掌話 神々の残影 三
第四位階中位
風神の残影。
それは他の残影と比べて、厄介な性質を持つ。
——中盤での飛行だ。
遠距離武技や魔法以外での攻撃を一切スルーする上、空からは風の魔法やブレスが降って来る最悪の攻撃。
それを防ぐ方法は——
◇
神の残影。
どれも厄介な性質を持つ中で、特に厄介なのはどれかと言うと、私は風神と水神だと思う。
だからこそ、水神をミナモ達が行くなら安心だし、残る風神は私達が行かなければならないと思った。
大方、大剣士達が火神を選んだのは、強化もあるでしょうけど、おそらく生き残る土神に参戦する為でしょうね。
そんな事を思いつつ、戦場に入る。
一応バフを重ねる為、中々美味しいグミとか蟹のお肉とかを食べて、ちょっと早い夕食として攻撃力上がるっぽい高めのバフご飯を食べた。
待ち時間で思い出すのは、あの映像。
大剣士達が塔の迷宮を攻略する際に現れた、チア姉達の姿だ。
鳥の大型魔物を相手に、空中に立って戦っていた。
今まで一切使ってこなかったけど、アレは多分防御系のマナ操作技術、マナシールドの応用だ。
超小型のマナシールドを足元に出現させるならば、理論上私でも出来る筈。
そう思いながら、1人で何度か練習していた。
実戦での利用は初めてだが、思い出すのはイベントステージで見た名無しの英傑の天井蹴りによる攻勢。
アレみたいな事を何もない場所でも出来ると思うと、技の範囲がどれほど広がる物だろうか。
戦場に出て暫し待ち、カウントダウンが0に変わった。
さぁ、どう来る? そう思っていると空に緑のオーロラが掛かり、それが光の柱となって地上に降り立った。
現れたのは、翼を広げる巨大な鳥。
「ケェェンッッ!!」
鳥は翼を更に大きく広げ、大きな叫び声を上げる。
私は光神の残滓で強化したネコシェイプで、白いオーラを纏いながら駆け——
「うるさいのよ!」
高くジャンプした。
更に、極小サイズのマナシールドを宙に発生させ、それを蹴って加速。
翼の結晶目掛けて拳を振るった。
「はぁぁっ!!」
拳は狙い違わず結晶にぶち当たり、込められた練気と衝突する。
果たして、結晶は狙い通り、砕け散った。
翼がボロボロと崩れ去る。
これで飛行能力は奪った筈だ。
高所から着地し、それと同時に残影の爪による一撃を避ける。
いや、チア姉はここで正面から受け止めた!
直ぐにとって返し、鉤爪と殴り合う。
そうこうやってる内に、バランスの為に地面に着かれた片翼に、次々と武技が着弾するのが聞こえた。
残影が標的を変えようとするのに合わせ、更に前に出る。
「余所見なんて余裕ね!!」
瞬時に練った気で、鉤爪へ打撃を打ち込む。
次の瞬間、残影の片翼が失われ、残影が大きく体勢を崩した。
ここぞと更に気を練り、残る全ての魔力を練気する。
此処で焦って練気が浅いと、ただ魔力をぶつけるだけになってしまう。
焦らずしっかりと気を練る事に集中し、魔力を擦り合わせて行く。
残影が体勢を整えようとする刹那、練気を解き放った。
——バキィンと衝撃音。
足の結晶が砕け散り、刹那残影が勢い良く転がり起きた。
口腔に宿るのは緑の光。
ブレスの標的は——私。
「ヨウ!」
飛び込んで来たのは、マイト。
「アースウォール!!」
土神の素材で作り、土神の残滓で強化された盾。
その真価が発揮される。
生じたのは、大きな黄色の壁。
——衝突。
ゴリゴリと壁が削られる中、マイトは一歩前に出る。
「ロックガード!」
こっちは土神素材で作った鎧の専用武技。
現れたのは、黄色いの塊。
それは宙を自在に動き、削られた壁を補填する。
果たして、残影はマイトの壁を破るのを諦め、ブレスを別のプレイヤー達へ向けた。
風神の残影はブレスが長いのも厄介なのよね。
そんな感想を抱きつつ、慌てて防御系武技を使ったり移動系武技を使ったりして逃げるプレイヤー達を見る。
中にはレベルが低いからか、防御しきれず死に戻りしたり、避けても余波で死に戻りする者達もいる。
流石にそっちまでは守れない。私はマナポーションで魔力を補給しつつ、精神消耗に効果のあると言うクッキーを齧った。
……炭酸ジュースとクッキーって戦場に似つかわしくないのだけど、これでも最適解なのよ。
そんな言い訳が思い浮かんだのは、助けを呼ぶ声を無視しているからだろう。
此処は神の残影とか言う怪物が降り立つ事が決まっていた戦場。
自前で自分達を守れないなら自業自得だわ……これも言い訳かな……。
つい守りたくなってしまうのは、あの兄妹のせいだ。
「ヨウ、僕達がこの後風神の足を砕く。ヨウは中心をお願い」
「ふん、任せなさい」
「ヨウなら大丈夫! 問題は私たち」
「それな」
「私の火力の低さを補う為に、ごめんね」
「言いっこ無し! そう決めたでしょ」
ツムギの弱気をしっかり叱り、ようやく敵のブレスが収まった。
「それじゃあ……行きなさい!」
『応!』
合図で駆け出す皆。
最初に仕掛けたのは、ツムギとハルキ。
「ダークインパクト!」
「ストームショット!」
専用武技に気を込めた魔法と矢が飛び、残影の足周りに着弾する。
残影は最後の一本足に強打を受け、再度体勢を崩す。
そこへ迫るのはアサヒとマイト。
「ウォールハンマー!」
「デトネイションブレイド!」
巨大鎚と炎の大きな斬撃が足に着弾し、色味が薄れていた結晶が砕け散った。
さぁ、ラストだ。
最後の結晶は、他の残影と違って少し高く飛ぶ。
本当に少しだが、剣や槍の通常武技では届かない高さだ。
必然、ただの拳も届かない。
だからこその足場だ。
「これで——」
ボロボロと体が崩れ、現れた結晶が浮遊する。
それに合わせて、私も師匠と同じ白猫のオーラを増大させ、大きく跳躍、更にマナシールドを出して宙を蹴り——
「——終わりよ!!」
——可能な限りのオーラを拳に集束させた。
風の翼刃が迫るよりも早く、拳を振り抜く。
接触——
——爆散。
キラキラと緑色の粒子が飛び散り消えゆく中、何とか着地し、ネコシェイプを解いて片膝を突く。
平気な顔して立っていたかったけど、本当に練気直後は疲れるわね。
「はぁ……はぁ……」
出現した木箱をクランインベントリに仕舞い、荒い息を吐いてどうにか呼吸を整えようとするも、地面に手を突いた。
「はぁ、くっ……土神……」
「移動だけしようか、ハルキ」
「任せて!」
土神の残滓が手に入れば、マイトをもう一段強化出来る。
どうにか残滓を一つ、そうでなくても結晶の欠片を手に入れたい所。
私はハルキに背負われながら、暫し呼吸を整える。




