第16話 武将
第八位階下位
「燃え盛れぇぇッ! 俺様の魂ぃぃッ!!」
猛ける咆哮と共に、灼熱を纏う猪の武人が拳を振るう。
その拳撃を、プロメテウスで受け流し、横合いから迫る追撃を返す刃で受け流す。
「御免ッ!」
「なんの」
2対1と言う状況が、彼等の武士道精神を傷付けるのか、連携はややお粗末。
だが一方で、1人1人の練度は相当に高く、拙い連携の隙を見事に埋めていた。
降ろした神権から溢れ出る強大な力を、僅かばかりに動かして剣に宿す。
振るった刃は、彼等の持つ神性の防御を切り裂き、その身に極めて治り辛い傷を与えた。
「ぐぁっ! なんのこれしきぃぃ!!」
「拙者に任されよ!」
胴に深手を負った炎使いを下げさせ、前に出るは風使い。
どちらとかと言うサポートに周り始めた彼の戦闘スタイルは、手刀による切断だ。
それ即ち、2本の短剣を持っているに等しく、また同時に振るわれる足もまた剣。実質上の四刀流。
手数で攻める彼と、瞬きの間に数千の斬撃を交わらせる。
一撃一撃に気だけでは無く技巧を込め、手数と技量と言う名の堅い防御を少しずつでも削り落とし、此処ぞと言う間に斬撃を滑り込ませた。
「ぬぐっ! 見事ッ!」
「俺様の番だぁ!!」
追撃を阻む様に前に出た炎使い、その強固な練気を宿した拳と弾き合う。
「灼炎の、油断召されるなっ! 強いッ!」
「わぁがってらぁ! 早く来い! 嵐刃ッ!」
「っ!? 承知ッ!」
今度こそ一切の油断、慢心無く拳を振るう炎使い改め灼炎。
細かい所に雑さ、不足が見えて来るが、それでも十分。
風使い改め嵐刃が最低限の回復を済ませ、乱入して来る。
拙い連携、見事な技量。
永遠に付き合いたいが、それでは此方が押し負ける。
非常に残念だが、此方の最たる武器である、質の上限の高さと言う暴力を持って、この技量を打ち砕かせて貰う……!
連撃の間、手数と練気によって生じさせられた一刀分の隙。
次の一手は、嵐刃によって確実に逸らされ、拓かれた隙を灼炎は見逃さないだろう。
剣技の至らなさに悔いを残しつつも、その一手に、神気を降ろした。
「なっ!?」
自らが腕毎切り刻まれた事で嵐刃が目を見開く。
そんな嵐刃を他所に、今まさに拳を振るう灼炎に神気の刃を合わせ、その腕を切り落とした。
だが、流石は武人足らんとする者、腕が落ちたと見るや即座に蹴りへ移行し、それを蹴りで受けた時には、胴を裂かれた嵐刃の刃が迫っていた。
それを回避しながらも、今度は真気まで練り上げた斬撃で、練りの甘い灼炎の拳を深く刻み、此処ぞと振るわれた嵐刃の返す刃を、同じく刃化させた足で迎撃した。
「ぬぉぉッ! 負けぬっ、負けぬぞッ!! 灼炎転変ッ!!」
「拙者も刃を抜こう! 嵐刃猛牙ッ!!」
言うや、灼炎は炎そのものへと変じ、嵐刃はおそらく骨が変じた物と思われる鎧と刃を全身から出現させた。
「それが貴殿等の全力かっ! ならば私も応えよう!」
神威を纏い、宝珠を励起させ、自らの魂をも燃やして力を増大、高質化させる2人に対し、私も神性を全身に付与し、プロメテウスへ全力を命じ、可能な限り気を強く練って応じる。
これは、黒霧殿が集会で言っていた次のステージの戦いに等しい。
宝珠を持ち、神性を降ろされ、自らもおそらく現神であり、集団としての神話を持っているであろう英傑。
ルーレンの方が気になるが、ともあれ気張って行こうじゃないか。
◇◆◇
相対する2体の高等悪魔と幾度も交錯する。
『撃滅ッ!!』
意味持つ咆哮を響かせ、巨大化させた拳を振るうは、他と比べて小柄な猪頭。
本来は巨大な悪魔らしいから、密度を上げて回避と防御を底上げしていると見られる。
それと同時に、攻撃時のみ拳の縮小を解く事で、正しく武器を使いリーチを稼ぐ様に拳を武器としている。
神性を宿すその拳撃は、しかし大きく拡散しており、有り体に言って余波が酷い。それ即ち、集束がされておらず、練度が低い事を表している。
一方で、威力自体は極めて高く、余波は大地を広範囲に渡って深く粉砕しているし、空では雲が大きく歪み、破壊痕跡には猛毒の様に高質の気が漂っている。
『灰燼っ、破壊ぃ!』
「そんな大振り当たらぬわ脳筋めッ!」
力こそ本当に強大だ。
おそらく此処で足止めをしているつもりの4体の中では基礎魔力質が1番上。これは天与の物だろう。
稀に見る、産まれ付いての天才の一人……だが、その代償に……——
『壊滅! 粉砕ぃ!!』
——……致命的に知能が……!
威力も速度も相当で、掠りでもしたらかなり不味いが、ユキの元鍛えられた今の私ならば避けるに容易。
強者を憐れみつつも回避を続け、ただただひたすらに気を練り上げ、パンドラに溜め込んでいると、ソイツが飛び掛かって来た。
「その杖わちにくれぇー!!」
「やらんわ!」
『! 破壊!』
「杖は壊さんでくれぇー!」
「儂のじゃ!」
一層に小柄で細身の猪頭悪魔。
他が武人の様な態度で筋骨隆々なのに対し、引き締まってこそいるが弱々しい。
他が大木ならばこれは精々幹程度だ。
知能が低い方も、筋骨隆々と言うには些か筋肉が足りない様に見える。
これは、筋肉馬鹿共がより武人として強そうな方に向かったと言う事だろう。
「頼む! 後生ぢゃ!」
「鬱陶しいわ!」
さっきからひたすらに杖にしか飛び掛からない細身は、良く見ると腕に闇色の精霊刻印が描かれ、おまけに纏う布にもびっしり術式が刻まれている。
気質が武人で戦闘狂の気が強い奴等の中にあって、此奴だけは魔術に特化している様であった。
脳筋の拳撃を障壁を利用して逸らし、杖を奪うと言うより触れて来ようとする細身を躱して、距離を取った。
『撃滅! 粉砕!』
「ふんむ? なんぢゃ崩天の」
『殲滅! 破壊!』
「? ……そうぢゃ! その手があったか!」
何やら脳筋が変わらない咆哮による意思表示を行なった結果、細身が何かに気付いた様子。
細身は暫し頷き、精霊刻印と術式を光らせた。
「殺して奪えば良いんぢゃ! わちは天才ぢゃ! ふははっ」
『灰燼!!』
「行くぞ、崩天の! 骸廟怪恢ッ!!」
『崩天! 滅界!!』
その言に、現れたるは骸の巨鎧。
脳筋の方は単に纏う気の質が大きく向上したと言うだけだが……骸の方は……顕現した全てが様々な術式の込められた触媒。
コアは己自身の様だが、細かくは見えないが骨で出来た装備の数々は、意外としっかりしている。
「ふん……中々やる様じゃな。ならば儂も、全力を出すとするか」
回避と受け流しにしか使って来なかった魔力と神権の力、パンドラの力、持ち得る全てを使い、先ずは此奴らを叩き潰そう。
装備はその後にでも、何か作って貰える様頼んでやるとするか。




