掌話 神々の残影 五
第四位階中位
「はは……」
それを見た瞬間、俺は渇いた笑いを溢した。
遠目から見ても、一層から三層までの結晶が破壊されているのは分かった。
問題は、木を彩る様に舞う、遠目からも目視出来る程の青い粒子。
そして——
「拳姫! 海狩! 戦えるか!?」
上手い事合流した強者達に声を掛ける。
目前に存在するのは、濁流の様に押し寄せる、種の魔物の群れ。
地面に犇き、まるで巨大な一つの生物の様に此方へ迫る其れ等は、おそらく俺達高レベルプレイヤーの脅威では無い。
無いが、少し慌てるぐらいには恐ろしい光景だった。
まるで鼠の群れでも見てる気分だ。
「当然! 雑魚の群れくらい!」
「まぁ、やれない事は無いだろうな」
「よし! なら各自ばらばらに進め! NPCに貢献度を取られるなよ!」
目的としては正にそれだ。
戦場の後方で控えるNPCの軍勢に貢献度を取られるよりは、多少の無茶を織り込んでプレイヤーで倒した方が良い。
そうと思った瞬間、それは起きた。
《《【緊急クエスト】『シードリングパレードを阻止せよ』が発令されました》》
【緊急クエスト】
『シードリングパレードを阻止せよ』
参加条件
・モンスター『シードリング』の討伐。
達成条件
・モンスター『シードリング』の殲滅。
失敗条件
・無し
達成報酬
参加者報酬
スキルポイント2P
・防具『シードリングリング』
参加者選択報酬
・防具『シードリングヘルム』
・道具『タペストリー:シードリング大暴走』
・MC『10,000MC』
・備考
土神の残影に挑んだ『匿名』達、辛うじて結晶を穿つも、シードリングの群れを解き放つ結果に。
シードリング達は木を登るより平野を駆ける事にした様だ。
戦域のシードリングを1匹残らず殲滅せよ。
「わぁぉ……」
唐突なイベント内イベント。
即座に俺は、極少数の壁の上や壁際にいる観戦者に向けて、拡声スキルを使った。
「全員、聞こえてたな! 参加すればスキルポイント2、おまけにアイテムを貰えるぞ!」
これで、多少は意味があるだろう。
観戦者は大体が生産職、職人系プレイヤー等の戦い慣れていない超低レベル。
それでも、初期武器の鉄系ならば10,000MCでお釣りが来る。
乗らない奴は早々いないだろう。
壁上や壁際のプレイヤー達が動き始めた中、俺達もやや足の遅いシードリングの群れへ突き進む。
——接敵。
少し操気をした剣による薙ぎ払い。
その余波で複数のシードリングが一気に切り裂かれ、多くのシードリングが吹き飛ぶ。
「おお!?」
思った以上の戦果に、少し驚く。
これなら、撃ち漏らし無く倒し切れるだろう。
周りを伺うと、他のメンツもまた同じ様に操気でシードリングを吹き飛ばしたり、モンスターマスター達が複数モンスターを召喚したりして、殲滅を進めている。
次第に他のプレイヤーの参戦も見られる様になり、時折青い粒子が散りながらも殲滅が進められる。
程なくしてシードリングの殲滅は終わった。
《《【緊急クエスト】『シードリングパレードを阻止せよ』がクリアされました》》
《【緊急クエスト】『シードリングパレードを阻止せよ』をクリアしました》
【緊急クエスト】
『シードリングパレードを阻止せよ』
参加条件
・モンスター『シードリング』の討伐。
達成条件
・モンスター『シードリング』の殲滅。
失敗条件
・無し
達成報酬
参加者報酬
スキルポイント2P
・防具『シードリングリング』
参加者貢献度ランダム報酬
貢献度6%
・6,000MC
・スキル結晶『治癒力向上』
参加者選択報酬
・防具『シードリングヘルム』
・道具『タペストリー:シードリング大暴走』
・10,000MC
取り敢えず謎の記念品は一枚欲しいので俺が選択し、皆にはそれ以外の好きな方を選んで貰った。
さて、今更行って間に合うか? とも思った瞬間、フレンドチャットに連絡が来る。
『もしもし』
「コウキだ、どうした」
連絡主は、土神の残影方面の隊長に任命した、重装型の中でも特に強い、ゴウ。
見上げた土神は、既に4層まで崩壊しており、最後の一つを残すのみとなっていた。
『土神方面部隊、総員50名。最終層まで到達するも、精神消耗が主な原因で全滅。撃破し切れませんでした』
「そうか、良くやった。後は俺達が向かう。しっかり休め」
『はい、御武運を』
「おう」
さてさて、専用武技は消耗が激しいんだよなぁ。
そうと思いつつ、俺もチラリと体力バーの横を見る。
表示されているアイコンは、重度の精神消耗を表していた。
「はぁ……」
一息付き、何気に待っている拳姫やマスター同好会の面々に振り返る。
「土神方面部隊全滅だ。これから上に向かうが、着いて来れる奴はいるか?」
その問いに、構わず前に出たのはテルマ達。
迷わず前に出たのは、拳姫達とマスター同好会のメンツ。
「愚問ね」
「誰が出ても恨みっこ無しだな」
「ふん、それこそ愚問よ」
銛を杖代わりに肩を竦めた海狩と、いつもはキリッとした吊り目を半目にしている拳姫。
強い武技持ちこそ消耗が激しいが、皆既に精神消耗だったり召喚可能時間が少ない者ばかり。
精神消耗は行き過ぎれば、武技がそもそも発動せずに意識が落ちる。
やれるかどうかは賭けに近い。
何処まで出来るかの確認と、入念な作戦が必要だ。
◇◆◇
最後の残影と英雄達が相対する。
傷を負った残影は、6つの黄色い翼刃を羽ばたかせた。
「作戦通り、行くぞ!」
『応!』
その声に応じて、最初に動いたのは、マスター同好会。
「コール・アント、コール・アント、コール・アントぅ?」
本日5度目のその魔法は、合計15体のビックアントを突撃させ、初めての精神消耗に小糠雨は地に伏せる。
それを合図に、迫るのはモンスターの群れ。
そして——
「サモン・ブルージェム、爆発」
「シャークジャベリン」
「アサルトファング」
鮫とウツボと青い結晶。更に複数の遠距離攻撃。
それらは狙い違わず結晶に着弾し、そこに迫るのは近距離型。
「ドラゴンファング」
「ファイアプレス」
「クラウドハンマー! はにゅぇ」
「デモンズブースト! 喰らえ!」
「これで壊れなさい!」
格下武技を放つテルマやネネコ。
武技を放って直ぐに落ちた一。
そして武技による強化を受けたアイゼンバーンとなけなしの練気を行なったヨウの拳。
攻撃の嵐とも言えるそれらまでも、土神の残影は耐え抜いた。
英雄を一度退けた土神の威光、その強度たるや、並大抵では無い。
そこへ迫るのは、最後の一撃。
一人、また一人と倒れる仲間の隙間を踏み越え、その刃は振るわれた。
「これで終わりだ、ドラゴンクロー!」
なけなしの操気、出現した竜の鉤爪は結晶と拮抗し——破壊した。
《《【緊急クエスト】【都市クエスト】『舞い降りるは神々の残影』がクリアされました》》
《【緊急クエスト】【都市クエスト】『舞い降りるは神々の残影』をクリアしました》
「はは……」
今度こそ渇き切った笑い。
サラサラと崩れ始めた残影の揺り籠。
精魂尽き果てた英雄達は、その消えゆく砂の塔と共に、静かに地上へ沈んで行った。




