第5話 バランスを取ろう
第八位階下位
宮の迷宮の随所に刻まれた神話、神の見守る国の、天へ通ずる楼閣の守護者。
迷宮のあちこちに壁画と僅かなルーン文字によって描かれたその神話は、各地に建てられた地脈を操る塔と、その果てに立つ天へ繋がる宮殿、そして地脈を天へ導く複数の天楼に、その果てにある神座の巨城。
色々と覚えのある話である。
確かに、塔の頂点には地脈の化身たる機神がいたし、裏ボスは神の代弁者足り得る雷の性質を持つボスだった。
何処とも知れぬ城には神の使徒が配置され、その深奥には神の代行者が降臨する神座があった。
地脈は塔によって纏められ、宮殿を通して天楼へ至り、天楼を通して空脈と繋がり、空脈を通して星の吐息と呼ばれる、所謂宇宙脈へと繋がって、そこに存在する城を通して、あの楽園へと繋がるのだろう。
そんな大地を楽園へ繋げる通り道である天楼、その守護者をサクッと片付け、特に何も無い事を確認してから、証集めを再開した。
この試練の証。
どうしても集めなければならない理由は、その使い道にある。
3種類程度ある使い道の内1つは、次の試練へ挑む為の元手だが、問題は次以降だ。
件の2つ目は、プレイヤー支援の為の施設の解放。
この施設と言うのが曲者で、例の雪原の迷宮にある温泉と同じで最初の解放者に利権が与えられる代物なのである。
例えば、火と水、雲と木のルーンが刻まれた試練の証を水瓶を持つ女神の像の台座に嵌める事で解放される薬湯の施設。
これは解放後、宝石を嵌める事で薬湯が1時間と10分程度利用出来る。
嵌めるルーンによって湯の効果が変わり、ルーンが多い程より効能の高い湯が出る仕様である。
湯に浸かるにはルーンを使った者の許可か、もしくは使われたルーンの数×1,000MCの支払いが必要で、その内施設を開放した者には10%、ルーンを使った者には40%の利益が与えられるのだ。
温泉施設の他にも、食事処や高級宿、移動用の乗り物や、桃狩りよろしく薬草狩りが出来る庭園とか、浄化された水が流れる水路とか、色々な施設が複数点在している。
これら全ての解放の為にも、証が大量に必要なのだ。
幸い、証のドロップは1体に1つと言う訳ではない。
迷宮の設定を詳しく調べた所によると、証にはクエスト方式のドロップ条件があり、それを満たす事で証を手に入れる事が出来る様である。
入手条件は5つ。
先ず、討伐報酬でランダムな対象に1つ与えられる。
次に、そのボス戦において、与えたダメージや耐えた攻撃、仲間への指示や援護等の合算によるMVPに1つ与えられる。
続けて、与えたダメージ量が多い者に1つ。
ただし条件は簡単に見えてやや複雑で、設定されたボスの体力の10%以上を削った者が出た場合ドロップが確定する。
つまり、11人で9.1%程度ずつ体力を削った場合、与ダメージナンバーワンドロップは発生しない。
逆に10人で皆一律に10%丁度削った場合10個ドロップする仕様である。計算される数値の1でも違ったらより高い者にドロップするので先ずあり得ないが。
次に、耐えたダメージの総量が多い者に1つ。
こちらも与ダメージと同じで、ボス戦参加者の設定された体力の合算値から10%が削られた時点でドロップが確定し、最も受ダメージが多い者に与えられる。
与ダメージと同様で、数値が同じ者が出た場合複数の証が与えられる仕様だ。
最後に、回復や指示、補助魔法や物理的な援護のMVP。
僕はこれらの条件を満たす為、先ずボスを念力で操ってボスの攻撃力を数億倍に引き上げて僕に10%のダメージを与えさせ、次にそこらで拾った石をゴーレム化して付与魔法で援護し、それを投擲してボスを爆散させる事で、討伐報酬、MVP報酬、援護報酬、攻撃報酬を2個、防御報酬を2個、計7個の証を2秒に一度程度のペースで周回して集めた。
そうして集めた証の使い道の3つ目が、宝箱である。
これこそがこの迷宮のメイン。
絶対的な旨みの源泉であり、プレイヤー達が長く利用するコンテンツになると予測される要因だ。
この都市の中には至る所に宝箱が用意されており、それは隠されていたり、これでもかと主張していたりする。
宝箱には種類があり、必要とされる証の数や組み合わせによって中身が変わる仕様だ。
基本的にはルーンの数が多い程良い物が手に入り、そのルーンの組み合わせは相当な数がある。
例えば、ルーン1つで開けられる銅の宝箱、ルーン2つで開けられる銀の宝箱、3つの金の宝箱、4つの宝部屋、5つの宝物庫、10個の宝物殿等。
中には単一のルーン複数で開けられる物や緑のルーンのみで開けられる物も結構あるので、例えば水属性特化の3人組とかが水や火のボスを上手い事やって楽に周回し、証を簡単に複数集めたりして、宝物殿を開ける事も出来る訳である。
その報酬たるは、下位環境迷宮とかがボスドロップの素材等だけなのに対し、この宮の迷宮ではボスドロップの素材に加えて宝物まで手に入るのだから、必然的に得。
何なら宝物はボスドロップにそんなに目劣りしないので、1回で最低でも証3個確定と考えると、稼ぎは倍以上になる仕様だ。
まぁ、プレイヤー達が儲けるのは構わない。
色々と調整が必要になるが、迷宮の難易度から見ても喫緊の用事では無い。
問題は、実はそれら全ての宝箱から宝物殿までに、初回限定一回限りで5倍近い報酬が用意されている点である。
これは極めて大きな問題だ。
プレイヤー間の戦力バランスに致命的な差が生じる危険性が極めて高いのである。
具体的に言えば、コウキ達等が必然的に最初に宮に到達し、ボスを攻略する。
当たり前に宝箱を開け、初回限定の報酬に気付く。
積極的に宝箱の開封を始め、戦力が爆発的に増大する。
周回が楽になり、どんどん宝箱を開ける。
このサイクルが、最初の到達者とそれ以外に覆せない差を生じさせるのだ。
勿論、フィールド制限の要領で手を加えて富の分配を操作しても良いが、流石にそこまで誰ぞの尻拭いをするのも手間なので、僕が総取りして分配するのが一番楽である。
既に他プレイヤーが宮の迷宮に入る事が出来る現状、宮の迷宮の攻略は速やかに進めなければならない。
手に入れた装備や魔道具は、宮の迷宮の周りの土地を買い、迷宮の出土品として展示、販売すれば良かろう。
適当なクエストの報酬として提示しても良いし、闘技祭のレッドコインと交換出来る様にしても良い。
捌き方は幾らでもあるのだ。
……それにしても、塔と宮と城、そして楽園にこれ程の連続性があるとはね。
宮にはヒントが多い様だし、より詳しく調べれば、楽園の謎を突き止める助けになるだろう。
例えば……楽園からいなくなった神の行方とかね。
◇
早めの昼食を摂った午後。
今日帰宅予定の面々を見送る。
不意にマヤが僕の隣に立ち、セイト達へ手を振った。
「……ばいばい」
「帰んな」
「……ここに住む」
「所定の手続きを終えてからまたお越しください」
「……仕方ない」
仕方ないと言いつつ僕を持って行こうとする仕方ないマヤに程々に抵抗していると、やってきたのはマガネことオウリ。
「バカな事をしてないで行くぞ」
「……本当にこれがバカな事?」
「……本当にそう思う?」
「い、いや、え?」
それ以上の物を言わずに無言で見上げる僕とマヤ。それに突然ハシゴを外されたオウリがたじろぐ。
僕が程々に挨拶している一方、セイトとタクが程々にやり取りしたり、アヤ達が大袈裟にやり取りしたり、リンカちゃん達が集合時間の話し合いをしたりと、暫しの別れを惜しむ。
これで、鈴守と鈴護以外は帰路に着く事となった訳である。




