第6話 吸血鬼騒乱
※60万PV達成
第四位階上位
ヴェルツさんは、その報告を聞くと即座にカウンターの下から武器を取り出し、冒険者達を引き連れて現場へと向かう。
身内の皆にも向かう様に指示を出し、僕はウルルに騎乗して現場へと先行する。
逃げる市民を潰さない様に屋根の上を駆け抜け、辿り着いたそこは酷い有様だった。
「う、うぅ……」
「いてぇ、いてぇよ……!」
「おかあさん! 誰か!! おかあさんを助けて!」
門のすぐ前にある広場、そこは、腕が切り落とされていたり、四肢が折れ曲がっていたり、或いは壊された家の瓦礫で下敷きになっていたりと、市民も冒険者も問わず死屍累々とした惨状であった。
今直ぐにでも死んでしまいそうな人はいるが、幸いな事に死者はいない様だった。
わざと即死しない程度に攻撃したのだろう。
取り敢えず近場の、胸元が鎧ごと陥没し意識を失い血を垂れ流している兵士らしき人を治療する。
錬成で鎧を修復し、上級ポーションをぶっかけた。
酷い有様だったその体が瞬時に修復される。
一命を取り留めた様なので、同じ様に致命傷者には上級ポーション、重傷者には中級ポーション、軽傷者には下級ポーションを使う。
そうやって怪我人を治療して回っていると『疾風』の少女冒険者が倒れているのを見つけた。
一人は真っ青になって気を失っており、外傷は殆ど見当たらない。
対してもう一人は、手足を滅茶苦茶に砕かれ、背中から腹へと剣が突き刺ささり地面に縫いとめられている。
近くには聖水が入っていたと思われる割れた瓶が転がり、少女を縫いとめている剣には、僅かに聖属性を感じる液体が付いている。
とにかく、今にも消えそうなその命を救わなくてはならない。
剣を引き抜き患部に上級ポーションを使う。
砕かれた四肢や裂かれた腹を治療し終わり、少女を抱き起こして前にも傷が無いか確認しようとすると、少女が僕の手を握った。
「……お願い、します、キナを……キナを、助けて……ヴァンパイアに……血を吸われたの……お願いします、お願いします——」
驚いた事にこの少女、気絶していなかったらしい。
無造作に剣を引き抜いたけど……それで起きたのかな?
「大丈夫、キナさんは助かりましたよ」
とにかく、失血で焦点があっておらず嘆願を繰り返す少女を安心させる為に、軽く嘘を吐き優しく頭を撫でてみる。
まぁ、助けるしね。
僕の言葉を聞いた少女は、涙が伝う顔をほっとした様な表情に変えて意識を失った。
少々血が足りなさそうだが増血の効果を持つ魔法薬は作っていないので、血刃と操血魔法、解呪の浄化能力を使って飛び散った血で補充しておいた。
病気になったら上級ポーションを毎日届けよう。
続いてキナ何某、昨日パンケーキを頬張っていた弓少女を診る。
ヴァンパイアに噛まれたのは間違い無いらしく、首に何かが突き刺さった様な痕が二つ残っていた。
キュリナ LV8 状態:鬼化《微》
正式名称キュリナさん。状態異常の鬼化とはヴァンパイア化の事だろうか?
吸血姫の服に着替えて詳しく探ると、キュリナさんの体内にキュリナさん以外の魔力が混じっている事に気が付いた。
その魔力は微かに不浄を帯びていて、キュリナさんの魔力をそれと同じ物に変えて行っている。
その進行速度は遅く、しかし確実にキュリナさんを侵食している。
取り敢えず僕の魔力を流し込み、不浄の魔力を包み込んで解呪を掛けてみた。
そのまま経過を見守ると、どうやらうまく行った様で不浄の魔力が薄くなった。
もう一度解呪をかけ不浄を完全に祓ってから、取り敢えず解呪を利用して聖属性を付加した上級ポーションで回復させておいた。
無いよりマシな効果だろうが、正しくやらないよりマシであろう。
「あら……」
スノーモードな僕が珍しく疑問の声を上げた理由は、その少女達が急に光に包まれたからだ。
光が晴れた場所にいた二人の少女は、外見的に殆ど変化は無いようだが、魔力的には随分と変わってしまっていた。
キュリナ 半護法 LV20 状態:眷属 《ユキ》
ジーナ 半血操人 LV22 状態:眷属 《ユキ》
……南無。
取り敢えず病気の心配は無さそうなので、問題無い。
それぞれ、キュリナさんの茶髪とジーナさんの青っぽい髪に銀色のメッシュが入っているが、問題無い。
レベルが倍以上に上がっているが、問題無い。
と言うか、アイの時もそうだけど、僕が何かすると進化するのはどうしてなのかね?
メイド服に着替え直し、ギルドや身内の皆が来るまで治療と分析を続けた所……。
どうやら吸血鬼は街の中へ逃げたらしい。
非常に不味い事態と言えるだろう。
真昼間から日の元を歩ける事から、そのヴァンパイアがデイウォーカー。陽光の克服者である事は疑いようが無い。
人の中に紛れ込んだら魔力以外で見分けるのは難しいだろう。
「おに、スノーさん!」
「スノーか! ヴァンパイアは何処だっ?」
駆け付けて来た身内の皆はすぐ様に僕の方へと向かい、遅れて来たヴェルツさん含む冒険者達はそれにつられる様に僕の元へと集まって来た。
「ヴァンパイアは市内へ逃亡した様です。ヴェルツ様、冒険者の皆様方はここで救護活動を。ヴァンパイアは我々が追います」
「ちっ! わかった!」
「皆さん、行きますよ」
『了解!』
幸いな事にリーダーであるヴェルツさんが言う事を聞いてくれたので冒険者達は救護活動に動いてくれた。
状況を見て即座にD級以下の冒険者達では二次災害になるだけと判断した様だ。
各自昨日と同じペアになってヴァンパイアを探索する様に指示を出し、大丈夫だとは思うが噛み付きに気をつける様に注意しておいた。
僕はウルルと共に屋根の上に乗り、吸血姫の服を着て耳を生やし、吸血鬼の気配を探る。
そして——
「……見つけました。ウルル」
「ウォン!」
不浄の気配があったのは街の西側。スラム街がある所だ。
人の陰の気が集まる方に引かれたのだろう。そこには微かに不浄の気配が生じていたから。
敵の数は一体。そして、その不浄の直ぐ側には——子供達の気配。
「急ぎますよ『古の不死賢王の御霊』」
「ウォン!!」
『古の不死賢王の御霊』の効果で能力が底上げされたウルルは、踏み込んだ石畳を粉砕しながら加速した。
駆け付けたその場所では、今まさに襲われそうな子供達がいて——
「シッ!!」
「ごぶぁぁっ!!!?」
咄嗟にその側頭部を蹴り飛ばした。
ウルルの背負い投げっぽい加速に、その背中を蹴って更に加速。
その上、和澄の迅斬術から着想を得た人間流戦闘術の、筋肉を順番に動かす事で瞬間加速する技、アヤ命名『瞬撃』で加速。
直撃の瞬間、ボンッ! という爆発音の様な音が鳴り響き、子供達の前でヴァンパイアの頭が弾け飛んだ。
余波で体も吹き飛んで行ったが、これでも死なない可能性があるのがヴァンパイアである。
取り敢えず子供達を気絶させる。
本に載っていた精神魔法の『ショックウェーブ』をそのまま再現した魔力の波を当て意識を刈り取る。
子供達が気絶する直前に『スイカを投げたら弾けてしまいました〜。うふふ〜』と隠蔽工作をするのも忘れない。
言わば、君達が見たのはスイカ、弾け飛んだ赤いのはスイカの汁。と言う事だ。後でアルメリアさんにスイカを寄進しなければ。
「……ぐっ……」
倒れそうな子供達を支え、壁に寄りかからせていると、ヴァンパイアが早くも再生し始めたらしい。
全身をズタズタに引き裂いても復活するのだろうか?
取り敢えず殺り方としては、エンシェント・ワイズマンリッチ・ロードを殺ったときと同じ様な方法で、各部位を切り取っては解呪を掛けて行く、と言うのが良いだろう。
「ぎ、ざまぁ! ごろじてやる!!」
さっさと仕留めてしまおう。




