第6話 誰が為の楽園
第八位階下位
皆が帰った所で、改めて中断していた方々の仕事を進める。
西方調査隊は、アルネアとアルネウムを加えた妖精達が進行を再開。
目的地であるアルネアの巣へと直進する。
寄り道は程々にする様に伝えたが、まぁあまり聞かないだろう。
実際の所は付近の迷宮を潰しつつ、黒霧を生産、配置して支配領域を広めながらの進行なので、アルネア達程の実力者なら待ち時間の方が長いだろうし、多少の暇つぶしには目を瞑る事とする。
僕のメインは、宮の迷宮の調査だ。
現時点で分かっているのは、塔の迷宮が地脈の操作を目的として作られた複数ある塔の1つであったと言う事と、それらの地脈が纏められた場所が宮の迷宮であると言う事。
そして天楼と言うかつて複数あったらしい空舞う円形の施設が地脈を空脈に、引いては宇宙脈……は言い辛いから天脈とでもしようか、空脈から天脈へ繋げ、城の迷宮がそれら莫大な力と信仰を神へ捧げて神が降りる場所となる。
定命の者が作ったにしては出来が良すぎる機構だし、十中八九神側のアプローチで作られた施設だろうと思うが……まぁシャルロッテが旧ルステリア帝国並みの権力を持ったら作れていたかもしれないし、そこら辺は何とも言えない。
ただ、信仰を纏める施設のモデルケースとしては極めて良質だし、データ取りは必定。サンディアとかイェガとかの神群の長クラスに必修教材として提示しよう。
ウキウキしながら調査を始め、宝箱や宝物庫から出たアイテムや装飾的な施設の配置やらの関連性を調べたり、壁画やルーンの深掘りなんかを、いつの間にか現れていた暇人のペルセポネとその妹分になっていたディザイアと進める。
「……ペルセポネは……ここが好き」
「ボス部屋周りの地脈の収束機構ね。過剰分を都市内に供給する循環装置と摩耗の修復機能、サブ収束機に交換用のスペア。損壊の対策がしっかりしてるし、場合によっては全部を都市に流して別の塔から収束させる事が出来るのも高評価だね」
「わたくしは石が良いと思いますわ?」
「石材はおそらく地脈の収束機構を利用して生産された物だね。魔力の受容力がかなり高いし、魔導耐久も物質耐久も地脈の衝突を受けるのに十分な強度だ。都市自体が信仰を受けている分その土地のあらゆる物質の強度も高い」
あれが良いこれが良いと学習を進める彼女等に、僕もあれこれ解説をしつつ調査を進めた。
新たに分かった事は、おおよそ3つ。
先ず、この施設が地脈の集束と言う機能を有している事により、莫大なエネルギーの流動に信仰の吹き溜まり、神域が引っ張り上げられ、本来産まれる筈の星霊が発生しない様になっていると推測される点。
これが何らかの神による所業であるなら、それが現神ならば自らが星霊となってやがては神として君臨する為の星辰炉と言えるし、所謂賊神等、異界の神であるなら、不穏分子である星霊の誕生を阻害しつつ自らに信仰を搔き集める星辰炉と言える。
神の所業で無いのなら、星霊と言う形で神を生み出す為の星辰炉かもしれないし、或いは何処ぞにいると信じた神へ信仰を捧げる為の物だった星辰炉かもしれない。
何にせよ、地脈を搔き集めるこの超巨大施設は、信仰を搔き集める機能を有し、神を生み出す、またはその力を増大する施設である。
次に、塔の迷宮以外の塔の存在について。
都市の外壁に描かれた壁画を見ると、各地に複数の塔が存在していた事が分かる。
それ等は星の大動脈と目される地点に分布しており、導く塔、導塔と堰き止める塔、堰塔の2種が配置されていたのが分かった。
複数存在する大動脈の壁画の内、22個が覚えのある地形だったので、塔と宮以外の下位環境迷宮と中位環境迷宮をひっくり返した所、ほんの僅かに地脈をコントロールしようとしたかもしれないと見れる痕跡が見つかった。
具体的には、迷宮と言うドーム状の結界の中、地脈にはまだ遥かに遠い大地の底に、不自然に受容力が高くなっていたと目される地層が発見された。
もっと具体的には、発生した極小魔力結晶が喪失し脆くなった地層に水が溜まっていたり、地低棲魔物の活動痕跡が地脈外なのにやけに多かったりする不自然な痕跡である。
勿論、地脈の流れの細かい部分はプレートの動きや迷宮の発生等によって変動する為、これだけでは確実にコントロールしようとしたとは言えない。
……仮に観測された通りの地脈の流れをしていたとしたら、ちょうど流れる先にボスが配置されており、流れて欲しくなさそうな所に裏ボスが配置されているのが分かるし、何ならプレイヤーが入り口からボス部屋に向かう際の最適ルートがかつて地脈が流れていたと思われるルートと程近いので、ほぼ確実にコントロールしていた痕跡だ。
意外にも大地と接していない雲の迷宮等はそこら辺分かりやすく、地脈の流れこそ見えないものの、吹き上がるエネルギーの流れが螺旋を描いて天に昇っている為、ボスが配置されている所に導塔があれば最適ルートで空脈が流れていたのが分かるし、その先の裏ボスの位置に堰塔があれば天に昇っていた空脈が大地へ返還されるのが分かる。
雲の迷宮を示していると見られる壁画には、星の深淵から一直線に空に向かって地脈が流れている様子が描かれているので、ある程度勢いが弱まる空の上からでないと噴出する地脈をコントロール出来なかったのだろう。
この事から、迷宮をデザインした神々は、プレイヤーの動きと死者から拡散する生命力の浸透を呼び水に地脈の動きを変動させて星辰炉を再起動する、もしくはかつて神へ至った地脈の流れにプレイヤー達を沿わせる事で、プレイヤー達の強化を計ろうとしていると推測出来る。
最後に、上位環境迷宮との関連。
城を除けば11個ある上位環境迷宮は、その痕跡が宮にも天楼にも存在しない事が分かった。
また、城を調べた結果、此方にも上位環境迷宮に関連する情報は得られなかった。
強いて言うなら配置される使徒の属性が、各上位環境迷宮と程近い物であると言えるが……仮にそれを神域へ至る為の試練とするならば上位環境迷宮の踏破と使徒の撃破と言う属性上ダブる試練を課すのは不自然だ。
僕が気になっている点で言うなら、使徒が使徒そのものとして存在していたのに対し、上位環境迷宮のボスは幻影な点。
それから、上位環境迷宮のボスを倒した踏破報酬に楽園の鍵が含まれ、神の棲まう城の中にその鍵を使って開かれる宝物庫があり、その中に巨神の絵画があった事。
色んな事は考えられるが、巨神が僕の感じた通りに神の一種であるなら楽園の宝物庫に納められていた点から封じられていたと解釈する事が出来る。神の失踪に関係があるかもしれない。
加えて、仮に幻影のボスが巨神に挑む為の試練とすると、幻影では無い本物ないし化身級のボスが楽園やそれに関連する施設の何処かに存在する可能性がある。
纏めると、下位環境迷宮と中位環境迷宮は塔と宮を通して城に至り、楽園へ信仰を捧げる為の星規模装置である。
城以外の上位環境迷宮は楽園の神と何らかの関係がある巨神と関係があり、ボスが幻影だったが故に楽園ないしそれに準ずる施設に本体が配置されている可能性があると言う所。
星辰炉のサンプルデータと強敵の実存可能性。
中々に良い情報が手に入った訳である。
ペルセポネは纏められた資料を持ち、深く頷いた。
「……ペルセポネは、これを作る」
「ちょうど良い星が無いから無理かな」
「……」
ぷぅと膨らんだペルセポネの頬に義務突っつきして縮ませる。
「まぁ、ちょうど良い物が手に入ったらあげるよ」
至天霊郷の様な莫大な異界に伝は無いし、異界を内包するのに適した神珍鐡の在庫にも然程余裕は無いが、魔界辺りを平定したらペルセポネ用に色々考えても良いだろう。
むふーと満足気なペルセポネ。対するディザイアも資料を抱えながら、首を傾げる。
「わたくしも自領域欲しいでーすわ?」
「ディザイアは黄金都市アウルジアの支配人になって貰う予定だから」
「あら? そうですの? 頑張りますわ?」
「……ぷぅ」
妹分に先を越されて頬を膨らませたペルセポネに義務突っつきをして甘やかしつつ、僕は巨神の絵画を取り出した。




