掌話 頂きを見上げて 九
第四位階中位
現れたドラゴンに、息を呑む。
「お、おぉ」
「やばぁ……」
いや、よく見ると色々と違う部分はあった。
翼がないし、どちらかと言うと蜥蜴、と言うか恐竜と言うか……炎をあちこちに纏っているし……これは……。
『差し詰めサラマンダーか?』
大剣士の呟きに、それだと頷く。
サラマンダーだ。火の精霊的な奴。
『……ゴーレムを嗾しかけろ』
リーダーの指示で、ゴーレム達が再召喚され、壁を形成する——次の瞬間、炎のブレスがゴーレムとドールを襲い、瞬く間にそれらを青白い粒子へと変えた。
『火力はドラゴン並み、か』
大剣士の呟きに頷く。
以前大剣士達が戦った、動画で見たドラゴンと同等のブレスに見えた。
それにしても、今まで相応に戦えていた壁部隊が、全体的に消耗していたとは言え一撃、数秒程度しか持たなかったのは衝撃的な映像だ。
流石の最前線プレイヤー達もこれには怯み、動きを止める。
それはもしかしたら一瞬の惑いだったのかもしれない。次の瞬間には指示を出し、動き始めただろう。
その小さく、そして大きな間に、サラマンダーは動きを見せた。
前に進む。たったそれだけ。
『っ、防御だ! 『ドラゴンスケイル!』』
即時に下された指示に従い、各々が防御を固める。
次の瞬間——ブレスが放たれた。
「「うわぁ……」」
人影が炎に巻かれる。
とてもじゃないが喰らいたくない攻撃の直撃。
これは……流石にやばいか? そう思った直後、それは炎を切り裂いた。
『『ドラゴンホーン!』』
竜の様なオーラと共に、直進する光が炎を巻き込み、サラマンダーの顎を穿つ。
『ごほっ……続け! ごほっごほっ』
肺が焼かれたか、咳き込みながらの指示に、あちこちから必殺級の武技が放たれ、サラマンダーに直撃する。
だが、敵もやはり、現状トップクラスの怪物。無数の攻撃の直撃にまるで怯んだ様子を見せず、それどころか腕や尻尾を振るってプレイヤー達を次々薙ぎ倒して行く。
流石に高レベルと言う事もあり、追加HPの残存もあってか即死する様な人はいないが、それでもポーションを使用せざるを得ない大ダメージに、戦線離脱を余儀なくされている。
「……こう言うの見ちゃうとね」
「……あぁ、まぁ」
フウカのちょっとした呟きに、若干の気の毒さを感じつつ同意した。
本当に、このプレイヤー達は強い。流石は最前線クラスと言える。
こんだけの大型魔物を相手に、即死しない様に武器で受けたり回避でダメージを抑えたり、もしくは追撃を阻害して味方が死に戻りしない様に、この乱戦下で見事な連携を見せている。
本当に強い。だが…………双剣使い達には劣る。
あの激戦、記憶に新しい双剣使い達と裏ボス達の戦い。そこに彼等を放り込んだら、数分と持たないだろう。
——あれは別格だ。
本当の最前線。
情報が全く出回らないのは、彼等が自分達の道だけを突き進んでいるからだろう。
僅か1分にも満たない攻防の中、プレイヤー達は腕の破壊や尾の破壊など様々な試みをした末、体積が縮こそすれ欠損は起きないと言う結論に至った。
そこからは、即死しない様に立ち回りつつ、マナポを決めては武技を連発する熾烈な戦い。
幸いだったのは、ホロウと違ってある程度威力が伝播している様子だった事。
削り切らないと行けないと言う点で持久戦とも言える厳しいそれ。
僅か数分にも満たない死線を——戦士達は越えた。
「「はぁ……」」
詰まっていた息を吐く。
誰が見てもキツい戦いを、技量と連携でダメージを抑え、ポーションを何十本も使って、1人の死者も出さずに勝利を納めた。
大剣士が戦士達を労うのを聴きつつ、乾いた気がする喉を潤わせる。
ボスと相対した初手以外は特段派手な場面は無かったが、それはボスと対等に渡り合い、ベストとベターを選択し続けた結果だ。
ずっと身を固くする様な緊張感が続いていた。
割とマジで強敵。それで尚、今回の本命では無いんだから恐ろしい。
緊張の糸が緩んだ事で、広場は喧騒に包まれる。
歓声を上げる者、自分達ならどう立ち回るか相談する者達、報酬を皮算用するパーティー。
大剣士は労いを終え、戦いへ挑むパーティーが集まった。
大剣士のパーティーと、第一陣エキスパートクラス、その上澄みのパーティーの、各リーダー6名。
大剣士派閥で最も強いと言っていい12名が、最終確認を終え、階段を登って行く。
『短期決戦だ……!』
『『応!』』
大剣士の声に応える戦士達、画面越しでも伝わる、ヒリつく様な緊張感。
先の戦いで騒ついていた広場は、いつの間にか静寂に包まれる。
そんな中で、大通りから囁く様な声が聞こえた。
「……まいったな、被るとか」
声に引かれ向けた視線の先には、どうしようもなく見覚えのある、英傑達の姿。
「まぁ、良いか」
そう言って、彼等は静かな広場へ歩み入る。
「はは、マジか……」
これから始まるボス戦への緊張とか、竜をどう攻略するのかって言う期待とか、全てを塗り替える高鳴り。
塔を攻略しに来た訳じゃあるまい。
きっと何か、想像もしてない様な驚きが——
——始まろうとしている。




