第5話 吸血鬼騒動
第四位階上位
ギルド前に到着すると、皆は入らずに待機していた。
付いてくるように目配せし、僕はスノーモード再開である。
ギルド内は朝故かそこそこの賑わいを見せており、僕とウルルが入った瞬間に静まり返った。
多少訝しむ気持ちもあるが、視線に込められた思いは畏れや尊敬、疑惑と言った所。
特に害がある訳でも無いのでこのまま行こうか。
受付は、隻腕おじさんことヴェルツさん。それなりに混んでいるのに誰も並んでいない。
「こんにちは、依頼の報告に来ました」
「おう、嬢ちゃん、えー……依頼? 調査か?」
ヴェルツさんは難しい顔をしていたが、僕が来ると打って変わってニヤリと戦闘狂の笑みを浮かべた。
しかし、僕の後ろにいる皆をチラリと見た後は、少しそれを抑え……ようとして、失敗したらしい。
まぁ、確かに僕は強そうに見えないだろうが、タクやアランはあからさまに強そうだからね。
「はい、坑道の調査と殲滅の依頼をご報告に」
「そうか、ご苦労。そっちのツレは?」
一応体裁だけは整えて依頼の事を聞いた後、即座に切り替えて顎で皆を指し示した。
ニヤニヤと嗤うその顔は、割と、凶悪。
「今回の依頼で私と共に坑道の調査と殲滅をして頂きました、私の友人達です」
「友人、ねぇ? ……まぁ良い、登録はすんのか?」
「そのつもりです」
「そうかそうか、くくっ」
凶悪な笑みを浮かべるヴェルツさん。
取り敢えず先に全員を登録する事になり、静まり返ったままのギルド内にヴェルツさんの適当な説明が響き渡ったのだった。
「——説明は以上だ。次は嬢ちゃんの依頼の確認だが……どうなった?」
てっきり直ぐにでも訓練場に引き込んでやりあうのかと思っていたが、職員としての仕事はしっかりやるらしい。
「先ずはこれを」
インベントリからマーダーフェイリュア・ヴァンパイアの死骸を取り出し、カウンターの上に置く。
ヴェルツさんは驚いた様子を見せ、赤いゴブリンの様な見た目をしたマーダーフェイリュア・ヴァンパイアの死骸を検分する。
「……一応聞くが、嬢ちゃん……いやスノー、あんたやあんたのツレはこれに噛み付かれたりはしたか?」
「……いえ、噛み付かれてはいない様です」
「そうか……」
後ろを向いて確認を取ると、誰も噛み付かれてはいないらしい。
それを伝えると、ヴェルツさんは心底安堵した様な表情を浮かべ、即座に厳しい顔をした。
「出て来たのはこれだけか?」
「いえ、後十程。それから——」
ヴェルツさんの表情から分かるが、この魔物は少々危ない物らしい。
全て丸く収まっているが、それを説明すると自作自演を疑われそうだ、間抜けで不運な吸血姫の存在は隠し通した方が良いだろう。
「坑道の奥で自らをヴァンパイアと名乗る男と交戦、殺害しました。これが灰になった男から出て来た魔石です」
即興の作り話を一つ。
インベントリから取り出したのは、以前塔で戦ったセバスチャンさん製のフェイリュア・ヴァンパイア、それの1番強かった個体の魔石である。
「……ほう、ヴァンパイアの魔石か……」
「おそらくは……」
多分ね。
きっとね。
大分近い物だとは思うよ? おそらくは……。
そんな魔石をじっと見つめているヴェルツさんは、一つ頷くと僕の方へと視線を向けた。
「……血の様な赤い魔石、純度も高い。どうやら本物の様だな、詳しく話を聞こうか。っとその前に」
ヴェルツさんは、思い出した様に立ち上がると、此方を固唾を飲んで見ていた冒険者達へ指示を出し始めた。
「『一陣の風』『草原の風』『疾風』お前らは直ぐに教会へ向かえ! 聖水をあるだけ買って来い!」
「は、はい!」
「うすっ! 行ってきます!」
「りょ、了解です!」
「一大事だ! 直ぐに向かえっ!」
「「「はい!」」」
『一陣の風』は昨日いた少年の冒険者達。『草原の風』は『一陣の風』をライバル視しているらしき少年の冒険者達。『疾風』は昨日酒場でパンケーキを食べていた二人の少女冒険者。
随分と風が好きだなと思うが、足が速いとかそういう事なのだろう。
実際、そこそこ速い。『疾風』は軽装なので少年達を置いてさっさと行ってしまった。
「『巨人の斧』『熊殺し』は坑道の監視だ!」
「はっ!?」
「いや、無理っすよヴェルツの旦那!」
「ヴァンパイアなんて来たら殺されちまう!!」
「今は日が出てる、ヴァンパイアがいても外には出てこない筈だ」
「い、いや、でも……」
「緊急任務だっ! ごちゃごちゃ行ってねぇでさっさと行けっ!!」
「は、はいっ!!」
『巨人の斧』は昨日いた中年冒険者達で、文句を言っていたのも彼らだ、対して『熊殺し』は多少動揺していたが特に文句を言うでもなく監視に向かった。
真面目なんだろうし、ヴァンパイアの正確な恐ろしさを知らない可能性もある。
「リリー、直ぐに領主代理の嬢ちゃんにヴァンパイアの事を伝えろ! 市街にヴァンパイアが紛れ込んでいるかもしれん、壁門を封鎖する様に掛け合えっ!」
「はい!」
リリーはヴェルツさんの娘さんの事だ。冒険者ではなく職員が領主館に向かうのは合理的と言えよう。
C級と言う事もあり、戦力的にある程度補償されているのも大きい。
「他は待機だ! いつでも戦える様にしやがれ!」
冒険者全員に指示を出し終えた後、話を聞く姿勢をとったので軽く説明をする。
「——よし、わかった。『獣の雄叫び』は洞窟の調査に向かえ! 『巨人の斧』と『熊殺し』にも洞窟内部の調査をする様に伝えろ!」
「は、はい!」
ヴェルツさんは坑道が繋がった事や、洞窟の魔物を駆逐した事を伝えると、直ぐ冒険者に指示を出した。
「スノー、あんたらはどうす——」
「ヴェルツさん! 大変だ!!」
ヴェルツさんが話を此方に向けようとした所で、一人の冒険者が息を切らせながら駆け込んで来た。
最初に出て行った『一陣の風』の一番足が速い少年だ。
「何があった!」
「はぁ、はぁ、ヴァンパイアがっ! ヴァンパイアが出やがった!!」
「何だとっ!?」
一陣の風の少年冒険者は、驚愕の情報を齎したのだった。
……こう言うの瓢箪から駒って言うんだっけ?
と言うか、こんな朝早くからヴァンパイアが?




