第2話 飢餓の怪物
第二位階上位
それは突如として現れた。
周囲の凡ゆる物に喰らい付き、捕食する、謎多きスライム。
土も石も、木も草も、花も関係なく喰らうその様は、まるで何かに追われている様だった。
それは己が心の赴くままに、ただただ、捕食を続けていた。
◇◆◇
はたと気が付くと、そこは土の中だった。
否、意識を失った訳では無い。ただ、意識の大半が別の用途に使われてしまったに過ぎない。
己のはしたない捕食に、少しの恥ずかしさを感じつつ、考察する。
まぁ、考察という程の事もない。
——極めて空腹。
その湧き上がる飢餓に追い立てられるままに、僕は大地に広がって、最も大事な核部分をほっぽり出しながら、大地と大気への接触面積を増加、ひたすらに捕食を繰り返していた。
合理的な所は結構だが、地面の底に埋まっていては笑えない話だ。
岩に沈んだアイの気持ちが分かると言う物である。
この空腹感を一頻り満たすのに、体感3日程の時間が掛かっていた。
取り敢えず僕がやらなければならないのは、穴からの脱出である。
その為にも、まずは土の上の方を捕食し、なんとか上に登って行く必要がある。
そんな訳で、土を食べた。
うまい。
じんわりと広がる旨味。その中にあるのは、甘味と塩味だ。
小石や砂利からは強い旨味と微かな塩味、ほぐれた土からは甘みが感じられる。気がする。
おまけに食べた大気からは、ほぼ無味に近いながらも、おそらく微生物やウイルス、精霊の類いの味か、時折辛味が走りながらも、程よい酸味や甘みが感じられた。
スライムの味覚は中々面白い。
そんな感想を抱きながらも、数えた秒数から、早2日。
どうにか初期地点を脱する事に成功した。
さぁ、今度こそ移動を始めようと、大地と大気の捕食を続けながら進んだ所で、それは起きる。
——進化だ。
体が熱くなり、溜め込まれたエネルギーが肉体を変質させる。
大方、プチスライムからスライムになるくらいの進化だろう。
それにただ身を任せると、光という形でエネルギーが漏出してしまうので、魔力をどうにかコントロールして漏出を抑え、進化へと力を注ぎ込む。
果たして、進化の律動はやがて収まり、多分サイズが大きくなった。
まぁ、進化するに越した事は無いので、取り敢えず良しとして——
次の瞬間、僕は再度意識を失った。
◇◆◇
それは、小さいながらも、捕食の限りを尽くした。
それは、スライムの形をした別の何かだった。
それは、ただひたすらに捕食を重ね、土を喰らい、草を喰らい、木の皮に貪りつき、その果てに進化の光を纏う。
その進化の光さえも喰らわんとするその様は、まさしく摂理を乱す怪物だった。
◇◆◇
はたと、また目を覚ます。
いや、気絶していた訳では無い。
ただ空腹に追われるままに、また3日間も捕食をしていただけである。
心なしか広さが増した穴の中で、僕は再度脱出を試みる。
上の方の土を喰らい、足場を作って、徐々に上へ登って行く。
2度目となれば、もはや慣れた物である。
その間にも、考察は続いた。
進化って物はお腹が空くのか、それとも進化する事で胃が拡大して相対的に空腹になっているのか。
ともかく、気をしっかり持たないと、また飢餓に襲われて穴に埋まる事になるだろう。
いや、そもそも抗える物なのだろうか?
この僕が、力の幾らかを封じられているとは言え、何も出来ずに飢餓に呑まれるなど。
飢餓とはそこまで強力な感覚だっただろうか?
……分からない。
ただ、取り敢えず言えるのはバアルとかを馬鹿に出来ないなと言う事。
まぁ、大方、単なる飢餓感だけじゃなく、暴食の原罪も押し付けられているのだろうと推測が付く。
ともあれ、こんな状態では、遊技神が僕に何をさせたいのかも分からない。
この飢餓と食欲を御してからが、この世界攻略のスタートになりそうである。
そんな訳で、1日掛けて穴から脱出。
食欲に促されるままに捕食を続けながら穴から離れていると、不意に体に何かが刺さった。
それは、旨みの暴力だった。
——うまーい。
おそらく葉っぱである。
地面から生える草の一部で、土や大気と比べると別格の旨さ。
これは土食ってる場合じゃない。
繁茂する草をもこもこ取り込んで、ほんのり苦い根っこまで食べ尽くす。
根っこの周囲の土は、そこはかとなく別の味がしたので、折角だから食べておく。
それを丸一日繰り返して、気付くとまた、進化の光が僕を包んでいた。
——今草食べてるから!
後にして欲しい気持ちが大きいが、進化キャンセルは不可能である。
致し方なく進化に集中し、程なくその律動が止まる。
訪れたのは、飢餓の衝撃。
だが、今回ばかりはそれをどうにか耐え、草を喰む。
何なら体を大きく広げ、土や大気毎捕食を行う。
理性が飛ばなかったのは大きな進歩だが、行動が変わらないのでは意味が無い。
草は取り敢えず引っこ抜きつつ、穴に埋まらない様、僕はのそのそと移動を開始した。
◇◆◇
それは更なる成長を続ける。
並大抵のスライムではあり得ない急成長。
何物をも喰らうその怪物は、まさに飢餓の怪物。暴食の権化と言うに相応しかった。
僅か数日で肥大化した肉体は、更なる暴食の礎となり、怪物は思うがままに吸収を重ねる。
それが止まる日は、おそらく来ないだろう。
底抜けの飢餓。
無尽蔵の暴食。
それは原罪の権化故に。




