掌話 頂きを見上げて 七
度重なる剣戟と、閃めく武技の連撃。
右翼の殲滅部隊が10体を倒し切る頃には、左翼のモンスター部隊は全滅していた。
雑魚の残数は8体。格下だけで2体を倒す大健闘を見せたものの、ゴーレム部隊はもう壊滅寸前だ。
殲滅部隊が急いで左翼へ駆け付ける一方、中央の重装兵達は、追加HPを全損し、MPも半分を割り込んでいた。
専用武技を温存している手前、致し方の無い消耗だ。
殲滅部隊が左翼へなだれ込む中、それは起きた。
「お、来るぞ」
「火と風、雷にござるな」
佐助の言葉通り、巨像が火と風の剣を打ち鳴らし、それを掲げる。
現れたのは、大きな雷の球。
——響いたのは寡黙な重装兵の声。
「『ガーディアンハート!』」
その一声と共に現れたのは、灰色のオーラの巨人。
「おぉ」
「初見でござるな」
巨像にやや劣るものの、人の倍はある巨躯に、重鎧と大盾を持つオーラの巨兵。
それは雷玉が振り下ろされると共に前に出て、飛来する雷玉へ大盾を叩き付ける。
——凄まじい放電音。
視界を覆う莫大な光の果てに、灰のオーラが拡散する。
防いだ——
そう思った次の瞬間、まだ消えていなかったオーラの巨兵が、砕けた大盾の欠片を持ち、巨像へと殴りかかる。
巨像はそれへ刃を振り下ろし、迫る巨兵の腕を切断、袈裟懸けに斬りつけて巨兵を吹き飛ばす。
そこまででオーラの巨兵は消滅した。
雷玉の威力は、感覚的には……火の残滓で強化した竜殺剣・IIのドラゴンクロー並み。
それを結構な数連発出来るだろうから、実質高い耐久力とHPとMPと手数を持つ俺。
1人で勝つのは無理だな。
大技を防いだ重装兵達は、寡黙な彼を除いた5人が前に出て、主力がマナポーションで回復する時間を稼ぐ。
巨像の幾度かの剣戟を防ぐ間に、殲滅部隊が雑魚の殲滅を終え、巨像の包囲戦が始まった。
差し向けられたのは、残ったゴーレム達。
プレイヤー全体の回復と戦列の再編をする時間を稼ぐのが目的だ。
狙い通りボスはゴーレムへ攻撃を始め、稼いだ時間でプレイヤー達は三方に散る。
レギオンチャットでタイミングを合わせる声が聞こえ、次の瞬間、複数の専用武技が放たれる。
先の灰の巨人に始まり、虎の頭部から風の砲弾が放たれ、回転する無数の棘が付いた円盤が叩きつけられ、大きな火の鳥らしきオーラが突進する。
それら超必殺クラスの技に紛れる様に、蛇の様な水流が牙を剥いたり、灰の狼が飛びかかったり、白く大きなオーラの刺突が飛ぶ。
対して、巨像は——剣を4本打ち鳴らした。
「っ」
初見かッ?
次々と専用武技が着弾する中、巻き上がる光の粒子と何かの破片。
砕けた透明なそれを見て、つい口出ししそうになるのをぐっと抑えた。
「氷」
「ああ」
氷、即ち風と水の上位属性による防壁。加えて剣は4本打ち鳴らされたなら、後は火と土、即ち鋼の防御系。
氷の防壁と鋼の硬化による二重防御。
先ず間違いなく仕留め切れていないッ。
ほんの僅かな技後硬直。
灰の巨人の粒子が舞い、次の瞬間、濃密な粒子の煙を切り裂いて、巨像の刃が躍り出た。
狙いは、巨兵の主、この部隊の頭——
「『シルトカウンター!』」
——上手い。
迫る刃に気付くや否や、瞬時に発動させたそれは、盾に当たった攻撃の幾らかを跳ね返す通常武技。
MPが足りない中、防御を固めるのでは無く攻勢に出る一手。
全身を使って振るわれた巨像の渾身の刃は盾へとぶち当たり、寡黙な戦士を壁際まで弾き飛ばす。
それと同時に、衝突の反動と反射を受けて、巨像の剣が1本へし折れた。
更に続けて巨像は近くの大盾持ちへ刃を振り下ろす。
「『シェルガード!』」
その声と共に生じた亀甲の盾は、斬撃を受けて粉砕され、重鎧が捻り潰される。
更に、準後衛の戦士へ向けて横薙ぎの斬撃が迫る。
「『バイパーストリーム!』」
放たれた水流の蛇は完全に無視され、横薙ぎの刃はまるでバターでも切る様に1人の人間の首を刎ねた。
血飛沫が吹き上がり、体が倒れ伏す。HPバーが瞬時に全損し、骸は粒子となって消滅した。
死に戻りの粒子が舞う前に、更なる追撃。
軽装の剣士は振り下ろされる刃目掛けて剣を振るった。
「『ロックブレイド!』」
放たれた石の斬撃が巨像の剣と衝突し、石礫となって飛散、僅かにそれた刃は剣士の腕を切り裂き、衝突の余波で剣士は大きく弾き飛ばされる。
分隊の処理を終えた巨像は振り返りながら剣を打ち鳴らし、放たれたのは錆系統の術。
その発動と共に、ダメージを受けていた剣2本が割れ砕け、風化の風が吹き荒んだ。
風の直撃を受けたのは、前に出た残りの重装兵5人。
ガリガリと、しかし大技の直撃にしては大した事の無いHP減少。
現れたのは無数のデバフだ。
攻撃力や防御力、速度低下のデバフに、毒と何らかの病気アイコン。おまけに防具も変色し、弱体化が掛けられたのだと分かる。
耐えられないかもしれない。そんな不安があったろうに、重装兵達は構わず盾を構え、襲い来る巨像を迎え撃つ。
「『ギガスパイクスライサー!』」
回転する棘の盾目掛け、残る水の魔剣が振るわれ、剣と盾が互いに砕け散る。
最後に巨像は拳を構えた。
技後硬直で固まる1人を守る様に、前に出たのは4人の重装兵。
「『グロウシールド!』」
「『スケイルウォール!』」
「『ワームスキン!』」
「『ライノスアーマー!』」
それぞれの防御系専用武技を放ち、大きく振りかぶられ、全身でぶち当たる様に振り抜かれた4つの拳を迎え打つ。
果たして——
「——良く止めた」
俺の溢れる様な呟きに、佐助はただ頷く。
自損も辞さないとてつもない威力の拳。
超必殺級では無くとも、専用武技4つと正面からぶつかったそれは、重装兵4人を大きく押し込み、超必殺を放って技後硬直していた重装兵が下がって来た4人の背中に轢かれて地面を転がる。
動きを止めた巨像目掛け、残る3人が武技を放った。
「『フレイムウイング!』」
「『ホーリーランス!』」
「『ウルフジャベリン!』」
殺到する武技が、既にボロボロで腕も砕けた巨像に直撃。ようやく、巨像は青い粒子となって消滅した。
いやしかし、エキスパートクラスのフルパーティー2つでこれか……後2層あるんだがなぁ。
やや苦い思いをおくびにも出さず、一先ず勝者達を労いに行った。




