第14話 好敵
第八位階中位
思い返すに瑣末な縄張り争い、その日初めて同じ形をした者を殺害せしめた。
殺したと言う気ですら無い、強く突いたら動かなくなった。ただそれだけだった気がする。
その時の感覚は何一つ覚えていないが、一つ確かなのは、その時を境に、何かを破壊する事の喜びを知ったと言う事。
それからと言うもの、獲物を追い求めて森を駆け回り、より強き者、より硬き物を破壊する悦びを知り、戦いに明け暮れた。
後に山と知る物の存在を覚え、その破壊に躍起になったり、それ等の山を縄張りとする、山よりも硬い者共を殺戮し、時には破壊に窮する洞窟を穿ち、いつの間にか追随し始めた同型の者達は付いて来るに任せ、更なる破壊の悦びを求めて彷徨い——果てにそれに出会った。
それは確かに硬かった。それは確かに強かった。
だが、それ以上に、それは不思議な術を使った。
我が身は時にそれに受け止められ、時に投げ飛ばされ、己が身に大した損壊こそ無い物の、それを破壊する事は叶わなかった。
その不思議な術が、武術と言われる物である事、それを成した者がザイエと言う名である事は、その後間も無く知る事となった。
ザイエの気迫に負け、南に西にと森が濃く、深くなるまで這々の態で逃げ出した我を待っていたのは、ディアリードと名乗る悪魔であった。
彼の者は言った。
——何物をも破壊する力が欲しくはないかと。
欲しくば門を降るが良いと。
我は迷わず門をくぐり、数少ない生き残った同胞もまたそれに続いた。
それから、幾星霜の時が流れた。
破壊の術、武術を学び、破壊する物、また者の歴史を学び、魔術と言う小賢しい技術を学び、破壊の悦びはいつしか闘争の悦びへと変わっていた。
そんな日々の中で我がザイエとの再戦を待ち望む様になったのは、当然の事であったのだろう。
数百年に渡る修行で武術を体得し、仙気の領域に至り、それを自在に操れる様になった。
ディアリードには恩がある。だが、我はザイエとの再戦が叶うならば、例えその日死んでも構わぬ気でいた。
それは、変わらぬ修行の日々の中、唐突に訪れた。
「ドルス、命令を降す。滅神の欠片の援護だ。白き墳墓に滞在する白帝狼の動きを縛れ。暫し待てば、お前の望みは叶うだろう」
その言に従い、黒き墓守不在の墳墓を前に、気殺して待つ事幾時、待ち人は現れた。
あの日と変わらぬ姿形。
覚えていた物よりも数段上の高質の闘気……!
そうでなくてはッ! それでなくてはッ!! 我が好敵手なり得はせぬッ!!!
『ザイエェーッ! 我と戦えッ!!』
応える響きが、我が身を喜びに震わせた。
◇◆◇
俺がやって良い物か。
悩んだのは僅かな時間。
ユキに選んで貰うのが確実かとも思ったが、指名が来た。
ユキは微笑みながら特に何も言わなかったので、俺はそれと相対する。
『両者、余波は気にせずやってくれたまえ』
平然とそんな事を言うユキに、俺も奴も笑った。
「死合おうぞッ、命の限り……!!」
「はっ、上々!」
こんな奴だったかと思わなくも無いが、望外の好敵。
構えられた拳、鍛えられたその鋼鉄の肉体、油断なき足運び、纏う気。どれを取っても上々。
気を良くした前口上の間に、後方で6つの力が増大するのを感じつつ、戦いは始まった。
◇◆◇
其れ等と相対した時、思う程の激情は無かった。
中には私を殺した者もいるかもしれない。ルーレンに致命傷を負わせた者もいるかもしれない。
もしくは我等が同胞を殺した者もいるだろう。
だが、怒りは無かった。
不快ではあるが許せぬ程では無い。
恨みこそあれど憎しみは無い。
真に憎むべきは己が不明と知るが故。
——世は弱肉強食。
己が弱さを嘆きこそすれ、強者をなじるのはお門違い。
恨むのならば、降せば良い。
4体の悪魔を前に我等は其々の得物を構えた。
対する奴等は、腕を掲げた。
『魔の神徴よ、我が身へ宿れ……!』
掲げられた手の平に現れたのは、宝珠。
猪頭の悪魔達はそれを掲げて、次の瞬間——それを飲み込んだ。
「ふん、それを使うかよ」
「此方もやらざるを得ない様だな」
強大な力を持つ宝珠を取り込まれては、敵は此方と同格になる。相応の手を打つしか無い。
私は剣を掲げた。
「プロメテウス、勝利を此処に……!」
「パンドラ、死の導きを……!」
解放された神器。
行使された神権。
それを持って、神性を纏う悪魔達と相対する。
僅かな間を経て、戦いの号砲は鳴り響く。
ザイエとドルスが衝突し、それを追う様に我等もまた、武器を交える。
◇◆◇
パイアの王達が宝珠を召喚した。
魔の神徴と呼んだ事や目の前で起きた事から、その概要は直ぐに分かり、動こうとしたペルセポネを制した。
——今のは、神域へのコネクトだ。
魔の神徴とは魔の神域、それ即ち魔神の神話の象徴を指す。
間違いなく、ディアリードの手引き。
門を開いていたのは、魔界に潜んでいるだろうディアリードの加護にアクセスしやすい様にする為か。
それにしても見事な手腕。
おそらく、ルヘーテが獅子の神域に何かを託した様な事を、ディアリードも行なっている。
神気、神性、神権、神話、そう言った神の領域の力を、ディアリードは既に自在に操作する事が出来るレベルである事を表している。
コレは、一見して竜寝殿の竜達が神気を降ろす時に使った宣誓に似ているが、実際にアイテムを仕込んでいる事から、より高次に神話を操っていると言える。
魔界からぴょこっと顔を出した神話に、アンテナを張っていたペルセポネの警戒が未だかつて無い程に高まって行くのを感じつつ、僕もまたディアリードを強く警戒する。
巨神の調査で少し疲れているのが恨めしいが、もし奴が現れたら、やらざるを得ないだろう。ペルセポネ程の者でも、その戦場では稚児に等しい。
ともあれ先ずは戦場だ。
宝珠を取り込んだパイア達は、その限界を越えて力を肥大させ、レベル730相当の戦闘力に到達した。
更には、神性が降りて神懸かりの状態になっており、単純な戦闘力はざっくりレベル750クラス。
コレには、同じレベル750程度のアッセリアやルーレンも神器を使わざるを得ず、更には神権をも行使した。
コレにて不利寄りの互角。後は技術をご覧じよう。
なに、どこも不利だが、皆の技量なら問題あるまい。
僕なんてレベル720くらいだけど、常に魔力を高質に練って維持しているから、レベル900くらいなら簡単に捩じ伏せられる。
レベルはあくまで最低保証の様な物である。
取り急ぎ僕がやる事は、各戦場の余波の処理。
特に神徴もとい宝珠と加護の一種である神懸かりを掛けられた4人vs神器と神権を行使する2人の戦いは余波が大きいと考えられるので、多少手を掛ける必要があるだろう。




