第4話 運命の日
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ある日の夕刻。
喫緊の報告を持つ伝令の兵が村に現れた。
馬は汗水を垂らし、ガクガクと足を震わせていた。
「何! 屍人の群れが!?」
それは、突如として、しかし必然的に訪れた事態だった。
「はっ! 現在死霊兵計画で死者を集めていた砦から、無数の死者が溢れ出し、街道を塞いで制御不能となっています!」
「ちっ、だから死霊なぞ……! 最初から制御等出来る筈が無かったのだ!」
「おっしゃる通りです」
「まったく帝都の御偉方はこれだから」
ここぞと声を大きくする北部監視隊長に、幾人かが擦り寄る。
そんな光景は、次の瞬間、阿鼻叫喚に変わる。
飛び込んで来たのは、またも伝令兵。
「で、伝令! 屍人の群れが此方に向かって来ています!」
「何だと!?」
「刻印兵や人造魔人の攻撃で進路を変えた模様!」
「なんて事だ……!」
「此方には大した防備も無いのだぞ!」
「た、大量の屍人が……!」
「退避だ! 今ならば間に合う筈!」
その言葉を最後に、全ての指導官や兵士達は、砦と貧民、奴隷達を放棄して撤退した。
しかし、退避先の選択を誤り、野戦で討ち死にする事となる。
その時、主人を失った奴隷達は、その地に留まる様命じられた縛りから解き放たれた。
敵に近い者達は、自らの命を、或いは生まれ育った土地を守る為に武器を持った。
敵から遠い者達は、指導官達がしきりに言っていた、叛逆者共の住み着いた北の放棄された砦とやらを目指した。
その時、シークとターナーは離れた場所にいた。
ターナーは砦の北西に、シークは南に。
たったそれだけの、とても大きな違いが、2人の命運を分けた。
シークは、敵を前に武器持つ大人達と共に武器を持ち、ターナーは北の放棄された砦を目指す大人達に連れられ北へ。
そこが、後に帝国を揺るがす、大きな運命の分岐点。
弟の名を叫ぶターナーの声は、逃げ惑う人々の悲鳴と怒号に掻き消され、闇へと消えて行ったのだった。
◇◇◇
北に逃げたターナーは、その地で帝国への叛逆者、革命の民に迎えいれられ、生き方と武術を学び、その類稀な才能を開花させる。
迷宮の探索による資源や武装の確保、逃げて来る民の受け入れに、時には解放の聖戦と名打つ、奴隷村や砦への襲撃。
ターナーは兄として弟を探し続け、次々と人々を解放して行った。
一方、戦うために残ったシークは、その屍人との戦いの中で、兄同様の類稀な才能を開花させ、次々と襲い来る屍人の群れを払った。
それでも所詮は子供。力尽き、倒れようとしたその時、屍人を追い散らしていた帝国の兵、刻印兵や人造魔人兵の到着により、命を繋いだ。
その後帝都に連れて行かれたシークは、暫し帝都の孤児院で安寧を享受する事となる。
束の間の安寧、名も知らぬ子供達との、労働の無い、怒号も鞭も飛んで来ない静かな時間は直ぐに破られ、シークは多くの子供達と共に、妖精兵計画の為の実験体として連れて行かれる事となった。
魔石を利用した魔人兵計画の失敗、続けて人工魔石を利用した人造魔人兵計画の事実上失敗、それから分岐した、魔造魔人兵計画、魔人薬計画、妖精兵計画。
サンプルがあった為に出来の良い人口妖精魔石を利用した妖精兵計画。
度重なる実験に、子供達は次々と姿を消していく中、シークは驚くべき適合率を持って妖精騎士となった。
更には人造精霊計画でかつて作られ、封印されていた精霊の呼び掛けに応え、その契約まで済ませ、帝国の作り出した最高傑作の1つ、精霊騎士となる。
ある程度の権限を持たせられ、帝都近郊の迷宮攻略を行なわせられていたシークと、同じく迷宮攻略をしながら人々を解放していたターナー。
2人の運命は、間も無く、青い瞳の少女の手により、まるで小事の如く交わろうとしていた。
第一章、第十二節:第二項、機神狩り・下 エピソード837にサンディアのビジュアルラフイラストを投稿しました。
閑話 吸血鬼とサンディア ※挿絵あり を目印に間に合って頂ければ幸いです。




