掌話 頂きを見上げて 四
第四位階中位
それと相対し、その脅威を、改めて思い出した。
右も左も分からない様な最初期に、襲撃イベントで現れたアレへ抱いた恐怖は、その畏怖は、間違っていなかったのだと。
ソレは、光の無い眼窩でじっとこちらを見下ろしている。
「行っくよー! サモンぱんきちーず!」
溌剌とした声が後ろで響き、背を押される様にカードを引いた。
様々なモンスター達が次々に召喚され、広いフィールドに立ち並んで行く。
ソレ、不死なる者達の王、リッチと呼ばれる怪物を見上げる。
人間ってのは不思議な物で、頼もしい味方がいれば、例えそれが必ず勝てる根拠で無くとも、恐怖は薄れ、何とかなると思えて来る。
数の力ってのは偉大なもんだ、それが勇気になるか蛮勇になるかは冷静さ次第。今回は勝ちだ。ソロなら無理筋だがな。
改めて、状況を整理する。
敵は、ボスのリッチが1体に、取り巻きのスケルトン、大盾と槍持ち、剣と小盾持ち、弓持ちがそれぞれ6体ずつの18体。
隊列を組むそれらは、俺達の召喚に合わせてリッチから補助魔法かなんかを受けた様で、暗いオーラを纏っている。
この状態のスケルトン単体の戦闘力は、既に第二陣ミドルクラスに匹敵しているらしい。
つまり、事実上第二陣ミドルクラス3パーティーと、それを指揮する大剣士1人並みの戦力。
はっきり言おう。
俺はそれなりに強い方で、モンスター含めると第一陣トップクラスにも劣らない筈だ。
だがそれでも、大剣士1人に勝てないだろう。
それだけ大剣士のレベルが高く、装備が整っており、何より練度が異常。第一トップの上澄みである。
何ならドラゴンキラーの一撃で、それに対抗できる超必殺を持たない奴等は全滅するだろう。
相手はそんなレベルの戦力だが、当然勝ち目はある。
此方の戦力は、俺と馬と人形と鷲と狼と猫と蜥蜴のチーム。スピリトーゾと金属ゴーレムとドール2体のチーム。一と狼5匹。小糠雨と巨大蟻5匹。小夜啼鳥は狼と大根とドール。ソライロタケはスライム。
それから、大剣士の所のモンスターカード試作部隊の中から抽選で来た6人、ゴーレム12体とドール12体。
一層詳しく見ると、俺の馬は機動力重視でその上には特殊な矢と少し強い弓を持たせたマリオネット。後の猫鷲狼蜥蜴は若干のタイプの違いはあれど主に遊撃。
スピリトーゾは、めったら強いゴーレムに、軽鎧のドール2体。内1体は後から追加されたから弱い。
一は当然ぱんきち贔屓で、ぱんきちは装備も入れると余裕で第一フロアのボス狼と同格か上回る。他の4匹もぱんきちに追随し、驚く程の連携を見せる頼もしい戦力だ。まぁ1匹は追加された奴だからまだ練度が低い感はあるが。
小糠雨は、5体全てが上位のジャイアントアントで、突出した強さを持つ個体こそいないが装備と連携からぱんきちーず達と伍する。此方も1匹を新たに迎えており練度が少し低い。
小夜啼鳥は、ぱんきちーずの1匹と同じくらいの狼に、とんでもないスピードで走る様になって攻撃力と防御力を得た大根、スピリトーゾの弱い方のドールと同程度の武装ドール。
次に、第二陣ながらも参戦したソライロタケ、参戦が許可された理由は、3段階目進化に至った巨大スライム、ジャイアントスライムの存在だ。
現状、第二陣で3段階目の進化モンスターを持ってるのはソライロタケだけ。装備は小糠雨と同様貧弱の極みだが、それだけ単体に注ぎ込んだと言う事。
金と労力を掛けただけあり、ジャイアントスライムは結構強い。後はただのドールが1体。
最後に、試作部隊のゴーレム12体とドール12体。
こっちは、木材の安価な大盾と棍棒を持ったゴーレムと、長得物の槍を持った革鎧ドールの組み合わせだ。
実戦投入するには装備が貧弱だが、レベルは15で揃えて進化済み。
ゴーレムの防御力にドールの対応力を付けた隙の少ない部隊だ。
第五フロアは極力これらのモンスターだけを使って、ボスを撃破出来るかの試みの為に集められたメンバーであり、その指揮官が、何故か俺。
なんでも元は海狩りをリーダーに誘っていたらしいが、水中型のモンスターしかいないからと本人が断ったらしい。
まぁ、海狩りは3段階目2体持ってる割に本人の方が強い珍しいタイプで、何なら大剣士にも匹敵する戦力だ。モンスターだけの指揮ってなるともどかしいだろうな。況してや使役してる2体を出せないなら然もありなんだ。
ともあれ早速開戦、先ずは一当て、何なら倒し切れないか、物量で押し潰さんと、モンスター達が骸骨の群れへ襲い掛かる。
足の速いモンスター達が骸骨へ接近した刹那、槍持ちの大盾が、大きな踏み込みと共に突き出された。
ぱんきちは飛び退ってそれを回避し、他の狼達は間合いを外されてどつかれる。
突出した大盾持ち骸骨は直ぐに下がり、それを追う他のモンスター達へ剣持ちが斬撃で牽制、更なるその隙を弓持ちが骨の矢を放って阻害した。
唯一全てを回避したのは、大根。大根は大盾持ちへ一蹴りかまして直ぐにその場を離脱した。
一瞬の攻防で理解する。
「こいつは……」
第二陣ミドルクラスじゃない。
レベルとかステータスとかは第二陣ミドルクラスなんだろうが、1体1体の練度とかそれぞれの連携で、第二陣エキスパートクラスの実力を発揮していやがる。
——あと大根やべぇ。
何だあいつ。
盾を避けて剣を跳んで避けて矢を回転して避けて最後に回し蹴りで大盾を揺るがせてたぞ。
流石サヨナキのエース。第3段階は伊達じゃない。図体が小さいのも攻め続けられた理由か。
ともあれ、一当てしてスケルトンに関しては大体分かった。問題はリッチの動きだが——
——不意に、リッチは杖を掲げた。
生じたのは、黒い球体3つ。
多分ダークスフィアだ!
「撃ち落とせ!」
誰に言うでもない声に、対応したのはマリオネット。
手前のモンスターを狙って真っ直ぐ放たれた黒い球に、マリオネットの矢が衝突。球は急激に膨張し、矢を消滅させて霧散した。
遅れてコヌカの新兵、ジャイアントアシッドアントが散弾を放ち球一つを霧散。
最後の一つは、大きく前に踏み込んだスピリトーゾのゴーレムが、拳で殴り付けた。
やばいかと思ったのは一瞬。霧散したダークスフィアの中から現れたのは、やや浅黒く変色し、幾らか抉られたゴーレムの拳。
流石防御特化の巨人! 生身の奴や小さい奴が受けてたら致命傷だぜ。
リッチは魔法一発だが多少の試金石にはなった。
ある程度作戦が必要なら、先ずは定石通りだ。
「ゴーレムで壁を作れ! スピリトーゾは真ん中だ!」
指示を受け、ゴーレム達は直ぐに整列した。
スピリトーゾのメタルゴーレムならダークスフィアを受け続けられる。
他のゴーレムも、所詮は木製装備だし本体は石製だが盾と鎧が、そして巨大な図体がある。ダークスフィアの爆発範囲なら何度かは受けられるだろう。
それらに合わせて、ドール達もバックアップ体制を整える。
狙いはゴーレムの隙間を抜けさせない為と、敵の隙を増やす為。
敵の盾役は格上だが、ゴーレムの防御力と攻撃力、遅さを補うドールがいれば、十二分な働きを期待出来る。
「ドールはそのまま! 狼系は左へ! 他は右へ集まって待機! ゴーレムが接触し次第攻撃へ移れ!」
少々リッチが野放しになるが、それを受け持てる駒が無い以上、先ずは取り巻きを徹底的に潰す。
被害は出るだろうが、最悪ゴーレム部隊だけ残っていれば勝てるだろう。
のそりのそりと進むゴーレム部隊に、スケルトン部隊は待ちの構え。
その間に、リッチは新たな魔法を放った。
歪な風切り音にも似た悍ましい詠唱。
杖を掲げ、現れたのは、複数の黒い球体。
またダークスフィアか? そう思ったのも束の間、球体から次々と黒い何かが放たれた。
「ダークレイか」
黒い線は数秒に渡って雨の様に降り注ぎ、ゴーレムの盾を破損ないし変色させた。
闇系統はダメージが低い代わりに弱体化を付与してくるタイプが多いらしいが、変色はおそらく弱体化だろう。
木製の装備は元々脆い。流石にやばいかもしれないが、代案がある訳でも無し。このまま続行だ。
指示通り進むゴーレム13体は、そのままスケルトン達と接触した。
初動は最初と同じ、スケルトン達のシールドバッシュ。
勢い良く衝突したそれは、木製の盾、取り分け弱体化が酷い部分を破壊し、後続の追撃、剣の一撃で盾を5つ破壊した。
更なる追撃で矢がゴーレムの頭部に刺さり、黒く変色が始まる。
一方フルメタルのゴーレムは、シールドバッシュを正面から押し返し、弱体化している手を狙った斬撃を拳で弾き返し、飛来した矢は普通に弾いた。
「掛かれ!」
そんないらん指示を飛ばし、足の素早い連中が我先にとスケルトンへ襲い掛かる。
スケルトンやリッチはそれらに対し、矢やダークレイで応戦、何体かは出鼻を挫かれたが、そんな物お構い無しに突っ込んで行ったのが2体。
ぱんきちと大根だ。
ぱんきちは流石の身のこなしで矢とダークレイを避け、弓兵1体へ叩き潰す様に攻撃する。
一方大根は……リッチへ突撃していた。
——は?




