第10話 巨神、相見えん 四
第八位階下位
金の液体はリヨン謹製ガラス瓶を僕が補強した物に封じてインベントリに仕舞い、次の絵画に入る。
次は、宇宙と思わしき場所に浮遊する青白い巨神の絵画。
入るとそこは小惑星の上だった。
遠く目前に立つ青銅色の巨神は、一切の油断も慢心も無ければ小手調べも無く、神気宿りの拳を振り下ろして来た。
その拳には青白い螺旋が絡み付き、威力を増大させている。
天脈の流れを操っているのだ。
何も無い宇宙空間に見えて、その実エネルギーに満ち溢れている。
退路を塞ぐ様に背後の空間が凍り付き始めた所で、脱出。
青銅の巨神はシンプルに強い様であった。
◇
続けて、半透明な手で埋め尽くされている絵画。
入った先は、宇宙とはまた違った無重力空間。
何処までも続く様な真っ白な世界に、立ちはだかるのは人型の巨神。
赤銅や青銅の巨神と比べてやや細身に見えるそれは、一見して単なる巨大な人。
ただし、よく見ると……目が異常だった。
2つある眼窩に幾千の瞳孔が並び、その全てがギョロリと此方を見下ろしていた。
魔眼だ。
凡ゆる効果の魔眼。
それに加えて、現れたのは無数の神通力による手と足。
全てが高い演算力で管理されているのが分かる。
単純な魔眼と神通力の、異常な手数と演算力による物量攻撃。
対抗手段もまた同じく物量と言う事になるだろう。
この巨神の戦法は、一つの個による攻撃というよりも、どちらかと言うと群体の攻撃に近しい物を感じる。
勿論、巨大な手足により物理で殴る事も出来るだろう。だが、神通力の手足は大きいとは言え本体には劣るし一つ一つの威力でも劣る。
神気は僅かにしか含まれていない以上、神の加護を受けた軍勢を用意すれば対抗出来る筈だ。
「数の限界が見たいね」
そんな事を言いながら、僕は取り敢えず相手の手足と同じ数の小さな手を操り、迫り来る手足から魔力を吸収、巨大化させて五分に持ち込む。
見た所手足はそれぞれ1,000個あり、瞳孔も500ずつの1,000。それを多重思考で1,000に分割した演算力で管理している様である。
「因みに何個受けれる?」
「ペルセポネは……50個?」
「わたくしは蓄財を放出すれば……ざっくり30くらいでーすわ」
「エヴァは全部行けると宣言します」
「ふふ、じゃあどうぞ」
突如として現れたエヴァが平然と嘘を吐くのを笑って一瞬だけ手を霧散させた事で許し、スチャっと構えたエヴァと巻き込まれて構えたペルセポネ、ディザイアを優しく微笑み見守る。
「……ユキがイジワルと明言します」
「ペルセポネも、そう思う」
「ノーコメントですわ」
「己の不明を恨みな」
軽々に嘘を付くと軽々に冗談をやるぞ。
◇
多腕の巨神の絵画を抜けて、次に向かったのは、暗闇に立つ毛むくじゃらの巨神の絵画。
降り立ったその場所は、一見洞窟かの様にも思えたが、どうやら巨星の影の中。
目前に立つのは、毛むくじゃらの巨神。
「……こ、個性的な香りですわね」
「嗅覚器官を封鎖します」
「……ペルセポネは、慣れた」
ディザイアが口を濁した中で、エヴァは鼻を摘み、ペルセポネは獣を多数飼っている為この獣臭には慣れた物。
他の巨神より明らかに小さい毛むくじゃらの巨神は、そんなチビ達の反応には目もくれず、謎の物質で出来た杖らしき物を掲げた。
そうと思った次の瞬間、巨神は巨大化した。
毛むくじゃらも異臭もなくなり、何処か青っぽい雄々しい巨神となった敵は、不意に天脈を纏う拳を振り下ろした。
「ふーむ」
さっき見たなそれ。
先のそれと比べて威力がやや低い様に見えるが、一先ずそれを逸らし、様子を伺う。
すると巨神は不意に多眼へと変じ、生じた無数の手から風の刃をばら撒いた。
面で潰そうとする弾幕をするりと避けて、次を待つ。
今度は半透明な精霊質に変化し、向けられた手の先からややキラキラが減った金の雫を……散弾の様にぶっ放した。
精霊質に変化して体の構造を操り、巨木の雫を再現した上で体を消費して複数放って質を補うと言う訳だ。
世界に触れて爆散した命の波動は、それぞれが干渉し合い指向性を持って此方に迫る。
ベストな回避方法は、大きく避けて威力の低い波動を受ける事だろうが、もう何となく分かったから此処までで良い。
「撤収」
この暗闇に潜む巨神は、他の巨神が出来る事なら少し劣るがなんでも出来るし、それを応用して越えて来る事もある。
強者同士の争いでは付け入る隙が多そうだが、挑戦者側で弱者側の僕等からしてみると、手札の多さと一定強度の維持が成された彼は中々の強敵だと言えるだろう。
◇
次の絵画は、黒く塗りつぶされた絵画。
入ってみると、そこは真っ暗な空間だった。
何かと思った次の刹那、保有魔力の全てを解き放つ。
暗黒がざっと引くのを感じる。
されど、そこにあるのは闇。
何処までも続く暗闇のステージに、暗闇と同形質の何かが潜んでいる。
闇属性精霊の頂点か、シャドー系の頂点か、或いは全く別の物から生じたのか興味はあるが、なにぶん脅威度が高いので警戒に専念する事とする。
暗闇の中で押し出された暗黒は、探る様に僕の魔力を触り、侵食を試みている。
対する僕は、それを防いで敵の魔力を徐々に吸い込んで行く。
如何に僕が強いとは言え、流石に神級の怪物と演算勝負をし続けている為そろそろキツいが、この化け物の性質だけはもう少し詳しく見たいので、粘る事とする。
「真っ暗だからエヴァは点灯します」
「ペルセポネは、暗闇は、心地いい」
「わたくしは明るい方が好きですわ?」
エヴァの目が光り、ビームの如く暗闇を照らす。
偶にやる高等なボケである。
「何も見えないと報告します」
「あぁ、そうだね」
全くもってその通りだ。
エヴァの光は暗闇を照らしたが、その先にあったのはまた暗闇。
光では照らしきれない暗黒が折り重なっている。
一つ分かったのは、敵が光を嫌がって移動したらしき事。
それでも体で受け止めているが、どうも光にはとんと弱いらしい。
そうと思っていると、不意に闇が動いた。
全方位から挟み込む様な圧力が掛かる。
魔力の吸収には最低限の抵抗に留め、とにかく此方を叩き潰す様にエネルギーが流動していく。
闇のそのものである奴は闇を伝う。満たされた暗闇は奴の力の侵食を助長し、僕の魔力に親和的、神話的な隙を作っている。
これは弱点を突く様な神話にありがちな事だが、例えばサンディアなんかは太陽を克服し、生命の誕生に密接に関わる月の力を持つが故に生命の流動を克服し、銀の性質を持つ為に銀の弾丸も効かないが、唯一杭には弱い。
だからどんなに弱い杭でも、どうしても1ダメージくらいは受けてしまう。
それと同じで、闇に満たされたこの空間で、闇そのものである敵は、僕の防御をすり抜けて闇を侵食させて来る。
これに対抗する手段は…………奪われる以上に奪う事。つまり何も変わらない。
神級の闇の適性に抵抗するのは些か以上に手間が大きいが、それはそれで魔力操作系統の訓練にもなるし、何なら神気をただ操る訓練よりも攻勢神気を受けたり逸らしたりする方が良い訓練になるので、ちょうど良いスパーリング相手である。
そうこうやってる内に敵も攻め方を変え、時に拳で乱打する様にあちこちの出力が上がったり、矢で貫く様にあちこちの出力が一点突破で上がったりした。
更に暫し待つと、それは現れた。
「ふむふむ」
「ほうほうとエヴァも意味なく頷きます」
「ペルセポネは、興味深い」
「生成系、オルダナでは無いから影属性の神霊金属ないし物質ですわ?」
正しく、暗闇にあって尚暗い、闇を吸う闇、影の結晶。
幾つかの角ばったパーツが人型の様なシルエットで集まり、その鋭い手が僕の魔力を貫く。
かなりの出来の良い人形だな。
「興味深いなぁ」
「「「っ」」」
新しい未知の神霊金属。ぜひサンプルとして持ち帰りたい。
僕が手を伸ばし、それを掴むと、それは正しく影の如く、ゆらりと僕の拘束をすり抜けた。
「影には影を、君の舞台で踊ってあげる」
君の得意分野を叩き潰してあげる。そんな挑発に乗ったかそれとも興味深いと思ったか、他の暗闇は手出しをせず、僕の伸ばした影人形と、敵の操る影の神霊物質で衝突が起きる。
なんだ、正体が掴みにくい割に、他の巨神と違って遊び心があって良いね。
少々敵に付き合って、程よく戦った所で、神霊金属を奪取して撤退した。
かなりの消耗になったが、良い拾い物である。




