閑話 小糠雨、さらさらと
第四位階中位
残影との戦いに備えて未探索の祠を回っていると、唐突に落下した。
「いたた……なに?」
『姐さん、大丈夫か!?』
『コヌカ姉!?』
『コヌカさん!?』
繋ぎっぱなしだったフレンドチャットから心配する声が次々と聞こえて来る。
「大丈夫よ……なんか洞窟みたいな所に落っこちただけ…………」
壁が光って暗がりを照らしている為、取り敢えず心配ない事を伝えようとした所で、それは現れた。
「あらまぁ」
「ッ!!」
——蟻の群れ。
「サモン」
その一声で召喚したのはガーディアンアント。
誘引スキルによって一抱えもある蟻達が引き寄せられ、次々と叩き潰される。
「不味いわね」
殲滅は無事終わったけど、明らかに此処は蟻の巣。
規模は人が探索出来る様になってるのか蟻のサイズの割に広い通路だが、その分囲まれる危険性が高い。
《【緊急クエスト】【村クエスト】『巣窟は迫る』が発令されました》
『なん、だと……?』
『緊急クエストだぁー!』
『コヌカさぁん? 今どちらに??』
「土の都市の西部山林だけど」
そんな報告をしつつ、状況を伝える。
「通路に穴が空いたみたいで、高さ的に脱出は難しいわね。蟻の巣みたいだから前後どちらかが出口に繋がってるんでしょうけど……」
困ったわ……私、こう言う賭けには弱いのよ。
◇
幸い、敵はそう大した強さでは無く、初期のビックアント並みだった。
今や見上げる程のジャイアントアントと比べると、大人と赤子並みの差だ。
次々と襲い掛かって来る蟻達は、ガーディアンアントを前に大した抵抗も出来ず、時折蟻酸によるダメージがあるくらいだった。
ただ、大きな問題がある。
それは……。
「不味い、不味いわ……召喚時間が……」
——召喚可能時間だ。
レベル30で進化をさせたばかりだから、召喚可能時間が大きく減っている。
あと持って10分くらいだろう。
他の子達の召喚は出来るが、皆まだ第3段階に到達していない。
そして、取り敢えず脱出の為、選んだ道を更に逆にすると言う禁じ手を使ったにも関わらず、出口は未だに見えない。
何度目かの小部屋と、モンスターパレード(蟻)を殲滅した所で、遂に時間切れとなった。
「くぅ、召喚可能時間の重要性よ」
『わっかるぅ』
『わかるわー』
『わかります』
『それなー』
『うんうん』
『まじで』
何なら送還して再召喚すれば、召喚可能時間を消費して欠損とかを再生出来るし、意外と重要なのよね。
そんな事を思いつつ、ソルジャーアントとアシッドアントを召喚し、戦列を組んだ。
暫し進むと、それは唐突に現れる。
「むぅ? これは……」
敵の蟻が、いつの間にか、刺々しく変化していた。
気付かず殲滅していたが、明らかにビックアントの中のソルジャーアントやガードアント。上位種だ。
「どうやら、私は選択を誤ったらしいわ」
そんな風にカッコつけつつ、更に暫く進み、そろそろ召喚時間が気になって来る頃、その時は訪れた。
小部屋に入ったと思ったそこは、大部屋。
奥のどん詰まりにいるのは、ジャイアントアントクラスの大蟻5匹と数十はいるビックアント。
——ボス戦だ。
そうと認識した刹那、私は残りの蟻達を召喚した。
◇
「サモン」
その一声で、コマンダーアントとワーカーアントを召喚した。
即座にアシッドアントが酸弾を放ち、敵の数を撃ち減らす。
迫るのは、4体の大蟻とビックアントの群れ。
体躯で同型のソルジャーとコマンダーが前に出て、敵のおそらくソルジャーアントとガードアントと思わしき4体を相手取る。
一方ワーカーは雑魚の殲滅に動き、アシッドはそれの援護に回った。
防衛線はワーカーアント。そこを越えたら私が死ぬから遠距離型のアシッドにどうにかして貰うしか無くなる。
果たして——
「ううん! 予想通り!」
敵のビックアント達は、その数を大いに使い、数匹がワーカーの防衛線を抜けて此方に迫る。
いや、レベル的には勝てる筈!
そんな思いと共に後退り、アシッドが数匹を撃ち減らした所で、接敵。
「こなくそ!」
申し訳程度の棒を振り回し、敵の足止めをする。偶々当たった1匹が弾け飛ぶ。
無意味にも等しい稼いだ数秒で、アシッドが1匹を捕らえては牙を剥いて撃破する。
そして1匹の蟻が、私の腕に噛み付いた。
「いっ! たくないわね、この!」
流石にレベル差があるからか全然痛くない。
次々とすり抜けて来るそれを捕まえては、捻じ切る様に腕力で殺害した。
惨い、がそれしか出来ないとも言う。
とにかくひたすらにそれを続けていると、少しして何かおかしいと気付く。
明らかにビックアントの量が増えている。
奥に道があるかと思えばそれは無く、しからば、何かをしているのは残りの大型蟻に違いない。
蟻達に噛まれながら、蟻酸でピリピリする痛みに耐え、観察していると、それは起きた。
後方に控える大蟻が、その奥にあった結晶の様な物に齧り付き、続けてピカリと僅かな光。
それと共に現れる、ビックアント数十匹。
「ピカリ⭐︎ じゃないのよ!」
『コヌカ姉がキレた!』
『ピカリは草』
『西部山林には着いたんですけど穴を探すのはちょっと、もう自力でボス倒せたりしませんかね』
「やってやるわ!」
『骨は拾います』
スピ君にそう返しつつ、体力に気を使いながらも積極的にビックアントを始末しに掛かる。
此方が速度を上げる事で敵の召喚ないし生成速度を上回り、遂にワーカーアントの防衛線に辿り着いた。
「私は良いから行きなさい!」
そう指示を出すと、ワーカーアントは最前線へ向かう。
これで数的不利に晒されている最前線の状況が変わる筈。
後は野となれ山となれ、こっちに向かって来る大きな影あらば私の負けだ。
果たして——
ソルジャーアントの振り下ろした一撃が、相手のソルジャーを吹き飛ばし、コマンダーが的確にガードアントを抑え、ワーカーが必死にガードアントと向かい合う。
僅か一瞬の一対一にソルジャーアントは腕を噛みちぎられつつも、相手の首に牙を突き立てた。
「ちぎりなさい!!」
ビックアントを引き千切りながらの私の声に、ソルジャーアントは見事に応え、相手のソルジャー1体の首を断ち切る。
そこからはトントン拍子だ。
戦場に戻った敵のソルジャーに、レベルでおそらく優っているうちのソルジャーが襲い掛かり、それを撃破。
そうこうしてる内にコマンダーがガードアント1体を屠り、ソルジャーと共にビックアントの殲滅に移る。
それから少しして、ワーカーがガードアントを撃破し、最後の1体に迫る。
「キシャー!」
「仕留めなさい」
その一声で前衛3匹が牙を剥き、女王蟻と見られる個体を切り刻んだ。
《【緊急クエスト】【村クエスト】『巣窟は迫る』をクリアしました》
《レベルが上がりました》
「……ふぅ、此方小糠雨。任務完了、帰投します、と」
『お疲れ様やで』
『お疲れさまー!』
『お疲れ様です』
『乙です!』
『スキルポイントあざます!』
皆の労いの言葉を聞きつつ、入手アイテムを見る。
先ずは落ちてきたティアラを被り、次に黒い夜の様なマントを羽織った。
敵が大した事なかったから大した装備じゃないだろうが、何も無いよりは良い筈だ。
最後に大量の蟻の死骸や女王蟻らしき物とそれが食べていた結晶を貸しバックに詰め、見落としが無いか辺りを見回してから、道を逆走する。
◇
暫く歩み、召喚可能時間を節約しながらどうにか脱出に成功すると、小さな出入り口がボロボロと崩れて消失した。
多分、一回限りのインスタントダンジョンか何かだったのだろう。
その後スピ君とどうにか合流し、黒霧さんのいる店に入った。
暫しの待ち時間を経て、買取や鑑定、相談をして貰う。
「ビックアントが合計で147匹、合計15万と8,750MCになります」
「まぁ、そんな物よね」
「続けて此方の魔晶石ですが、破片も合わせて合計で150万MCで買い取り出来ますが、よろしいでしょうか?」
「100万超え……!? も、もちろん売ります」
てっきりボスのおまけだと思ってた物がそんな大当たりだなんて……そっちが本命のお宝だった訳ね。
時間的に考えると当たりクエストだわ。
「続けて、此方のティアラと外套ですが」
黒霧さんの説明によると、ティアラの方が、コール・アントの呪文でレベル8相当のビックアントを5体、数十分召喚出来る能力。
マントの方は、アントガードの呪文でレベル15相当のガードアントのオーラが出て、暫く身を守ってくれる装備だった。
レベル的に見ると、やっぱり初心者向けのクエストだったみたい。案外さらっとクリア出来たのも納得だわ。
「因みにですが、それぞれ80万MCとビックアントマザーの素材、ジャイアントアント4体の素材で2つの装備を強化出来ます、内容は——」
更なる黒霧さんの説明によると、ティアラの方は、コール・アントの呪文で、最大レベル15までのジャイアントアント一度に最大5体、もしくはビックアント10匹を数十分召喚出来る様になり、マントの方は出現するオーラをレベル30相当のガーディアンアント並みまで引き上げられるそうだ。
ティアラの方の召喚の自由度はかなり高く、ソルジャーやガード、アシッドにワーカーと好きな種類の蟻を召喚出来る。
消費MPは召喚する数によるが、1番消費が重いジャイアントガードアント5匹でちょうど半分との事だった。
金額的にもかなり出来過ぎている話だが、一も二もなく頷いた。




