第13話 全てを糧に
第六位階下位
明けた19日目。
体調は万全。やれる事は全てやり尽くした。
僕は早速、攻勢に出る事にした。
先ずは一当て、僕がぶつかる。
全てはそこからである。
「よし、じゃあ行ってくるね」
「はい〜、お待ちしてますね」
「うむ、十分に気を付けるのだぞ」
ルメールと木の巨人に見送られ、全てのスライムを体内にしまったまま山を降る。
敵は、緩やかに島全体を覆い始めており、もうこの島に逃げ場は無い。
そんな背水の陣の中で、僕は緩やかに広がる敵へ、指を突っ込んだ。
「っ!!」
刹那、迸る。
——激甚な苦味。
敵は慌てた様に僕から広範囲に渡って距離を取り、僕も体をプルプル振るわせる。
「に、にがい……」
何を感知するよりも早く感じた苦味に、飢餓と暴食を割り振っているスライム達まで怯んでしまっている。
コレはつまり、僕等にとって奴が格上の同類である事を表していた。
同時に、奴が引いた事から、僕と言う個体が奴にとって格上である事も表している。
更なる情報を得るには、更に接触するしかない。
此処に来てスライムの味覚が僕の邪魔をして来たが、そんな事は言っていられない。
やらねばならぬ。
僕は覚悟を持って、再度敵へ、今度は拳を突っ込んだ。
「に、にぎゃぃ……」
でも慣れて来たかもしれない。
そんな淡い勘違いを信じて、全力で調査した結果、分かった事が幾つか。
敵のレベルは、推定……魂のレベルで500オーバー。肉体の末端は精々300程度と言ったところ。
此処まで力がかけ離れて見える理由は、奴が暴走状態にあるからだ。
コレはあくまで推測だが……きっとコイツは、僕だ。
いや、正確には、僕がコイツなのだ。
おそらく、この世界に降り立つに当たって、僕はコイツのコピー体として、この島の真反対に配置された。
あれだけの飢餓を。
あれだけの暴食を。
コイツは1人で抱え込んでいるのだ。
哀れな怪物は、肉体を肥大化させて、餌を求めて地面を這い回る。
スライム系は水の分解が少々苦手だから、どうにか大地を吸収しつつ、今や島の西は海に沈んでいた。
少しずつ、海水も消化してエネルギーに変えているだろう。
哀れな怪物。
その最も哀れたるは、産まれであり、行く末だった。
——この怪物は、生体限界を越えられていない。
肥大という形でエネルギーの流入に耐え、飢餓と暴食の暴走で意思のリミッターを越えてレベルを上げているが……それも限界が近い。
間も無く、異常進化が発生し、この怪物は死ぬだろう。
それは早ければ、今日。遅くとも明日までの出来事だ。
あくまでも推測だが、史実では木の怪物ちゃんがスライムに飲み込まれる事で、敵のタイムリミットが早まり、ルメールが助かった物と考えられる。
こんな怪物、早々産まれる物ではない。
バアルの飢餓と暴食だけを切り取り、スライムに押し込んだ様な存在だ。
何らかの強者が死ぬなり死に掛けるなりして、その魂の一部を取り落とした結果、このスライムは産まれたのだろう。
僕は少し考えた末、計画通り、一時撤退を行なった。
◇
山の上に激甚な苦味の何かがある事を学習してか、敵の山を登る動きはとても鈍い。
このまま行くと、何もしなくても明日には決着が付くだろう。
そんな訳で、僕はある作戦を決行した。
広い花畑から、敵を見下ろす。
「それじゃあ、手筈通りに」
「えぇ、承りました」
その一声と共に、ルメールはその力を解放した。
放たれたのは、敵意の無い樹木の操作魔法。
無数の生命力に満ちた樹木が、西側へ落下する。
——餌やりである。
同時に僕も飛び、島の東側に着地した。
敵は、西側に餌が現れた事に気付き、そこへ体積を集める。
それに対し、僕は体を肥大化させ、巨大ヒューマンスライムへと変貌した。
僕と接触した敵は、体を縮めて西側へ後退する。
コレを繰り返し、敵の巨大スライムを追い込んで行く。
同時に、とんでもなく苦いそれを捕食し、敵自体の体積を減らして行く。
体が震える程の苦味だが、皆と協力してどうにか分解、エネルギーとして体積の増加に利用する。
『吾輩この様な苦味始めてである!』
『お、俺も!』
『都の薬よりも苦いぞ!』
『なんの! 武士は食わねど高楊枝!』
食うんだよ。
ともあれ暫しそれを行い、ぶるぶる震えながら侵攻を続け、中央の山を越える頃には、敵よりも僕が大きくなっていた。
何なら山を見下ろす程の巨体。
山よりも高い目線では、南東の水平線に島があるのが見えた。
おそらく鬼ノ国だろう。
日は沈み掛け、気付けば黄昏。
随分と苦味に邪魔をされてしまった。
僕は、ルメールを持ち帰り枠にしまい、改めて小さくなった敵を見下ろす。
さて、最後の一齧りだ。
僕は気合を入れて、それへ襲い掛かった。
事此処に至って、感じたのは、激甚な苦味だけでなく、激甚な辛味。
いよいよ戦わねばならぬと、敵は理解したのだ。
だが、僕はそれに備えていた。
いつ来るかいつ来るかと思っていたが、やはりこの時か。
激苦と激辛に構わず僕は、捕食を続ける。
その肉体を喰らい、身の糧として。
その壊れかけの魂を喰らい、僕の眷属として。
僕はこの島で最初にスライムに会った時に決めていた。
出会うスライムは全て——
——眷属にしようと。
《【運命クエスト】【神話クエスト】『飢餓の追憶記』のクリア条件を満たしました》
《『飢餓の追憶記』クリア完了まで、残り10秒》
カウントダウンが進む中、急いで眷属化させたスライムをコアに登録する。
ずしっと重くのし掛かる飢餓と暴食を分配し、魂に限界以上に重なるレベルを剥いでエネルギーへ転換、僕へ注入してレベルを無駄に上げて行く。
取り急ぎレベルが500まで上がった所で、僕のコアを抉り取り、持ち帰り枠に突っ込んだ。
コレでやり残した事は無い。
カウントダウンはゼロへと進み——




