第3話 とある過去
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帝国北辺、山岳付近の村に、シークとターナーと言う双子がいた。
2人に両親はいなかった。
亡くなったのか、引き離されたのかは本人達も知らない。
ただ割り当てられた薄ら寒いボロ小屋で、子供ながらの労働の日々を生きていた。
「兄さん、ただいま」
そう言って、2人分の配給を持って帰ってきたのはシーク。
ターナーは部屋の隅で静かに横たわっていた。
「……ちょすい、何とかって言うの早く完成しないかな。毎日何か混ぜたり流したり石を並べたりで……」
申し訳程度の木製テーブルに、置かれたのは蒸した芋に、少々の野菜が入った塩スープ、僅かな量の小さな穀物。
配給担当に配置された女衆が作った物で、ただ苦しいばかりの労働の末に生み出されたそれは、温かさだけが唯一の救いだった。
ターナーは今日、既存の貯水槽への水汲みの仕事に配属されていた。
冷たく重い水を背負って何度も往復する、大変な仕事だ。
暫し愚痴った後、シークはターナーからの反応が無い事を訝しみ、声を掛けた。
「兄さん……?」
反応は無い。
「兄さん……!」
慌てて横たわるターナーを引き寄せ、心臓に耳を付ける。
聞こえて来たのは、笑い声。
「く、くく」
「…………兄さん……!」
シークはターナーの肩を強く掴み、怒りを表す様に揺り動かした。
「いや、ごめんって死んだふりじゃ無くって! ちょっと寝てたんだって、何の話だろって考えてて」
「はぁぁ……」
本当か嘘か分からないが、とにかく深い息を吐き、シークは強く掴んでいた兄の肩を離した。
改めて、話の続きをする。
「新しい水を貯める所、早く出来ないかなって話」
「あぁ、うーん。水汲み怠いからなぁ。ちょっと休むとこすい奴等が直ぐチクるからな」
そう言って背中を摩るターナーに、シークも頷いて背を摩った。
真新しい鞭打たれた傷痕と古い治り掛けの痕が交錯し、でこぼこした背中。それをしかし大した事でも無いかの様に軽く撫で、チクる奴等を思い出す。
何でも、指導官と懇ろにしていれば、飯が奴等が食ってる物を貰えたりするらしい。
あんな奴等と一緒の物なんてと思いこそすれ、育ち盛りの2人の腹の虫は素直に鳴いた。
「はぁぁ」
「食うか」
◇
2人がぼそぼそと粗末な夕食を食べ始めて間も無く、それは訪れる。
「あぁ? ガキじゃねぇか」
乱暴にドアを開け、入って来たのは複数の男。
「コイツだよジェイゴの兄貴」
そう言ってジェイゴと呼ばれた大男の後ろに隠れた奴に、ターナーは見覚えがあった。
今日、ひ弱そうな男を蹴って転ばし、鬱憤晴らしをしていたゴミ野郎の一派だ。
ボコボコにしてやったのに、懲りずに仕返しに来たらしい。
そうと察したターナーと、何かしたなと察したシークは、即座に飯を掻き込んだ。
「おぉい、今日うちの弟分が世話に……っておいテメェら、聞けよ!」
ガシャンっと机が蹴られるのと、シークとターナーの反撃がジェイゴを襲うのは同時だった。
世の中悪い奴ばかりで、悪い奴は自分より弱い奴から順番に貶めて行く物だ。
良い奴で生きて行くには、強くなければならないのだ。
舐めていたガキ共の回し蹴りと正拳突きを頭と鳩尾にくらい、ジェイゴは開いていたドアから転がり出る。
「テメェら懲りずに来やがって」
「悪いけど、相手を間違えたね」
そんな言葉を合図に、喧嘩が始まる。
複数の大人相手に、2人は流石双子の連携を見せ、拳や足を振るう。
そこには、我流にしては堅実な、技の数々があった。
それどころか、その肉体には僅かに練気を循環させてさえいた。
それは、2人が生まれ持った、類い稀な技の冴え、才能であった。
しかし多勢に無勢。
時に掴み掛かられ、シークは腕を取られる。
「おらっ!」
「ガキが!」
ここぞと集って来た大人達に捕まえられ、子供である事なぞ関係なく、その拳が頬を撃った。
「ぐっ」
「舐めやがって!」
更に追撃の拳を握った男に、ターナーが迫る。
「ぶっ飛ばすぞクソがッ」
回し蹴りが男の腹部に直撃し、それを吹き飛ばす。
「なっ!?」
シークを抑えていた男は驚き隙を見せ、それをシークは全身を使って投げ飛ばした。
「ごほっ、ぺっ……助かったよ兄さん」
「なぁに、気にすんな」
2人はバキバキと拳を鳴らし、まるで狼の様なギラつく瞳で男達を睨み付ける。
◇
「ひ、ひぃ」
「化け物だ!」
「に、逃げろ」
這々の態で逃げ出した厄介者を見送り、2人は地面に座り込んだ。
「はぁはぁ、くそ、余計な疲労を」
「まったくだね、はぁ、ふぅ」
荒い息を整えた2人は、明日の労働に備えて家に引き返す。
「さっさと寝るかぁ」
「アイツらも流石に今日は来ないだろうね」
そう言って2人は荒い布を被り、寝床へ横になった。
指導官の元、終わりの見えない労働をし、最低限の飯を流し込み、時に喧嘩をして、寝る。
いつの日か、こんなゴミクズの様な日々を脱しようと誓い合い、助け合いながら生き抜いていた。
そんな2人の運命を別つ日は、唐突に訪れた。
とっつきやすい様にタイトルを追加しました。




