第3話 見える
第三位階中位
空腹感が収まるのに2日の時間を要し、12日目が早々と終わった。
こればかりは仕方ないだろう。
だってお腹が空いたのだ。13日目も食べ盛りの日になるだろう。
おそらく捕食により、レベルがじわじわ上昇している。
こうしてる今も、木の皮に貪りついてそれを吸収しているので、レベルは微かずつ上昇している筈だ。
それにしても美味い。木の皮はここら辺では1番美味しいご馳走かもしれない。
内から滲み出る仄かな渋味。齧る毎に広がる旨味の暴力。時折混じる甘味のアクセント。
そうかと思えば次第に旨味より甘味が強くなり、仄かな辛味がチラチラと抜けて行く。
いやいや、食べてる場合じゃない。取り急ぎ、理性のある内にインベントリのスキル結晶を使っておこう。
そんな思惑で開いたメニューは、極めて簡素だった。
ビッグスライム ユキ LV10 状態:『飢餓(永続)』『暴食(永続)』
・スキル
『錬金術』
『消化』
『分解』
『吸収』
『過食』
『貪食』
『暴食』
表示されたパラメータは中々酷い。
スキルレベルが表示されて無い所もそうだが、特に未知のお食事スキル3点セットとそれによる物と思われる状態異常はやがてはどうにかせねばならない代物だ。
また、パラメータ以外にも酷い事がある。
スキル取得の欄が消失している点だ。
おそらくスキルポイント自体も無いだろう。
これでは、精神耐性等の、こう言った状況で便利なスキルが容易に取得できない。
1から生えて来るのを待ち、鍛え直すしか無い様である。
更に、ストップ機能も失われていた。
前回悪用の限りを尽くした結果だろう。
やはり、常に全力に戻れる休憩での使用はズルが過ぎたか。
致し方ない事である。
今出来るのは、ステータスの確認と、持ち込み枠、持ち帰り枠の設定、それからゲームの離脱のみである。
早速持ち込み枠から、インベントリのスキル結晶を取り出す。
ぷよんと背中に乗ったそれ、何も感じる前に刹那の見切りで使用する。
力の根源が飛び出し、僕に入る。
その時には僕の知性は飛んでいた。
んまーいーー!
◇◆◇
それは知性なき怪物。
大気を喰らい、大地を喰らい、草木を喰らう。
僅か数日で肥大化した体は、尚も成長を続ける。
それは未だ、小さかろうと、やがて大いなる脅威。
また、それは光を纏った。
今度は核を無くし、それを並大抵の者であっても容易に倒せる様な手段は、永久に失われた。
◇◆◇
はっと気付くと、2日が経過していた。
本日15日目、激甚な旨味や甘味に意識が飛ぶと言う想定していた失態に、気付けば飢餓と暴食の相乗りを受け、地の底からのリスタートである。
とは言え、流石僕と言った所で、僕は進化していた。
ヒューマンスライム ユキ LV30 状態:『飢餓(永続)』『暴食(永続)』
・スキル
『錬金術』
『消化』
『分解』
『吸収』
『過食』
『貪食』
『暴食』
『人化』
味の宝箱である魔水晶をころころ転がしながら、今回は比較的浅い穴からの脱出を試みる。
取り急ぎ試すのは、人化だ。
僕の器用さの事だから、てっきりメタモルスライム辺りになるかと思ったけど、直接人間側になったらしいな。
そんな訳で人化を試すと、不意に視界が生まれた。
青い空に、白い雲。
周囲を埋め尽くす草花に木々。
——そこらを飛び交い、また地を這う虫達。
はぁぁぁぁ…………。
気付いてはいた。
いない筈がないと。
必然食べてない筈もない。
時折感じる旨味の塊の正体には気付いていたさ。
僕はのそりと穴から脱すると、改めて体を見下ろした。
人化と言いつつも、人の形状を作れているのは上半身のみ。
ちゃんとワンピースを着込んでいるのは流石僕と言った所だ。
胴体部分には核が存在するが、それもやがては消滅するだろう。
と、言った必要な確認だけ済ませ、人化を解除した。
世の中には、見えない方が良い事だってあるのだ。
良いじゃないか、美味ければ。それが何かを考える必要は無い。かもしれない。
取り敢えず、陽光属性魔力の放射方向、太陽の位置と気温の変化から割り出した方角を頼りに、南下してみる事とした。
◇
進む事暫く。
旨味と現実との激しい闘争を制し、食んだ草の裏に旨味を感じた時のショックに耐え抜いて、大地を這っていると、それに遭遇した。
僕の魔力感知の視界には、僕よりも小さな水饅頭を捉えていた。
取り敢えず人化し、それを見下ろす。
「ふむ……」
スライムだ。
おそらく、普通のスライム。
直ぐに気になったのは、そのスライムの味だ。
その辺り、飢餓と暴食のデバフは本当に僕の凡ゆる行動を阻害している。
まぁ、それはともかくとして、スライムに指を突っ込んでみた。
感じたのは、旨味と甘味、そして微かなエグい苦味。
「……」
チョンチョンと指を差し込むと、スライムはそれを嫌がってか離れて行こうとする。
このエグい苦味……おそらく同族を喰わない様に設計された苦味だろう。
だが、おそらく力の差が大きすぎるが故に、苦味も薄い。
自然な話だが、スライム種の最適な捕食対象はスライム種である。
この適者生存では無く弱肉強食が支配する世界では、より強くなった者が生き残る方が合理的なのだ。
故に、おそらくこのスライムは、僕に対して激甚な苦味を感じている
一方強者である僕は、このスライムに旨味や甘味を感じている。
僕は少し悩んだ末に、スライムをパクリと捕食した。
行なったのは、魂の眷属化。
いやなに……利用できる物は利用しようと思っての事である。
これからスライムは出会う毎に眷属化させて行こう。




