第6話 吸血鬼動乱
第四位階上位
僕が決意してからヴァンパイアが死ぬまでの時間。
——実にコンマ3秒。
一歩踏み出したその瞬間、突然空から飛来した十字架らしき剣がヴァンパイアの心臓部を貫いた。
目視出来る程の聖属性、青っぽいオーラを纏うその十字架らしき剣は、突き刺さると同時に聖属性を一気に噴出させ——
——瞬く間もなくヴァンパイアは灰へと変わった。
十字架剣は柄から刀身まで真っ黒の直剣で、真ん中に十字架らしき白い装飾が施されている。
聖なる武器であるはずなのに何処か禍々しさを感じる剣、その柄頭に音も無く着地したシスターが一人。
「スノーさん、援護は任せてください!」
——もう終わったよ。
握り拳を作ってグッと構えるシスターアルメリア。一体どこからすっ飛んで来たのやら。
「……あら? スノーさん、今日は可愛らしいお洋服ですね」
「ふふ、煽てても何も出ませんよ? あ、こちらスイカと言うお野菜です、とっても甘いので皆様でお召し上がりください」
「あらあら〜、スノーさんを褒めたら甘いお野菜が出て来ました〜。うふふ」
「ふふ」
「和んでいる場合かっ!」
シスターアルメリアとニコニコ微笑みながら会話をしていると、唐突に背後から白羅が現れた。その後ろにウルルが続いている。
白羅は手を突き出している。その手に持っているのはヴァンパイアが付けていたイヤリング。
頭が弾けたから壊れたかと思っていたが傷一つ無い。そして、その見た目には見覚えがある。
「恐らくこれが陽光に弱いヴァンパイアが日の下で活動出来るからくりだ」
「う〜ん……何か見覚えがありますね〜」
スイカを何処かにしまったシスターアルメリアが、イヤリングを見て何かを思い出そうとしている所に答えを提示する。
「——スキル結晶、ですね」
形状は異なるが、中心に光の玉が浮かんでいるのでスキル結晶だろう。鑑定結果は——
『陽光耐性』のイヤリング 品質? レア度? 耐久力?
備考:スキル結晶『陽光耐性』を加工したイヤリング。
「スキル結晶、か……マレビトの遺産を持っていたのか、或いは精霊島の結晶樹から奪ったか……?」
「考えるのは後にしましょう、今は如何に被害を抑えて殲滅するかです」
精霊島の結晶樹とやらがとても気になるが、それよりもシスターアルメリアの発言が妙だ。
まるでヴァンパイアが複数いる様に聞こえたのだが……。
……ほう?
発言を訝しみ、『結晶大王蟹の御霊』と『古の不死賢王の御霊』を発動して能力の底上げをし、耳を生やして周囲を詳しく調べてみた、すると——
驚いた事にこの街、複数のヴァンパイアに囲まれていたのだった。
壁の外側にいるヴァンパイアの数は、概ね二十体程。その内一体が少しだけ強い個体で、他の十九体は今死んだ奴と同レベルから少し強いくらいだ。
つまり……一体でも壁の中に入れば大惨事である。
何故か物凄い超反応で此方を振り向いた白羅は、何も付いていない僕の頭を見た後目をこすってもう一度確認していた。所謂二度見である。
そして僕の頭に耳は生えていない。
「領主代理のアスィミ様とギルドマスターのヴェルツ様に協力を仰ぎに行きましょう」
戦力から考えて、ヴァンパイアとまともに戦えるのは、人間なら僕、白羅さん、シスターアルメリア、ヴェルツさん、タク達。
タク達は流石にレベル差があるので、全員で一体とボス戦をやるのが精一杯だろう。
特に今回は、全ての敵と戦う短期決戦にしないといけない。人間で最低でも五体潰す。
まぁ、シスターと白羅さんなら一人で三体くらいは余裕で仕留められそうだが……最悪を想定するならこのままの計算で行こうか。
僕の配下だと、ウルル、ネロ、白雪、雪狼、雪だるま姐さん、リッド、イェガ、クリカ、騎士像さん、戦士像さん、うさーずと鷲君、レイエルとミルちゃん、くまーずとメロット、これで十三体。
それから既に復活している筈のゴーレムガーディアン、ゴーレムスカーレットナイト、で二体の合計十五体潰す。
万が一に備えて冒険者、兵士、ゴーレムソルジャーを外壁内部の防衛に当たらせよう。
……うん、勝てる。
魔石が心許ないが、洞窟の殲滅で手に入れた魔石を使えばノーライフで全員を強化しても五分は持つ。
その間に勝負を決めれば良い。
「……そうだな、聖典教は役に立たないからアスィミ殿とギルドマスターのみに協力を要請するのは正しい」
「そうですね〜、聖典教の皆さんは今弱体化していますから……とにかく急ぎましょう」
どうやらシスターアルメリアは聖水を売っていた聖典教とは違う宗派のシスターらしい。
謎の人物である。
と言うか十字架剣はもしかして聖剣の類では無いだろうか?
聖剣と言えばセイトの持っている剣だが、アヤとマガネが持っている剣も聖剣の一種である。
格で言うならこの十字架剣はカルキノスやノーライフの武器と同格に感じる。
本当に謎の人物である。
ウルルに乗って移動中、身内の皆にメールを送り今の状況を説明した。集合場所は事件現場だ。
その作業を、僕の後ろに乗ったシスターアルメリアが不思議そうに見ていたが、特に声を掛けてくる事は無かった。
矢鱈と嬉しそうに僕にしがみ付くシスター、身長差的に僕の後頭部辺りに柔らかいクッションが押し付けられ微かに甘い花の香りがする。
なんと言うか……やはり体が大きいと安定感がある。
小さいと何かと便利だが、パワーやバランスの点から見ると大きい方が良い。
シスターアルメリアの大きいは一部限定でアンバランスだが、僕より安定感はある。
白羅は、そこそこのスピードで走るウルルの横を涼しい顔で並走している。
トップスピードはもっと早いのだろうが、 白羅だけ先に行っても解決にはならないと言う事だろう。




