第8話 巨神、相見えん 二
第八位階下位
次の絵画は、湖や川、森に山に海と、やたらに豊かな自然の中に、透明な輪郭が浮かんでいる絵画。
早速突入する。
◇
絵画の世界に入ると、柔らかな風が吹き抜けた。
場所は山の上。
僕は地上を見下ろした。
仄暖かい風が青い香りを引き連れて駆け、広大な大地には燦々と陽光が降り注いでいる。
一見長閑なその場所に、見えるのは半透明な輪郭。
天を衝く程に巨大で、莫大な生命力の塊。
——巨神だ。
だが違う。
先の赤銅巨神と比べて十分の一も無いが確かな巨体。
ただし、そこに核は無い。
莫大且つ高密度のその魔力は、確かにそれ自体が核と言われれば納得出来るくらいには高質だが、違う。
僕は大地深くを見通した。
——巨神だ。
長閑な野原が、静かな湖が、柔らかな川が、蔓延る森が、聳え立つ山が、広大な海が——この大地そのものが。
——この星そのものが、巨神だ。
僕が気付いた事に気付いたか、大地が鳴動する。
あちこちから命が立ち昇り、半透明な巨神へ集束して行く。
おそらく星霊からの進化か、もしくは精霊の現神からか、或いはそれらの賊神か、ともあれ、この巨神は星に浸透しその力を循環させ、増大させ、己が物としている。
既にあった大地に浸透して同化し己の一部としていると見られ、巨神から大地が生まれた様なタイプでは無いと見られる。
まぁ、このレベルまで来るとそんな起源に関わる事は瑣末事だが。
はっきりしているのは、その構造が星で生息している生物の産出魔力を増やして回収する様な投資的構造であり、いつでもそれを回収する事が出来ると言う点。
何はともあれ、先の巨神のエネルギーと操魔力を参考にして今の巨神の特性を考慮したら、出来る事やその限界はある程度予測が付くので、ここで撤収としよう。
ペルセポネとディザイアの首根っこを掴み、デコイを残して即時離脱。
直後に大地が爆発した様に揺れ、デコイが大地の槍森に飲み込まれたが、赤銅巨神に貰った魔力なので実質消耗ゼロである。
巨神の戦法はこう言った大地操作や天候操作などによる、覇級を超えた亜神級魔法、もとい権能クラスの災禍の行使だ。
亜神や神の情報を考慮すると、それぞれの属性神気は指向性が大して無いあるがままの物だろうが、それでも全てを飲み込む様な海の氾濫や全てを押し潰す様な大地の反転、全てを塵に帰す様なハリケーンを連射して来るだろう。
◇
次に向かったのは、平坦にならされてしまった大地に、それを踏み砕き山を粉砕する巨獣が描かれた絵画。
入ったその場所は、またもや山の上。
そして此方をフォーカスする巨獣が遠く目の前に立つ。
最初の巨神と比べれば小さいが、溢れ出る暴力の気は一段上回るかもしれない。
捻れた巨大な双角と燃え盛る様な立髪、狼の様な頭部に、しなやか且つ強靭な肉体。その上半身はどこか獣人めいており、見た目の割に知能は高そうだ。
そんな巨獣は僕を見るや知性の欠片も無く突進して来た。
大地を粉砕しながら駆ける巨獣。その速度は例によって遅く見えるがとんでもない高速。おそらく全力の速度は速度特化のウルルに匹敵するか越える程だろう。取り敢えずあちこち負荷を掛けて転ばせる。
一瞬一瞬に激しい抵抗があり、勢い良く走る獣を単に転ばせるには些か大きな消耗がありつつも、巨獣はスライディングする様に倒れ込んだ。
大地を激しく揺らし、山々を消し飛ばしながら滑り込んで来る巨獣。
それは僕等の目の前で止まり——不意に巨獣は首を振った。
悪足掻きの攻撃。巨大な角が高速で迫り、それを止めるや今度はブレスを吐こうとしたので角を押さえ付けて首を逸らす。
ブレスは僕等の遥か斜め前を駆け抜け、扇状に天変地異の大災害が振り撒かれる。
突進も角もブレスも駄目と来た所で、巨獣は最大最後の抵抗を開始した。
「ふむ」
「ほむ……?」
「なむですわ!」
巨獣はメギリメギリと筋肉を膨張させ、神級の演算力をフル活用して身体強化を測る。
吹き上がるオーラは神気混じりの攻勢意思の塊。触れるだけで霊験門を越えていない者は侵食を受けて変質するだろう。
単なる暴力の増大は僕の拘束を打ち砕き、今度こそ至近で角を振ったので離脱した。
神気で直接殴って来る訳じゃ無いからやり方は多少あるが、肉体を介在するからと言ってほぼ精霊体だから神気と相対するまでの猶予もそう多く無い。
対抗するにはやはり練度次第と言った所だろう。
神気に指向性を持たせる攻勢化はそう難しく無いが、魔力の様に自在に動かすとなるとやはり意思量が不足したり、攻勢化にしても細かい操作が難しかったりするからね。
受け止めるにしても打ち払うにしても受け流すにしても、神気操作の練度次第だ。
その点で見るとこの巨獣は、神化サンディアにも止められないしマレでも無理だ。
後はそれぞれの連携次第と言った所だが、黒霧なら止められるだろう。




