第13話 因縁
取り急ぎ、護衛対象である所のアルネアの宝物を巣ごとくり抜いてインベントリに回収した。
続けて、僕的な護衛対象である巨狼をテイムして本に登録する。
「今日からうちの子ね」
ベロンベロンと舐めてくる巨狼の鼻周りを撫で回し、その因子を探る。
案の定と言うか、巨狼は見知った気配を纏っていた。
一つは、ウルルの物。
召喚術の特性の手前、予想していた事ではあるが、やはりウルルは僕とこの子の子供だったらしい。
構築上では僕の注入因子は少なく、全体の 1割程度しか無いが、それでも単為生殖と言うには濃すぎる血だ。
そしてもう一つは……実際そうなるであろうと言う予測。
まぁ、端的に言えば、ウルラナの子供の中の1匹、名も無き銀狼ちゃんである。
現神・モンデシウルの胎を経て産まれた銀因の霊合者が、あれ程の激動の時代とは言え、そうそう死ぬ筈もなく、斯くして今に至ったと言う事だ。
わしゃわしゃしながらテイムを掛けると、今回ばかりはちゃんとテイムも成功し、巨狼が配下に加わった。
《《【世界クエスト】『大罪の試練:憤怒の試練』が『匿名』によってクリアされました》》
《【世界クエスト】『大罪の試練:憤怒の試練』をクリアしました》
白銀狼女帝 LV812MAX
何やら未知の試練を抱えていた様だが、取り敢えずそれをスルーして、敵と因縁のある者達を呼び寄せる。
その間に、フィールド制限のボスを僕が直々にひっぱたいてテイムした。
《【探索クエスト】『奈落を歩む蜘蛛』をクリアしました》
どうやらアルネアの因子影響を受けて変質した蜘蛛の魔物の様である。
此方も眷属共々インセクト達の配下に納め、やがてはアルネアの配下となる様にした。
まぁ、どうしても嫌だと言うなら……賢神グリエルもいない事だし、七聖賢を解体してインセクターであるノーレルをそこに据えても良いし、虫系の上位種を複数同格で並べてアルネアもその内の1体にしても良い。
ともあれ、道が開かれた事によって、僅かな隠密を纏っていた敵の群れが、その気配を解き放った。
パイア・アダマントス・エンペラー ドルス LV800MAX
パイア・ギガンテス・キング LV678MAX
パイア・カーレフラン・キング LV681MAX
パイア・アビス・キング LV677MAX
パイア・テンペスタ・キング LV680MAX
猪頭の悪魔達。それも大将はアダマンタイトのボディを持つ猪。
これに覚えがある者は、僕の配下には多い。
「ペルセポネの」
「ペルセポネはお呼びじゃ無いかなぁ」
「ペルセポネが、お呼びじゃ無い……?」
そんな馬鹿なとたじろぐペルセポネ。
まぁ、悪魔という特性に加えて、戦力的にもペルセポネの軍勢と当てるとちょうど良い訳だが。
それよりも、と僕は呼び寄せた3人とその配下に視線を向ける。
「気合いは?」
「上等! 雪辱戦だぜ!」
「民と輩の仇を撃つ時……!」
「ふん、儂等を殺した事、後悔させてやるわ……!」
ザイエが意気揚々と拳を打ち鳴らし、アッセリアは黙祷する様に静かに剣を掲げる。ルーレンは杖を構え、その高質な死を纏う魔力をたぎらせた。
気合いは十分。だが、足りないのはレベルだ。
レベルは魂の年輪。
年輪は内から出でる。
年輪が深ければ深いほど、エネルギーの保持容量は大きくなるし、外部エネルギーの影響を受け止める為の緩衝地帯にもなる。
それが700代で50も離れていれば、基礎スペックは3倍以上の差だ。
それを技術と練度で上回れば、ザイエ達でも奴に勝てる。
問題は、誰が挑むかだが……。
「さて、どうしようかな」
現状、まともにエンペラーに挑めるのはおそらくザイエのみ。
一応アッセリアも勇者神サツキの洗礼を受けている為ある程度戦えるだろうが、1人ではキツいだろう。
そんな心算をする僕を他所に、3人が前に出た。
「そりゃもちろん俺が……」
「奴の相手は私が適任……」
「当然じゃが儂が……」
譲れよと牽制しあったかと思えば、いや待てよと、実際に戦ったのはザイエだったり殺されたのは2人だったり、で譲り合う様な雰囲気をルーレン以外が出して此方を見た所で、その声は響いた。
『ザイエェーッ! 我と戦えッ!!』
組んでいた腕を解き、猪頭悪魔の帝王は叫ぶ。
ビリビリと響いた声は激しい闘志を孕み、周辺の木々や魔界の魔力で異常変質した草木が瞬く間に枯れ果てる。
——戦意は死を纏う。
レベル800ともなれば、ただ言霊の余波だけで、柔な魂の生命なぞ容易に破壊する物だ。
「ふっ……上等ぉーー!!」
少し驚きつつも、にっと笑って答えたザイエは、無秩序な闘志をばら撒いたドルスとは違い、木々を枯らす事なく声を響かせた。
「んじゃご指名ってこって」
「ちっ、譲る。必ず勝て」
「武運を祈る」
「おう!」
ここでだめーと言っても良いが、まぁドルス何某は僕の見立てだとマテリアル防御力特化で、武術と言う点ではザイエに劣る。基礎も鍛え上げたザイエの方が上だろうし、出力差である程度は互角に戦えるだろう。
僕は微笑みながら推移を見守る。
「ならば儂等があの取り巻き共じゃな」
「ペルセむぐむぐ」
「……どうやら2対4の様だが、妥当か」
ペルセポネは神話を降ろせば格下4体くらい軽く撫で殺す。2人も神器を行使すれば容易に薙ぎ払えるだろう。
それを使わない計算ならば2対4で概ねまぁ……優勢ぐらいかな。
問題は後の雑兵。
おそらく選出されて育てられたと思わしき100体のレベル300パイアに、1,000体のレッサーデミパイア、レベル100の群れ。
おまけに魔界の門は開きっぱなしだし、他の伏兵がいないとも限らない。
しからば打つ手は決まった様な物だ。
差し当たり、巨狼に名を付ける。
「君はそうだな……今日からウルリエだ。よしよーし」
「わふぅ」
べろんべろんと舐めまくるウルリエを少し撫で、指示を出す。
「君の役割は、外部の伏兵の警戒だ。出来るね」
「わふ!」
ぐっと伸びをしていつでも駆け出せる姿勢を取ったウルリエを横目に、次にペルセポネに指示を出す。
「ペルセポネは門を警戒して」
「ペルセポネは門を警戒する」
「対悪魔系統の神話を先に編纂しておくと良いかな」
「悪魔は得意。神話降誕」
まぁ、悪魔相手なら既存の神話で良いし、余計な神気を増やす負担の大きい神話創造を使うまでも無いだろう。
更に指示を続ける。
「ベルゴ、ナリファンはペルセポネと共に魔界の警戒。コレー、クーロスは折角だから悪魔獣を使役して周辺魔物と迷宮の駆除をする様に」
「りょうかーい」
「御意」
ふごふごする羽付き羊熊のコレーとシャーシャー鳴く触手付き鮫獅子のクーロスをちょこちょこ撫でて送り出し、次。
「アルネア、アルネウムはペアで満遍なく周囲のフィールド制限を解除して来て」
「分かったの。任せるの」
「分かりました、お姉様は任せてください」
「頼んだよ」
「はい!」
「……なんかおかしいの。変なの。逆なのよ。立場逆なの」
何かが納得行っていないアルネアを送り出した。
アルネアは基礎スペックも練度も経験もアルネウムの単純な上位互換だが、事戦闘技術においては比肩する。
アルネアは防御系統に明るいが、アルネウムは攻撃に特化しているからだ。
流石に両者が戦ったら先ず間違いなくアルネアが勝つがね。
更に次。
「リェニは西方、ルェルァは東方、プリノンノはペローと共に南方を厳重警戒」
「承知した」
「りょうかい!」
「まっかせてー♪」
「ウォン!」
駆け出すペローと3人を横目に、追って指示を出す。
「ファニエ、グオード、ドーラは折角だから1番強いパイアと戦闘。蜻蛉羽の妖精達はパイア及びレッサーパイアの群れを殲滅する様に。他の妖精達は観戦」
妖精郷から出された妖精達が指示通り戦場に飛び立つ。
戦力はコレで十分だ。後は、ブラッシュアップ。
「黒霧」
「はっ」
「頼んだよ」
「御心のままに」
全周警戒と支配拡大を行う黒霧に頷き、僕は戦場の調整を行う事とした。




