子に腰掛けた。
「ナハトは準備しないの?」
「我は身一つ、槍一本あれば十二分よ。武闘派故な」
「そう」
そうと言いつつもそわそわしている彼女。
一方で、テリオヌス、テリーは一通りの準備を終えて、此方に歩いて来た。
その手には桐箱に入れられた醤油の瓶、照り醤油があった。
「やぁ、お待たせしましたユキ様」
「それ持ってくの?」
「えぇ、お土産に。それから幾らかの研究成果も部下に持たせました」
研究成果と言いつつ、調理道具とかレシピ本とか食材とかが目立つ。
テリーはもう料理人で良いと思うよ。もしくは醤油の醸造所長。照り醤油ってなんだ。テリーが作ったからか。
そうこうやってる内に、ルカナント、ルカナが部下を引き連れてやって来た。
「あらユキ! 遅かったわね」
「1番遅いのは君達だけどね」
「グラシアの最新の研究を知ってるのは私だけなのよ? どの研究成果が有効打になるか知ってるのは私だけな訳。そりゃあ準備も長くなるわよ」
研究成果で殴りに行くのなんなの。グラシアの伝統なの?
場合によっては即戦争もあり得るので、取り敢えず研究成果は各自のアイテムボックスにしまって貰い、直ぐに魔界への転移を行う。
出発地点は、万が一逆探知された場合に備えて、イェガの上。
僕達がなんらかの理由で外敵より一拍遅れて転移する事になっても、イェガとその配下達ならば先行した外敵を排除してくれるだろう。
おまけに、万が一に備えて僕の分霊身入りアバター5体を警戒用に設置しておく。
コレで万が一誰かが死ぬ様な目にあったとしたら、それは僕になるだろう。
それならば幾らでも挽回が効く。
と言う訳で、早速転移。
ルカナの手により複雑な魔法陣が描かれ、大量の魔力が渦を巻いて魔法陣が起動する。
僅かな浮遊感の後、満ちた光が薄れ、気付けばそこは魔界だった。
何処までも広がる様なその世界は、濃い魔力濃度により色付き、光が無くとも見渡せる。
場所は辺りを見下ろせるちょっとした山の上。
気の利いた所への転移である。
「はー、この魔力の濃さ……魔界に帰って来たって感じするわね」
「うむ、全くだ。成果物の調整が必要そうだな」
「ふ、研究職は大変だな」
グラシアの3人が話してる間に、僕は全域に視線を巡らせた。
どうやら、山の麓付近にあるちょっとした都市が、グラシアの拠点らしい。
グラシアは花の名前にも使われているらしく、見下ろせるその街には花の意匠があちこちにあしらわれている為、そう判断した。
また、グラシアの拠点の程近くには、広大な海の様な暗闇があった。
あれがおそらく……冥域と言う奴だろう。
事前情報によると、冥域は広大な魔界を囲う様に存在していると言う話だし、此処は魔界の隅なのだろう。
「ルカナ、北はどっち?」
「あっちよ」
指し示されたのは、冥域。
それ即ち、グラシアの里は魔界の北端に存在している事を示している。
辺りには、山や森があるばかりで、特にコレと言った脅威やシンボルは存在しない。
やはり魔界はかなり広大で、土地が余っているのだろう。
更に良く、周辺の気配を探って行く。
感じられたのは、濃い魔力に混ざる、幾らかの魔獣の気配。
地上では魔獣と言われるソレらも、魔界では全て悪魔獣だ。
森には木型や狼、山にはゴーレム系、熊等、比較的地上と同じ様な生物の配置をしている。
そんな中にあって少し異常なのが、山の頂上付近だ。
そこだけ、魔力濃度の濃さが段違いに引き上げられ、そこを縄張りにする強い悪魔獣が存在している。
地脈の噴出口の様な物があるのだろう。
残念ながら魔界にもフィールド制限の壁がある為、その先の情報は良く分からないが、見えている各山々や大山霊峰全てに強い悪魔獣がいると考えられる。
勿論、フィールド制限のボスも大体の場合ソレらが該当するだろう。
また、ソレらの気配とは別に、ほんの微かに東側から感じられたのは、光属性の気配。
おそらく、天使達だろう。
天使総軍がここから東にずっと行った場所に拠点を構えている物と見られる。
ざっくりとした気配はそんな所。
後は、魔力濃度が濃い事により、土や木、大気の強度自体が地上よりも高い為、地上では山を吹き飛ばす威力の攻撃も、ここでは山を削る程度になるだろう。
威力が下がるのでは無く、山の耐久力が高いのだ。
そんな少々の違いにうむうむと頷いていると、グラシアの里から何かが飛び出した。




