掌話 光は舞い降りる 一
第四位階中位
昨夜の闇神の残影は凄かった。
何せ5体の悪魔が同時に現れやがったから。
そんな話題を読み漁りながら、次の準備を進める。
場所は、光の都市、シャンテア。
その工房付き一軒宿。ステラ。
雰囲気も良く、結構お高い宿だが、マスター同好会の名義で金を出し合い、9人で2日分借りている。
なんと貸し切りなら通常価格から1割引で良いと言う事だったので、ステラが本来10人泊まれる規模らしい事を考えると、まずまず損の無い話だ。
何より、それなりの宿と言うだけあって、先ずベッドが良いだろ? それから個室自体も綺麗で外の眺めが良い。おまけに水は使い放題で男女別の大風呂付き。風呂には回復を早める効果付き。
マリオネットを温泉に浸けながら魔力を流す作業をさせると、より長時間作業が出来るのだ。
コレを使わない手は無い。が、唯一の問題はマリオネットが女子の手により女子風呂にしか入れさせて貰えない点だ。
いや……どっちかは分からんやろ。
まぁ、俺の監督なんて本当にいらないから何でも良いが。
そんなこんなで、準備可能な消耗品を生産して行く。
何せ今回は自分用だけじゃ無いから、今後の為にも手先が器用なマリオネットや、同じく手先がマリオネットには劣るが器用で力が強いドールを新たに1体ずつ導入しての生産活動だ。
勿論手助けも多い。
「お嬢、調子はどうだ?」
「お 嬢 は や め て」
「ははっ」
嫌そうに否定して来るお嬢こそ、間違いなく良い所の出身と見られるお嬢さん。ミナモ。
そのアニキ達は今マスター同好会でチームを組み、レベルが心配なソラやサヨ、頼りになるスピリトーゾを連れて都市の迷宮を巡っている。
ただで経験値とかポイントとかを貰うのは忍び無いので、戦力になる奴は貸してあるが、それでもやっぱり忍び無い。
……不安はあるが、総資産とも言えるカードを貸し出せるくらいには仲が良いと思うと、感慨深いものがある。
「……まぁ、順調かな。コレで8個目」
そう言って、ニコッと笑いながら見せて来たのは黄味がかった羊皮紙に描かれた魔法陣。
それを描くのは、お嬢の魔術師カエルだ。
羊皮紙がガタガタなせいで中々酷い様に見えるが、コレで市販品と同じ要点がしっかり抑えられているのだとか。
紙のレベルもこの都市産のそれなりの物で、効果は指定方向に水の爆弾を放つと言う物。
破石並みよりやや高い威力があるので、大ボスに集中砲火する際の得物としてはそう悪い物では無い。
……悪いのは、精々生産性か。
「……順調だなぁ」
自前で武器を作るのが楽しい様子のお嬢とカエル君を見ながら、俺はコクコク頷いた。
インク作るのも楽しいよな。コレが成果に繋がるって思うとな。
「ロリコン」
「ちゃうやん」
不意に現れたのは肩をすくめたコヌカの姐さん。
微笑ましい笑みだっただろがい!
「って言うか姐さんの方はどうなんです?」
人を弄りに来たコヌカ姐さんの現場を見に行くと、其処にあったのは張り合わされた大きな羊皮紙。
「コレなら行けると思うのよ」
「3割くらい重なってます?」
「ええ。それに魔力の質が足りないって話だったからコレをちょっと」
指差されたそれは、液体と筆が入った小さな桶。
「……んん? ……スライム魔石粉とかっすか?」
「あら、正解。ちょっと塗ってみたわ」
「た、しかに……品質不足を補うのならコレでも……良いかも?」
「名案でしょう?」
「成功したら博士ですね」
「それは嫌ね」
スライム魔石粉の塗布材はマジで便利。
保水性が上がって仕上げに時間が掛かるのが難点だが、質を上げるのにはお手軽で良いよな。
確かに羊皮紙は元の質が高いけど、目的値には量を重ねるばかりかと……。
「……コレなら最初の方に失敗した奴も幾らか直せるんじゃないか……?」
「……確かに……博士は別にいたみたいね」
「それは何かやだなぁ」
ともあれ、出来たのなら黒霧さんの所へ持って行こう。
そう言った意味でもステラはアクセスが良いのだ。
うまく出来ていたら、カエル君に使える最大の水魔法、爆石並み以上の強力な魔法陣、スパイラルカノンを描いて貰うぞ。
◇
幾つかの重ね貼り羊皮紙が使える事が分かり、大型魔法符の作成に成功した。
こうなって来ると、同じ規模の魔法が描かれた小型のスクロールの紙の質とか製法が気になって来るが、とにかく今は今夜の戦いに向けて消耗品の材料集めと生産だ。
それこそ、破石の様な物が作れればそれが一番だが、そもそもスクロールで謎なのにあんな小さな手投げサイズの石にどうやって術を刻んでいるのか、現在の俺の技術力では想像もつかない。
と、そんな訳で、今度はドールやマリオネット達を預け、素材集めの為に戦場にやって来た。
「めぇぇッ!」
「ッ!」
そんなに強く無いとは言え中型の羊型モンスター。強めの雑魚に分類されるそれを、銛を一突き、そのまま持ち上げて地面に叩き付ける。
ただぶん殴ったり斬りつけたりするよりもパワーとスマートさを感じさせる見事な戦闘技術に、少し憧れてさえ来る。
俺は直接戦闘となると殴るか守る、もしくは避けるくらいだからなぁ。
器用もあるだろうが、それ以上に練度だろう。
位の高いお家の者は、冠成の歴史上、上位者足らんとしない者から衰退して行く。
逆に位の低いお家の者も、日々研鑽を怠らなければ評価されて行く。
歴史も重々評価の内だが歴史ばかりが全てでは無い。
良い国に産まれたモンだよな。
そうこう考えてる内に、海狩やスピリトーゾ、俺の召喚獣の手であっさり白っぽい敵の群れが制圧された。
大きめの木箱にドロップ品を詰め込んで行く。
「うーん、羊があんまり出ないのがなぁ」
「強い雑魚扱いですから、上の迷宮でもあんまり出なかったですよ」
「二手どころか三手、四手くらいに分かれた方が良いかもな」
確かに、祠クラスのダンジョンなら、戦力バランスを考えると、俺とソライロ、スピリトーゾとサヨナキ、一とナルミさん、海狩の4パーティーで行った方が効率良さそうだ。
「確かになぁ……稀にあれが起きるのが難点と言えばなぁ……」
「あぁ……稀に……」
「稀になぁ……稀に起きるんだよなぁ」
男3人で主語の無い事をコクコク頷く。
そう、稀にバカみたいな強さの雑魚……から進化したっぽい奴、異常進化個体が湧くのだ。
流石に祠レベルだとそれでも大した事無いが、技量タイプの異常個体は、下手を打つとレベル差を覆して首を落としに来る。
情報によると、人が多い所で発生しやすかったり、祠の上、祭壇級のダンジョンではそこそこの確率で異常とは行かないまでも特殊進化個体が確認されている。
「……まぁ、祠なら大丈夫だと思っておこう」
「街中でも微妙に人気の少ない祠は注意した方が良いって聞きました」
「あったらそん時はそん時、無理だったら集団で仇討ちで良いだろ」
「それもそうだな」
良い素材が手に入るかもしれないしな。
そんなこんなで、人通りの多い上位祠級のダンジョンをささっとクリアし、僅かなスキルポイントとお金を貰って、チーム再編を行なった。
さてさて、コレで稼げれば良いが……異常個体出て来んなよー? フラグじゃねぇからな?




