第15話 武人の群れ
第六位階上位
鋼鉄の如き肉体から振り抜かれる拳。
それを空を蹴って避け、更に上空を蹴って腕に着地、それを足場に首元へ迫り、斬撃を振るう。
「はッ!!」
直前で差し込まれた腕を深く傷付けるに留まり、切り裂く様に振るわれた爪撃を回避、苦し紛れの斬撃を放ち、追撃を牽制した。
振り向き、再度向かい合う。
「なりの割に強いではないか、童」
「俺は100歳以上だ」
「なれば吾輩は500を越える。やはり童じゃ」
くかかと、まるで晴れた空の様に笑う。
コレが悪魔か? まるで武人。敵で無ければ良き友であっただろう。
即時に再生していく腕を見ながら、栓無き事を思う。
「童を強者と定めて名乗ろうか、吾輩は次期幹部、貪鉄の号を賜りし者。冥土の土産じゃ、覚えて逝け」
「はっ、言ってろ……俺は誇り高き竜羽の妖精、ドラジェの族長にして筆頭戦士グオード・ドラジェ。貴様を竜血の糧としてくれる……!」
触発された返しに、貪鉄はニヤリと笑った。
次の刹那、急速接近した貪鉄の拳が振り下ろされる。
それを刃で受け、流す。
剣の腹を滑った拳は大地を粉砕し、迫る次撃をまた流す。
僅かなズレに引き戻すのが遅れた三撃目。それを練気を用いて強めに弾いた。
その反動すら利用して、練気を込めて四撃目の初動を打つ……!
「っ!」
「むッ!」
完全に遅れた打撃の間隙、剣に練り上げた気の全てを込めて、斬撃を解き放ち——
——致命打を躱された。
上体を逸らす事で首や胴への斬撃を躱された。更には防御の気も纏わされ、肩口を深々と切り裂くに留まる。
更なる練気を行ないながら、どうにか追撃しようと剣を強く握った所で、貪鉄が距離を取った。
「はっ、童にしてはやりお——」
「——わっぱじゃねぇ」
練気の足りない中、踏み込み、剣を振るう。
細かい斬撃に僅かな練気を込め、それ以上の気を練り、機を窺う。不足魔力の吸収回復をする余裕は無い。
「時間稼ぎに付き合うかよ」
「ふん?」
斬撃と拳の衝突の中、言葉でも攻撃をしておいた俺に、貪鉄は首を傾げた。
「! ……そうか、成る程な、くく」
斬撃と拳撃の交わる中、急に笑い出した貪鉄に怪訝に思いつつ攻撃と防御を繰り返していると、貪鉄は余裕のある事で、朗々と口を開く。
「そうかそうか、吾輩は時間を稼いでいたか……確かに童の気は解きにくい。だからと口上に逃げては武人に有るまじきよな……!」
言うや、急速に攻勢が増した。
「っ! このっ……!」
拳撃が重くなり、拳が抉り込む様に振るわれる。
込められた気も高質で、此方もより多く気を込めなくては追い付かない。
いつしか、気を貯める余裕は無くなり、練気と消費の速度が逆転した。
「どうした童ァッ! 何を怖れるッ!」
「っ、くっ!」
振るわれる攻撃の嵐を受け流し切れず、体を回避に動かされる。
気は練る毎に消費を余儀なくされ、貯めていた気の放出を強いられる。
問いを返す余裕など無い。第一俺が何に怖れてるってんだ。
心の中の問いを見抜いた様に、貪鉄は応えた。
「横槍かッ? 吾輩が魔法を使うとでも思っているかッ?」
そう言われて、はたと気付く。
確かに俺は、多くを警戒している。しかしそれは至極当たり前の事で、広域に意識を向け無ければ守れる者も守れない。
そんな俺に、貪鉄は高らかに吼えた。
「否ッ、否ッ! 否だッ!!」
攻勢は依然、勢い変わらず。
その気迫だけが、大きく目前へ聳え立つ。
「横槍は吾輩が入れさせぬ! 小賢しい魔法も使わぬ! 貴様の援軍は好きに呼べ! 小賢しい手は存分に使うが良い! その尽くを打ち破り、貴様を葬ってくれようぞ!!」
猛然と言い放ち、その燃え盛る様な目が、俺を貫いた。
「吾輩を見よ! グオードッ!」
幾度もの連撃、生じた大きな隙を突く様に振るわれた重い拳が迫り——
——直撃——
——寸前になけなしの練気を片足に集め、それを防御と離脱に利用した。
「——舐めるなよ」
無傷とは行かない。足がへし折れ、歪んでいる。
折れた足を治す為に気を使いつつ、ソレを励起した。
実戦利用するにはまだ早い。
慣れない作動には大きな消耗が伴い、同時に演算を多く割かれる為に練気の操作にまで悪影響があるとも言われる、現時点では諸刃の剣。
俺が産まれたその時から、俺の中にあった力。
俺の成長と共に、強くなっていたらしい力。
——竜王玉。
外部に向けていた演算を内部に集中させる。
見えて来たのは、魔力の流れだ。
全身を巡る素早くしかし静かな流れは、魔力操作に長けた者、練気を鍛えた者に見られる、魔力コントロールの賜物。
それは心臓付近の魔力を溜め置く器官、魔石から流入出している。
それらとは別に、心臓付近で静かに鼓動する高質の力があった。
しっかり練り上げた気程では無いが、それに迫る、常態よりも数段は上の気。
体内魔力を押し込んで、竜王玉を強く鼓動させた。
その分の気を練るよりもずっと楽だが、操作に難がある竜属性魔力。
それを全身に漲らせながら——
「——此処からだ」
——一息に距離を詰め、貪鉄へ刃を振るった。
「それでこそ——」
カラッと響く笑いが、辺りをこだまする。




