第5話 革命をしとこう
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帝国、北辺。
長い帝国の歴史の中で、死与う暗黒よりの打撃を受け、その機能の幾らかを停止した結果、抵抗戦力の受け皿となったその地は今、歓喜に包まれていた。
「また、砦を一つ落としたらしいぞ」
「流石は百年に一人の寵児」
「神に愛されし英雄!」
「勝利は我等と共にあり!!」
湧き上がる解放民。
中には最近南部から命からがら逃れて来た者達も混じり、湧き立つ興奮に酔い、希望の未来を口々に話し合っていた。
「何でも南部には解放の騎士と呼ばれる叛逆者様が居られるとか」
「それと合流する事が出来れば、革命は成したも同然」
「帝国の悪逆の歴史は終わる! 終わるんだ!!」
人々が口々に希望を謳う。
サクラが複数紛れている事に、彼等が気付く事は無いだろう。
革命軍の上層部は、この時、理解していた。
これ以上人を受け入れ続ければ、数日も持たずに、凡ゆる物資が枯渇する事を。
それでも、逃れて来た民の、解放した民の、受け入れを止められない事も。
止まれば敵に猶予を与える。動けば物資が底を突く。
終わりの時は、刻一刻と這い寄っていた。
そんな事情が変わったのは、ある砦を落とした時。
北側の大砦を落とした事で、北部各地で様子見をしていた革命軍が一斉に蜂起した。
その結果、数日を持たせられる物資と、何より、帝都攻めに十分と目される戦力を確保する事が出来た。
その中に居たのが、ルベリオン王国出身、彼の有名な専属従士爵を持つと言う、美しき少女。
帝国に捕らわれたルベリオンの民を救う為、単身帝国へ潜入したどころか、ルベリオン王国の民が多く捕らわれているこの北の地まで密かに北上、一斉蜂起を成功に導いた、勝利の女神が。
盤面は覆った。
後顧の憂いは無い。
後は、持ち得る全戦力、解放された民の全てを持って帝都へ侵攻、帝国が革命を恐れるが故に各地に分散した戦力を集めて守りを固める前に、革命を果たす。
これは、そう思い込まされた戦士達の、物語の一節。
◇◆◇
早速とばかりに、帝国に忍び込んだ僕は、何とも言えない物、または事実を発見していた。
何やら、各地に革命軍の火種が存在しており、特に北側では既に大きく活動を始めていると言う事実だった。
やけに見覚えのある構図である。
圧政を敷く帝国に、それへの革命を企てる抵抗戦力の集結。
集結をそもそも許す様な構造。
このままだと先ず間違いなく失敗するが、少し手を加えれば色々と優勢になれそうな駒の配置。
——誰かが残した詰め将棋。
そんな印象に、僕は魔神の残香を感じた。
おそらく、奴は僕の動き方を見ているのだろう。
僕が何に執着し、どんな手を打つのか。
幾つもばら撒いた戦場で、何処を優先し、何処を諦めるのか。
……存外舐められた物である。
自らの存在を誇示し、強い力には強い力の介入がある事を示唆して、全てを救うには強力な一手を打てない様にするその策、僕の臆病さ、もしくは欲望を利用したそれは、いっそ見事だ。
だから僕は、なるべく問題の無い程度に分身し、北辺の一斉蜂起に介入した。
戦力の増加は無い。ただ僕の指示だけを、彼等に浸透させた。必ず成功する様に見える命令だけを。
タイミングが良かったのもある。
帝都へ攻め寄せる最大の要害足る大砦が、綺麗に落とされたのだ。
御膳立てはバッチリと言う訳である。
そんなこんなで北辺を弄り回すと共に、僕が行なったのは、既に仕込んでいたイェガの分体への指示。
イェガは勤勉な物で、そのレベル数100程度のボディでせっせと農奴や帝国兵を虐殺してまわっていたので、それを取り止め、一気に北上する様に指示を出した。
道中の虐殺と魂の護送も兼ねてなので、一息に北上する事は出来ないだろうが、それでも全て回って来るよりは幾分早まるだろう。
これぐらいの介入は、魔神の奴も特に何かをして来る気配は無い。
それから、帝都への潜入、高の知れている情報収集と、伏兵の有無の確認である。
この混迷した状況で、僕のやるべき事は、結論を言えば一つだ。
例え魔神もといディアリードが何かをして来ても、全てを救えるくらいに支配の輪を狭める事。
そんな訳で、民がいるが故に足の遅い革命軍にペースを合わせ、丸一日掛けて、間も無く帝都に迫る。




