掌話 頂きを見上げて 八
第四位階中位
第7フロアの戦いが始まるのを、1番遠い席から見る。
選考漏れして観戦も遅れてこの始末。折角の超必殺お披露目も出来ない訳である。
「陰気な顔」
「してんしー」
フウカの指摘に粗雑に返す。
承認欲求的なアレがアレなのはアレだが、今1番嫌なのは広場の映像板から凄い遠い事だ。
「座れるだけ良かったじゃん」
「まぁ、ね」
前の方で石畳の地面に毛皮敷いて座ってる奴等と遠くで木の椅子に座ってる奴等、どっちが良いかはなんとも言えないが。
俺的にはその手があったかと言う気持ち。
広場に繋がる大通りと接する店のテラス席で、くぴっとアルルジュースなるりんごジュースを飲み、カリポテを食う。
事前に配布されたフレンドメッセージを可視モードにし、改めて第7フロアの敵のスペックを見た。
「レベル58のフルパーティー推奨ねぇ」
「ホロウモナーク、レベル80相当……ダンジョンのボスってどのくらいなんだっけ?」
「50とか60とかって聞いた気がする」
敵のレベルだけ見ると、今の俺達じゃ手も足も出ない事が分かる。
今の俺達はレベル50くらいだが、レベル20くらいの奴等なら10人来たって勝てる。
30下がそれなら当然30上もそうだろう。
このレベル58のフルパーティー推奨ってのは、多分全員が大剣士や拳姫くらいの練度がある事前提に違いない。
それに対して用意されてる戦力は、第一陣上位勢の中でも選りすぐりのトップ。レベル52程の12人。武装はドラゴン系の物が多く、それが彼等が大剣士の一団の中でも最初期からいた連中である事を指し示していた。
正直、装備はともかく数字だけ見ると心許ない感が強い。
更に付け足すなら、敵は25体の取り巻きまでいる。
「どうなるやら、だな」
もそもそ口を動かしつつ、じっと映像板を見て開戦の瞬間を待っていると、程なく戦いは始まった。
初手、召喚されたのはゴーレムとドールの壁部隊。
対する敵の動きは、取り巻きの煙の様な魔物、ホロウビーストがその形状を変化させた所。
形状は熊や牛、狼等様々で、正しくその獣相応の威嚇を見せる。
取り巻きがそう動く中、ボスはなんの動きも見せず、目の様な青白い2つの光が、じっとプレイヤー達を見下ろしていた。
接敵、ホロウビースト達は、それぞれの獣の様相でゴーレム達へ飛びかかった。ゴーレムは拳を振るって迎撃する。
レベルは同等、膂力で勝る筈のゴーレム達は優勢、妥当な結果に落ち着くだろうと思った次の瞬間——ホロウビーストが煙となって弾けた。
仄暗い煙はゴーレムやドールの全身を包み込む。
ゴーレム達はそれらを振り解こうと体を振り回すも、拳や足が煙から突き抜ける事こそあれ、振り解く事は叶わない。
コイツはどう言う事だ……? そう思った刹那、テレビの幾つかが、プレイヤー達の懐にあるモンスターカードにフォーカスした。
その、じわじわと明らかに早く減り始めた砂時計の青い砂、召喚可能時間を。
MP吸われてやがるッ。
『吸われてるな』
『然りにござる』
後ろで観戦する大剣士と佐助さんの呟きがマイクに拾われた。
「今ノーヒントで気付いた?」
「どうやって分かったんだろ」
2人で首を傾げていると、少し経ってようやく気付く。
ずっと写り続けているゴーレムやドールに纏わり付く煙が、少しだが増えている事に。
あんな煙みたいなのが増減するのに一瞬で気付いたって事かよ……?
「えぐ」
「あぁ、霧が増えて……? えぐ」
「どうなってんだ頭」
「やっぱり強い人は普通じゃないんだね」
少しして、ゴーレム達やドール達から煙を引き剥がそうと武器を振っていたプレイヤー達が、ノーヒントで煙の増大に気付いたらしく、ゴーレム達を送還する様に指示が出た。
パッと標的が消えた煙達は、暫しモヤモヤと漂った後、今度は明らかに増大した獣の姿に戻った。
しかし、触れると吸われるならどうする?
そう思ったのも束の間、リーダーの指示が再度伝達された。
『巨大ゴーストと同じだ! アーツを使って迎撃しろ!』
「成る程」
「確かに」
幽体系とか言って纏められる程それらと戦った訳じゃないけど、確かに感覚的にそれらのゴーストに近そうに見える。
大きくなり襲い掛かるホロウビーストへ、12の必殺級専用武技が放たれる。
どれもカッコよく見えるから専用武技は良いよなー。
放たれた武技はホロウビーストに着弾し、大きく煙を打ち払った。
だけど、倒すには至らない。
「ゴーストみたいに威力が広がってるって感じじゃないな」
「怯んだ感じがしないよね、なんか当たった所だけ消えたって言うか」
正にそうだ。ゴーストは武技が当たるとその周辺も一気に質量が減って、更に怯む感じがある。
対してホロウビーストは、当たった所は消えたが、それに構わず他の部位が進んで来る。
僅かな技後硬直の内に接近したホロウビーストは、減少してサイズが縮んだ獣の体で襲い掛かる。
硬直が解けるや、プレイヤー達は再度、今度は範囲広めの武技や専用武技を放った。
直撃したホロウビーストはまたその質量を減らし、そして——消えていない部位でプレイヤーへ攻撃した。
衝撃にプレイヤーの体が揺れる。技後硬直中だから尚の事体勢を崩した。
そこへ追撃、2度、3度。それどころか、アーツを受けていないホロウビースト達も襲い掛かり、ボコボコに殴られ、僅かな青い粒子がチラつく。
追加HPが削られてるエフェクトだ。
『武技を続けろ!』
硬直を恐れるなと言うリーダーの指示。
鼓舞を出すくらいには削られていると言う事で、指示を出すくらいには大した消耗ではないと言う事か?
プレイヤー達は各々の武技を放ち、煙を払い続ける。
「……厄介だなぁ」
「武技を強制的に使わせて来るのが嫌だね」
「ほんとに」
本来なら武技一撃で吹き飛ぶ様なレベル差があるのに、それが出来ない。
その上技後硬直中に怯まず攻撃して来ると来た。
MPも減るしHPも減るしで、嘘みたいに厄介な奴等だ。
おまけに武技とかを持たないモンスターカードのモンスターには成す術無し。
一定以下を完封する様なそれらは……仲間に出来たらかなり強いんじゃないか?
少なくとも現状のダンジョンだと、武技みたいな明確な技を使って来る敵はそう多く無いし、使って来ても大したダメージにならない訳だし。
俺がそうこう考える暫しの戦いの末、ホロウビーストは全て駆逐された。
一部の画面に映されたドロップアイテムは、小瓶に入った青白い粉と小さな魔石の様な物に、数は少ないが青白い光、ホロウの目らしきそれの入った小瓶。
あからさまに後者の光はレアアイテムだな。
と、そんな事を頭の片隅で思いつつ、ずっと一部画面で映されていたボスへ視線を向ける。
この僅か1分程度の戦いの中、一度も動いていないそれ。
一体どう言うボスなん——
「「っ……」」
少し、息を呑む。
色々な所を写していた全ての画面が、急にボスへ集中したからだ。
——それは、何かが起こる予兆。
この動画を撮ってるのが誰かは分からないが、それらが写す映像は、今までほぼ全てが見るべき所をフォーカスして来た。
果たして——不意に光が明滅する。
そう思った次の瞬間、目の様に2つあった光の球が1つになっていた。
次の瞬間、煙が急速に光へ吸われる。
次の瞬間、光はその形を変えた。
光の中から現れたのは——
「お、おぉ」
「やばぁ……」
——赤き竜。




