第6話 迷宮を喰う
第四位階中位
詳細不明ながらも、大きな、それでいて小さな人型は、棍棒を振るった。
「ちゅー!」
「ちゅっ!」
「ちゅちゅー!」
「うわー、食べ辛ーい」
亜人型モンスターの中ではコボルトに近しいか、鼠型で二足歩行の獣亜人である。
ただそこらの亜人種と違う点は、この種がおそらく土属性の鼠から進化したであろう点。
棍棒を扱う原始的な行動パターンこそゴブリン等に似る物だが、コイツらは平然と魔法を使う。魔物的要素を引き継いでいる。
まぁ、端的に言えば、生まれ付いての魔法戦士。
そんな奴が弱い筈がない。
ちゅーと甲高い叫び声をあげ、鼠の戦士は僕へ大きく振りかぶって棍棒を振り降ろした。
僕はそれを体で受け、次の瞬間棍棒から射出された石の塊を受け止めた。
棍棒を振る動作こそ避け易い物だが、それに続く石弾の射出は十分に驚異的だ。
想定レベルは15程。
レベル20に統一した我が眷属達も、元が弱かったり時間が無かったりで、このままでは苦戦やむなしだろう。
レベルの上昇に伴う演算力の上昇。それに合わせたスキルの共有をしていたが、そのままでは鼠達に消耗戦を仕掛ける事になるので、致し方ない。
僕の消耗は増えるが、此処は僕が闘気の錬成、供給を行い未熟なスライム達の演算力は闘気操作に全振りして、基礎能力を嵩増しする事にしよう。
そんな訳で、取り敢えずテストとして3匹のバトルスライムを解き放つ。
初撃、スライム達は鼠達の大振りな振り下ろしを回避し、続けて割と正確に放たれた石弾を闘気で粉砕、即座に鼠へとって返し、文字通りぶち殺した。
今回は上手く行ったが、操作能力の誤差次第では、当たりどころによって生き残ったりもするかもしれない。
まぁ、此方も数がいる。仮に僅かな間命脈を保っても、直ぐにそれを断ち切る事が出来る筈だ。
そんな訳で、僕は初めて知的生命体を捕食した。美味かった。
◇
なんだかんだで第五層は危なげなく殲滅を終え、第六層に到達した。
此方の平均レベルも25まで上がり、好調の中迎えた第六層。
出て来る敵は、先の鼠達の強化版だった。
想定レベル18。ただし、実質戦闘力25程。
太い木の棒を振り回していた原始時代から一気に鉄文明へ進化した鼠達は、木製の盾や鎧で防備を整え、鋼の剣や槍を振り回し、変わらぬ投石をしっかり遠距離から打って来る厄介さ。
武装によってその姿形も僅かに異なり、連携もしっかりやって来る為、厚みのある戦闘が各地で繰り広げられる。
僕の供給する闘気でレベル25のバトルスライムが放った一撃を受け、瀕死にすらならない大盾持ちや全身鎧。
打撃を見越して武器で受けようと努力はする剣士や槍士。
それらとの程良い激戦はスライム達を成長させてくれるだろう。
そんな期待と共に殲滅は進み、無事第六層の攻略は終わった。
最新部に待ち構えているのは、ボス部屋の門。
避け得ぬ激戦とその果ての旨味の香りに、スライム達のワクワクが僕にも伝わって来る。
果たして、押し開いた先にいたのは——やはり鼠だった。
だが、ただの鼠では無い。
額に双角。
——鬼の鼠。
鼠の鳴き声と共に、その声は響いた。
『おォぉ! つ、遂ニモんが開イたカッー!!』
鬼鼠は刀を引き抜き、唾液を撒き散らしながら吠え狂う。
『そ、其処ヲ退ケーッ! 拙者ノかたナのサビとしてくレル!!』
大分壊れているが、転生者だ。
『名を名乗りたまえ』
一応念の為、会話を試みる。
果たして、鬼鼠侍は動きを止めた。
『お、オお、おオぉ、せっ、拙者ハ、オに、鬼斬りサンゾーと申す! お、女コ供は! 斬ラヌ! 刀を抜けィィッ!』
『遺告はそれだけ?』
『ユ、遺言、ゆイッ、真の、もノ、ものノフに、語る言葉ナシッ!』
僕も十数日振りの会話を楽しみ、刀を抜いた。
正確には体の一部だが、金属化させたそれはそのまま刀と言って良い。
侍君は、僕が刀を手にした事を見て、即座に斬りかかった。
『キィエェェェッ!!』
『よく鍛えられてる』
振りかぶられた斬撃には、闘気が宿っていた。
レベルは多分30にも到達していないだろうに、大した物である。
かつてはそれなりに優秀な侍だった……のだろうが、鬼が鬼斬りとか言っている手前、おそらく辻斬りの類い。
とても褒められた物ではあるまい。
僕は数合刀を合わせてやってから、慈悲を垂れた。
『スライムになーれ』
『キィエェェッ! ガフッ』
振られた刀を斬り捨て、心臓部に刃を突き立て、引き抜いた。
血を吐いたサンゾーは、刀を握ったままよろよろと後退り——
『……我が鬼生、一片の悔いも無しぃ』
そう言って、前のめりに倒れ伏した。
今は鼠生だし次はスライム生だね。
それと真のモノノフに遺言は無いとか言ってなかったっけ?
まぁ、辻斬りにモノノフも何も無いか。
そんな訳でサンゾーの魂を回収し、迷宮の支配から脱却、スライムの義体をあてがう。
そんな事をしつつも、迷宮の最新部にて、宝箱を開いた。
出て来たのは、大した事ない石塊を飛ばす程度の槍。
まぁ、せっかくのご馳走なので、宝箱毎ボラシティスライムに食べさせて、僕はメインを頂きに行く。
そう、迷宮核だ。
ちょっとした壁の絵柄に擬態しているそれを引っこ抜き、侵食を仕掛ける。
迷宮核の持つ指揮権を奪い去り、迷宮の壁等を補強している莫大な魔力を迷宮核に回収していく。
こればかりは僕にしか出来ない事なので、眷属達にはその後僕が回収したエネルギーを分解して貰おう。
それにしても迷宮核。
「うまー」
いや、まだ食べちゃダメだ。




