第17話 魔将
第八位階下位
鋭く打ち込まれる拳。
それを逸らして懐へ踏み込み、捩じ込む様に拳を打ち付けるも、逆の手で防がれる。
即座に放った蹴りは、同じく蹴りに相殺された。
幾度もの衝突。
技量は大した物で、油断すれば競り勝っていた状況を覆され兼ねない。
その上——
「しッ!」
「っ!」
ようやく稼いだ一手分の隙に、胴へ拳を叩き込み、汲み上げ練り上げた真気を浸透させる、だが——
「ぬんっ……!」
「ふっ!」
——強靭過ぎる肉体に、衝突のダメージが防がれ、浸透も起き辛いばかりか捩じ込んだ真気の分解や排出が早く、即座の反撃が帰ってくる。
マテリアル性能の差だ。
おまけにレベル差故か、基礎魔力質も高い。
油断ならない。
だが、一方で、油断しなければ勝てる相手だ。
気を研ぎ澄ませ、魂の深淵から汲み上げ、技の限りを尽くし、刹那の戦いに勝ち続けろ……!
——今だ。
今こそが、あの日弱かった俺との、決別の時……!
「うぉぉぉおぁッ!!」
「ぬぅぅぉぉぁッ!!」
◇◆◇
咆哮と共に加速したザイエは、瞬間演算力の限りを尽くして真気と仙気による猛攻を開始。
一方ドルスも、それに応える様に仙気を出来うる限り練り上げ、無意識的に真気を用いて魂の限り対抗する。
しかし、レベル差こそあれ練度差が出て、ドルスは押され気味だ。
度々拳や蹴りが体に打ち込まれ、さしもの神鉄の体も歪みやひびが入っている。
彼等が本当の意味で本気を出すまでは秒読みとして、先ずは既に本気を出している面々を見てみよう。
気になるのは最後まで取っておくとして、最初は灼炎。
炎の肉体に変身した彼の能力は、単純に精霊化の類い。
元々悪魔は精霊質の生命体だが、この術はその中でも魂以外の因子を炎に纏めている、中々に見事な炎精霊化である。
こういった物は、より高レベルになると、肉体の保有する因子も高質で変化させ辛くなるので、炎に完全に纏められている灼炎の術はそうバカにできる物ではない。
変化後の流動する様な武技も、野良にしては中々に鍛えられており、如何にディアリードの袂が安定しているかが透けて見えるかの様だった。
次に、嵐刃。
此方は、肉体変化の一つの応用であり、灼炎が精霊化だったの対して此方は甲殻人化とでも呼ぶべき変化を起こした。
甲殻人と言う物が、様々な種の中から選り分けられて語られる最大の理由は、その外骨格にある。
凄く端的に言うと、物質体の強度が、実戦に通用するレベルであると言う事が、その存在を最強種足らしめているのだ。
つまり、生来の防御力が、他の生物の防御に力を行使した状態と同等。
それ故に防御を気にする必要が無い。
結果、攻撃に特化し、同格における攻撃力が倍以上に膨れ上がると言う訳だ。
おまけに、賢い甲殻使いはその身に力を込める。
単純な例だと甲殻に術式を刻むと言う物だが、より好例は圧壊獣の角。
意図せずその角に重力操作の力が宿る様に、意図せずその甲殻に防御や攻撃系統の力を宿しているケースだ。
今回の場合どうかと言うと、嵐刃は賢いケースだ。
内部から発生させた骨の鎧は、単純な防御力が極めて高いだけで無く、その手足に出現させた棘、或いは猪の牙の様な物による、斬撃数自体の増加やその増強に効果を持たせている。
硬くなった上に攻撃力も上がる、脅威的で中々素晴らしい強化術と言える。
続けて、崩天。
此方は、凄く単純に言うと、肉版の樹巨人アルカディアだ。
一見した変化は無いが、その実巨大化系統のスキルにより元々巨大な体を更に巨大化させ、おまけに圧縮系統スキルによりその巨大な体を押し固めている。
更には、天性の才による物か、対して練っていなかった気を一息に練り上げ、その身に満たしている。
結果的に、肉体の圧縮による強度の増加と重量の増大による攻撃力の増加、おまけに魔力保持容量も増加し、そこに莫大な量の高質仙気を満たしている訳だ。
仮に灼炎を精霊化、嵐刃を甲殻人化と呼ぶなら、崩天は巨獣化。
どれもが最強種とも呼ばれる種族へ近付く術である。
その中にあってすら異常なのが、最後、骸廟。
コレを他に合わせて呼称するなら、機械人化と敢えて言う事も出来るだろう。
その本質は、魔導鎧の換装。
コレだけでもう十分強いと断言出来る。
何せ、魔導鎧と言えば、レベル一桁の人間を、レベル600の怪物と互角に渡り合わせる事も出来る徹底補助武装。
その性質柄、貯蓄=戦力であり、それは即ち、手札の数さえ有れば、大体の物は例え格上ですら圧倒出来る事を表している。
それら装備をよく見る。
先ず、身に纏う鎧はおそらく化石だ。
魔界の地層から発掘された物を加工したのだろう。極めて強力な鎧である。
加工にはとんでもない時間が掛かっただろうと考えられる。
そんな化石の正体は……遥か古にこの世界の魔界へ襲来した濁冥獣クラスの怪物の骨と見て間違いない。
レベルにして最低でも700オーバーの化け物。
属性は闇と骨と音、飛行、血……多分超大型蝙蝠系統の濁冥獣だ。
それ以外の武装は、幾らかマーカー代わりに太古の骨が使われているが、最新の骨で編まれた物ばかりで、概ね混沌獣素材を……様々な錬磨法で鍛え上げた代物だ。
どれも古くから使われる低レベルの技法だが……最終的には自前の操魔力による精密操作で付与や書き換えが行われているので、眼鏡に叶うまで古い技法で半自動的に強化をしていたと見える。
技法の幾つかの例としては、先ず抽水錬磨法。
敢えて魔力を抜いた水を魔封じのケースに入れ、加工したい物をそこに投入、水にその物が持つ力を移した後、別の器と入れ替えて、水が蒸発するのを待つ技法だ。
環境次第だが、良く乾燥した場所で行い、早く蒸発させる事で、概ね5〜6割程度の力の継承が出来る。
時間に余裕があるなら、力がより一層定着する様に、今度は高濃度魔力水で2度漬けするのが望ましい。
他には、粒纏錬磨法。
目標の器に粉末状に削った器を纏わせ、魔封じの布等で包んで、土などに埋めて押し潰す技法だ。
継承は環境によりけりだが、長い期間を必要とし、継承率は6〜7割程度が限度。
この2種は、強力な魔力結晶を作る際に組み合わせて使われている技法だ。
具体的には、帝国のホムンクルス、天命騎士に埋め込まれていた人工魔石等。
粉末魔石と水と魔封じのケースでより強度の高い魔力結晶を作る単純だが効果的な技法である。
……ロスも中々無視できない量ではあるがね。
ともあれ、骸廟の組み立てた魔導鎧には、そんな研鑽の数々が感じられた。
当然戦闘力も推して知るべしだ。




