第7話 巨神、相見えん
倒してみたら何か分かるかもしれない。
だがせっかくの強者だから配下に倒させたい。
しかし倒すにはそれなりの準備が必要になる。
そんな思考の元、取り敢えず僕が見に行ってみると言う結論に至り、早速絵画に入ってみる事とした。
敵は想定亜神級。
単純に言えばマレやベルツェリーア級、もしくはイヴか、下手をしたら邪神竜アジダハーカに匹敵する可能性もある。
僕単独でも今となっては入念な準備さえあればアジダハーカにも勝てるだろうが、僕の配下の中で単独でそれを成せる者はいない。
やはり基礎スペックがまだまだ足りていないのだ。
仮に巨神がマレ程度であれば神群1つで事足りる。サンディアが月煌宮の全ての機能を行使した場合の想定戦力が、レベル900程度であるからだ。
ベルツェリーアレベルならそんな神群、もとい神群の力を一点に集めた主神が2人か3人欲しい所、イヴ程であれば3人だが、母艦も含めると5人は欲しい。最悪アジダハーカレベルなら……黒霧を総動員させるか僕が補助に徹した上で、6つ以上の神群を消耗し切って漸く倒せるくらいだろう。
勉強の為にも、ペルセポネとディザイアは付いてくるに任せ、早速赤銅の巨神の絵画に入る。
黒い砂の舞う荒野と噴き荒れる火山、何処までも広がる様な荒地の果てに、あるのはヒヒイロカネの巨壁。
相変わらずヒヒイロカネの鎖で括られているのが、足しか見えない巨神だ。
巨神は前回と同じ様に手を振るい、天を覆う黒い雲を掻き消す。その余波で地面が激しく削られて大地とマグマが飛び散った。
開かれた視界の彼方、此方へ向けられた手の先から、生じたのは巨大な火球。
前回はさっさと逃げたそれを、今回は計測してみる。
高速で迫る巨大な火球に、伸ばすのは魔力の腕。
込められた莫大且つ超高質の火属性魔力は、並大抵の強度の魔力なら火属性へ変換して自らの力に変える。
ざっくりだがレベル600程度の演算力で漸く抵抗出来る程か、ジャブにしては強力である。
取り急ぎ高質の火属性魔力を吸収し、分解して練り直す。
増やした手で更に魔力を吸収し、分解して手を増やし、それを続ける事で瞬く間に火球は消滅した。
質は当然高いは高いが、これくらいならアルフ君やサンディア、ディルヴァ辺りでも吸収出来るだろう。
脅威と言えば規模がデカい点だが、別に守る物がなければ大半はスルー出来るし、必要十分な量を打ち払ったり防御したりすれば良い。それ即ち、的がデカい方が不利と言う事だ。
さぁ、次は? そう思いながら見上げていると、直ぐ様生じたのは5つの火球。
先と同じ規模が5つだ。
こうなって来ると、さて……全部吸収出来る子はうちにはいないだろう。
流石にキャパオーバーだ。シャルロッテなら或いは出来るかもしれないが、最も相性が良いアルフ君とレティとセラでも行けて3個と言った所か。
流石は巨神。保有する魔力の量が桁外れである。
現状の僕の魔力保持容量は、最大まで練って詰め込んでも火球5つ程が限度だろうが、奴にとってはざっと……1割程度かな? それなりの消耗である。
取り敢えず僕の保有する全魔力を放出して火球全てに手を伸ばし、素早く分解して練り直した。
火の球をポンポン投げられるのは分かったから、次は全力で一撃やってみて欲しい所。
取り敢えず僕2人分+αの魔力を操って拳を形成し、巨神の足をぶん殴った。
敵もされるがままでは無く、対抗して放たれた蹴りと拳が衝突し、押し込んだ足が地面を削ってマグマを飛び散らせた。
「……凄まじいパワーでーすわ」
「……ペルセポネも……頑張れば出来る」
疑問符の欠片も無く頷いたディザイアと、首を傾げつつ頷くペルセポネ。
一瞬で起きた攻防を良く見えている。
魔力強度に差を付けた拳は、その内レベル650以下の練度の魔力が火球同様火属性に変換されて吸収され、同じ火属性はレベル700までを吸収されたのが観測出来た。
莫大な魔力同士の広範囲に渡る衝突は、ミクロな視点では激しい戦いを繰り返し、それに勝利を重ねた僕側が打ち勝った。
それでも、僕0.2人分の魔力を掠め取られたのだから巨神の練度は極めて高いと言える。まぁ僕は僕0.4人分程掠め取ったので実質0.2人分増えてるけどね。
より一層詳しく巨神の戦闘力を測る為、僕は増えた0.2人分の魔力で周辺世界の魔力を吸収し、拳をもう一つ形成した。
僕4人分の魔力である。
この時点で、巨神も手札を切らざるを得なくなったか、現れたるは——火の螺旋。
渦巻く火炎は瞬く間に肥大化し、周辺魔力を吸収して質を高めて行く。
あからさまな溜めに対し、僕は待ちの姿勢だ。
おそらく全力では無い。
しかし火球と比べれば何段階も格上の術だ。
果たして——
『——■■■■■』
天を覆い尽くして渦を巻く火炎は、響き渡る音と共に降り注ぐ。
光線の様に集束するそれは、総エネルギー量では僕5人分はある。
質も極めて高く、集束しているとは言え広範囲の螺旋光は回避も困難だ。
取り敢えず神性を含むそれを吸収、分解、再構成して、おまけに周辺の魔力も集め、僕10人分の魔力を纏めて拳を形成した。
流石に攻勢神気は僕を持ってしても操作が十全では無いので、多少は手間取ったがこんな物だ。
神気の変換自体は現状出来ていないので、火の神気はありがたく頂戴しつつ、次の攻撃に合わせた。
——拳だ。
極めてシンプル且つ合理的な、巨大な拳の振り下ろし。
身体強化に生じたオーラは希薄に見えるが、その実濃密。仄かに灼熱のオーラを纏う拳が迫る。
遠いが故にゆっくりに見えるが、その実巨体の割にあまりにも速い。
天が落ちるかの様なその一撃に、僕は拳を這わせた。
ドプンッと、まるで泥に落ちるかの様に、腕を魔力で覆い尽くして打撃の勢いを完全に止める。
それと同時に激しく抵抗する巨神のマナを貪り、即座に対抗して腕全体から繰り出された神炎を避けた。
流石の僕も攻勢神気の塊を受け止めるのは消耗が大きい。
表面を舐め取る様に神気を少々奪ったが、それだけだ。
巨神は神気を多少奪われつつも、攻勢神気でしか僕に対抗出来ない事を悟ったか、全身に神炎を纏い、生み出したるは神炎の剣。
一目見て分かった。
この一撃は星を両断する。
そもそも拳の時点で、まともに当たれば星を揺るがす一撃だ。
おそらく全力と見られるその斬撃が、星に再生不能の致命的なダメージを与えるのは想像に難く無い。
当たれば並大抵の者では消し炭になる他ないだろう。
こればかりはまともに止められる誰かが居ないと話にならない。
具現化した神火の巨剣は高く振り上げられ——
「——撤収」
さっさと離脱する事とした。
いやまぁ、顕現する前に力を端から奪って行くとか、態々剣として振ってくれるみたいだから体の各所を突いて体勢を崩させるとか色々出来るけどね。
でも他の絵画も見て回らないといけないから無駄な消耗は控えておく。




