第11話 頂きにて
第五位階下位
時に崖を垂直に駆け、時に岩を飛び越えて、時折虫の群れを大きく回避して、山を駆け登る。
程なくして、先の木の巨人と遭遇した。
「っ! 貴様……! どんな魔法を使った! オルメスと聞くとルメール様は貴様を通せと——」
「——じゃあ急いでるから通るね」
「あ! 待てこの! くそぅ!」
なんだかんだ言ってこの子も何かの転生者だよね。
そんな事を思いつつ、木の巨人の脇をすり抜けて、頂上に至った。
そこは、花畑だった。
色とりどりの花が咲き乱れ、山の頂を飾っている。
そんな山のやや平らな頂上には、巨大な木片と、結晶樹の若木、そしてルメールがいた。
「お待ちしていました」
「状況が悪いから色々短縮しよう。僕は人形使いオルメスの知り合いで、賢神グリエルの知り合いでもある。そして今はスライムだ。これで信頼出来る?」
「現状を把握しているなら、高知能のスライムと言う点が信頼出来ない事は分かっている筈です」
ニコニコと微笑みながら信頼出来ぬと言うルメールに、僕も笑った。
「君は迷宮の爆発に巻き込まれて此処まで吹っ飛んで来たルメールのコア部分と言う事で間違いないね?」
「……良くご存じで」
「仮にも精霊体ならば僕に敵意が無い事は見える筈だ」
「……確かに、ですが敵意と言う点で見るならばあのスライムにも敵意はありません」
確かに、奴にあるのは敵意ではなく食欲のみだろうね。然もありなん。
会話をしながら、ルメールのコア、未だ生きながらも、やがては風前の灯となる木片へ近付く。
「ちょっと触れるけど良いね」
「…………どうぞ」
やや疑いながらも、その高レベル故に油断してくれるルメールに、触れた。
注入するのは、僕のルメールに関する記憶。
そして一時ゲームから離脱。
◇
黄昏の会場に戻るや、僕は一路、ルメールの元に向かう。
座標を確認し、転移した。
場所は楽園都市バラン、冬島、インヴェルノ島。
うっすら雪の降るその島の平原で、灯りが灯るかまくらが幾らか。
その中の一つにお邪魔する。
覗き込んだそこでは、ルメールが鍋を囲って熱燗を決めている所だった。
「やぁルメール、記憶頂戴」
「良いですよー」
「おぉ、嫁御殿、また良くわからん事をしておるのぅ」
その場にいたベルツェリーアも、小さな御猪口で熱燗を決めている。
仲良しだなコイツら。
「因みにコレはぬる燗です」
「燗酒と言ってな、ただ温めただけの酒のコレが美味いこと」
「今は要らないかな」
僕はちょっと忙しいので、お酒には付き合えない。
「いや、誰も飲めとは言っておらんから」
「そうですそうです」
何やら慌てて否定する2人に、僕は訝しみながらも、ルメールの記憶のコピーに勤しむ。
「まま、此処はおでんでも食べてゆっくりして行くと良い」
「そうですねぇ」
「……御相伴に預かろうかな」
言うや、黒霧がさらりと現れて、僕の分をお椀によそう。
今や無意味になって久しい空腹ゲージを、暫し満たした。うまー。
◇
黄昏の舞台に一応戻り、ゲームに帰還。
早速、ルメールにルメールを注入した。
「な、にを……これ、は…………私のぬる燗は何処です?」
「全部飲んでたが?」
いや追加してたか。
「そんな事より結晶樹の侵蝕とコア形成を行なってね」
「仕方ありません……因みにこの世界特有のおさ——」
「——君の配下を調べさせて」
「お好きな様に……お酒はないんですか?」
「無いよ」
しょんぼりしてないで、戦いに備えろ。
取り急ぎ、呼んでもらったルメールの樹兵士を調べる。
「お呼びですがルメール様!」
木の怪物は、花を踏み、それを極めて、慎重に、踏み荒らして此方にやって来た。
多分花畑に入らない様にルメールに言われていたのだろう。
どんなに慎重に歩いても、その巨体では花を薙ぎ払わざるを得ない。
「彼女はユキ、我々の主にして何物をも可能とする至高のお方です」
「な、なんと……!?」
ルメールの厚みを増した声に、樹木の巨人は僕に跪いた。
本来なら主人であるルメールを疑って僕を斬りに掛かっていたかもしれないが、それをさせないだけ、ルメールの格が上がったのだ。
と言う訳で、早速接触してその構造と魂を調査する。
ルメールコピーにかなり消耗したが、今は準備の時。時間が惜しい。
詳しく木の奴を調べた結果、分かったのは……この怪物が、スキル結晶、植物魔法をベースに作られていると言う事。
それから、結果的に魔水晶をベースに作られたこの肉体は、レベルにして150相当の力を持っている事。
おまけに、転生者の魂を持ち、転生前の詳細は……殆ど残っていないが、おそらく僅かな記憶にある地形から、レグノーガン王国西部の女性兵士だったと推測される。
おそらくだが、迷宮大爆発かその後の邪竜南進に巻き込まれ、死亡した魂が鬼ノ国付近のこの島まで流れ着いた物と考えられる。
コレらの情報から、彼女のレベル限界が大した事が無いと判明した。
エネルギーを注ぎ込んでも300程度が限度だろう。
うちのサンゾー、ゴンスケ、マツシロー、シンベーも、大体そのくらいが限度だ。
勿論、スライム達も最悪レベル200後半で止まる。
この場で頼りになる手札は、僕とルメール、それから——
僕はルメールの触れている結晶樹に近づいた。
コレしかないかな。




