第9話 巨神、相見えん 三
第八位階下位
次は、巨大な木が描かれた絵画。
木は捻じ曲がり、幾重にも広がり、大地に根ざしている。
入ってみると、見えて来たのは森。
然程深くも無い森はしかし、次の瞬間に鳴動を始めた。
木々の隙間から見えたのは、巨大な木が蠢めく姿。
同時に僕の感知が捉えたのは、この世界の特殊性。
天を切り裂く様に立つ大樹には、幾つかの世界が内包されているのが分かる。
大樹は深く根を張り、大地を突き抜けて絡まり、世界を持ち上げている。
この有り様は、ルメールの理想とする所に近い。
どの様な動きを見せてくれるのか。
そんな期待と共に待つと、それは起きた。
ググッと世界が歪む。
一つの世界に内包される全てが、歪みを引き起こす。
次の瞬間、天を覆い尽くす様な大樹から、光の玉が落ちて来た。
輝きながら落ちるそれは、力の塊。
大樹の体内構造から生み出され、神気を宿された命の結晶。
刹那、それは世界に触れた。
水鏡に雫が落ちる様に、波紋が広がる。
それは固有の生命力の波動。
莫大な、世界を揺るがす程の、命の煌めき。または激毒。
だがまぁ所詮は超広範囲攻撃。込められた神気も指向性は特に無く、攻勢意思こそ込められているがプレーンに程近い。これくらいなら2人でも防げるだろう。
僕は2人をチラッと見て、波紋の根源へ指を差した。
「「っ!」」
2人は即時反応し、防御を展開する。
「神話降臨・冥界の女王」
「大願成就・怠惰」
形成されたのは、神話による闇の帷と財宝による怠惰の指向性弱体領域。
30万+αの意思を纏めて操作された神気は乱雑に放たれた神気の防御として十分だし、罪悪滔天を模して作られたその権能の一部、怠惰を持つ財宝による弱体化領域は僅かばかりの神性を宿して怠惰を執行している。
対する僕は、僕に飛んで来た生命力を吸収した。
固有生命力は猛毒だが、僕程に受容範囲や受容強度等受容力が高いと、少しの工夫で受け止められる。
少なくとも暴力的な属性を持つ魔力よりは受け取りやすい。
そんなこんなで、ペルセポネが波紋を弾き、ディザイアは弱体化させて受け止め、僕は全部受け取った。
ペルセポネの闇は莫大な生命力にさらされて薄れ、ディザイアは消化不良を起こして膝を突く。
「ふむ」
準備期間が短ければこんな物かと頷く僕に、ペルセポネは唇を尖らせる。
「ペルセポネは、もっと出来る」
「僕くらい?」
「それは、イヂワル」
意地悪したからね。
微笑む僕に対し、ディザイアは少し悔しげだ。
「読み外しましたわ……」
うぐぐと唸りつつそう言う彼女にも微笑み掛ける。
「もう一手打てたら良かったね」
それを言ったらペルセポネも神話降誕で神話を編纂して特化させるか神話創造で対抗神話を組むかした方が良かった……と言うか、夜と眠りの神性と生命の神性は相性が悪いのでしないと相性上相克だから防御側だと被害が大きいのだよね。
ディザイアの方も、七罪系で組むなら怠惰だけでは無く、捕食吸収、分解に特化する強欲か暴食辺りも使っていた方が良かった。
少なくとも装備を錬成して色んな準備が出来るディザイアにはそれを行使する余裕が十分にあった。
正しく、出来るだろうと言う読みを外した訳である。
……多分生来の欲望が強いから、強い手札を出し渋った物と考えられる。
さて、他方、超広範囲攻撃を放った木の巨神はと言うと、これが固有の超高濃度生命力を叩き付けると言う攻撃である手前、消耗が殆ど無いに等しい。
なんなら強固に閉じられた世界の中で爆散した為に、漏出によるロスも殆ど無い。
森の世界の木々は衝撃を浴びて異形化しているのでその分の消耗こそあるが、二撃目以降は本当に消耗がほぼ無いと言えるだろう。
これをどうにかするには、世界を分ける防壁を破壊するのが良いか。
直接に巨神を倒しに行くには単純な生命力が膨大に過ぎる。
そんな考察をしていると、また樹冠から雫が降って来た。
二撃目かと思ったのも束の間、それは先を遥かに上回る速度で僕へ振ってくる。
なんなら意思を宿している為ホーミング仕様だ。
金色の輝きを纏い僕へ飛び掛かる雫を取り敢えずキャッチして良く見てみると、それは爆散しないタイプの雫だった。
掛かったら固有属性魔力の侵食を受けて樹木になる奴である。
「わぁ……持って帰ろ」
「ポイしなさいな!」
「ペルセポネは金色だからなんでも受け入れるのはおかしいと思う」
そのヤバさを端的に表す様に、ディザイアは疑問系をかなぐり捨てて確信に至り、ペルセポネは長文を話す。
基礎抵抗力がレベル700以下ならどんな物でも問答無用で樹木化させる事実上の激毒。を前にしては、流石の2人も嫌そうである。
でも間接的に巨神の力を測る試金石になるから何と言われても持って帰る。
何だったら並みの報酬アイテムを優に上回る上物だし。
暴れようとする液体を持って、僕等は絵画を離脱した。




