掌話 頂きを見上げて
第四位階中位
塔の迷宮。
それはボスラッシュの迷宮。
広く、天井の高いフロアに居座るボスを突破し、螺旋階段を登って頂点を目指す、他の迷宮とは一風変わったタイプの迷宮。最先端から見たら下位レベル帯の登竜門らしい場所だ。
事前にタクから得た情報を整理した結果、攻略には1〜2パーティーをぶつける事にした。
当たるパーティーのレベルはフロアのランクによって変え、第一フロアはレベル25以下、具体的には第二陣の1〜2パーティーを抽選で挑ませる事とした。
これには、低レベルや遅参でも活躍の場があるのだと言うパフォーマンスを含め、第二陣からのみの選出となっている。
これは全8階層の内3層が該当し、残り5階層の内2層は第一陣の中級者が、3層は上級者が当たる。
俺達のパーティーは、その最後の階層、火竜との戦いに1パーティーとして参戦する。
塔の迷宮を攻略する一方、王都の方の迷宮、リスティアに湧いている赤竜に討伐部隊を送っている。
此方は、俺等無しの討伐部隊であり、信頼の置ける上級パーティー3つと中級パーティー6つ、下級パーティー12の、130名近いレギオンだ。
同時にそれを計画したのは、塔の迷宮の攻略に参加できる人数が少ない為であり、その鬱憤逸らしの意味合いが大きい。
まぁ、タクの話によると火竜は赤竜よりも一応格上の存在らしいので、その素材をうちで確保しておきたいが為の編成。
多少の支援は必要経費だ。
出番までの時間で、処理しなければならないある問題を解決していこう。
◇
鍛錬島、迷宮方面ギルド、相談室。
元々黒霧さんとの相談は人気があるが、どうしても待ち時間があったりして中々相談出来ない。それが今回のサイレントアプデで追加され、密かに神アプデと言われている。
案内されたのは、豪華と言うより品のある部屋。
出された紅茶の香りが広がる中、長テーブルを挟んで向かい合い、話をした。
「第一陣ミドル帯のアポート不適用武器がドロップし、それを第二陣ミドル帯のプレイヤーが持ち去り行方をくらませた。と言う事でよろしいですか?」
「あぁ、間違いない」
昨夜起きた事件だ。
第二陣ミドル帯の迷宮未クリア組を案内していた中級パーティーの一つが、別パーティーの第二陣が起こしたデスパレードで、第二陣パーティーを逃す為にヘイトを引き受け戦闘、全滅した。
その際に運悪く武器がドロップし、更にその武器はアポートを付けておらず、別の第一陣パーティーが様子を見に行ったが武器は残っていなかった。
招集を掛けた結果、デスパを起こしたパーティーが行方をくらませており、事前に登録したフレンドも削除されていたと言う事だ。
皆キレながらやれ素行が悪かったとか、話を聞きゃしねぇ奴等だったとか言っていたが、何より武器持ってかれた奴が泣きそうな顔してたのを良く覚えている。
そりゃあドロップしたもんを拾うのは自由だろうが、出来る=やって良いにはならんだろう。
こんな不義理は許せないし、許していたら回せない。
どうにかして制裁出来ない物かと色々考えた。
他人のアイテムを不当に長期保持しているとイエローになるが、ドロップしたアイテムに関してはそれがやや異なり、使用してもクリミナルカラーにならない。
仮に武器を持って逃げたと思わしき連中がクリミナルカラーになっていたとしても、探し出す方法が無い。
掲示板で名前を出す事は出来るが、クリミナルカラーになっていない可能性もあるし、態々課金して名前を変えてる可能性も考えられるし、そもそも持ち去っていないかも知れない上、クリミナルカラーが消えるまで何処かに引き籠られたら、名前が表示されないし居場所が分かっても手が出せない。
ほぼ無理筋、諦めて勉強代とするには高過ぎるが、そうするのが賢い選択だろう。
システム面の考察や、内々の伝手を辿ってみたりもした上で考えた末、最後の手段に出た。
それが、黒霧さんに頼る。だ。
果たして、黒霧さんは口を開いた。
「先ず、デスペナルティによりドロップしたアイテムの取得、使用は基本的に違法ではありません」
「……はぁ、そうだよなぁ」
そりゃそうだ。仕方ねぇ。
諦めのため息と共に頷く俺に、黒霧さんは続けた。
「……ですが、一部アイテム及び武器、防具類に関しては事情が異なります」
「……ほう?」
「他者が所有権を持つ道具を不当に長期保持した場合、軽犯罪指定が適用されます。道具の所有権を決定する判定は、その道具を合意の上受け渡されるか、その道具に含有される固有魔力の8割が別の固有魔力に塗り替わる事で所有権が判定されます」
「ほう」
道具の所有権に関しては、まだ詳しい調査がされていない。つまりは初出の情報だ。
詳しく調査されていないと言うより、調べても良くわからなかったと言うのがVRゲームを守る会からの返答だったが……含有固有魔力か……それも5割じゃなくて8割となると、かなり複雑な判定基準があるな。
「細かい条件は多々ありますが、今回の件に関わる判定基準の詳細を挙げます。その道具を諦めた場合、合意判定となる。その道具の使用時間が長い場合、固有魔力が強く残存する為、固有魔力の塗り替えに数日程度の時間が掛かる。デスペナルティによるドロップは残存固有魔力の半分をリセットする。所有権の移譲が行われていない違法保持は常時軽犯罪指定が更新される。以上です」
「な、るほど」
色々と重要情報を捲し立てられたが、要は持ち去られていた場合、持ち去った奴は今イエローになっている筈だと言う事か。
持ち去られたのは12時間以上前だし、先ず間違いないだろう。
後は……居場所が分かれば……しらみ潰しに行くにしても既にフィールドが随分広くなっているし、第二陣ミドル帯はレベル20はある、何処かの迷宮や初心者フィールドに潜伏されていたら見つけるには労力がな……まぁ隠れ続けるのも労力が掛かるだろうから、ずっと警戒していれば尻尾は出るかもしれないが……。
そう考えていると、徐に黒霧さんが手のひらを差し出した。
テーブルの上、天井に向かう手のひらに、不意に武器が現れる。
「……これ、は……まさか……?」
「はい」
珍しい武器だ。割と懐いてくれるプレイヤーが多い中、凄く珍しい素材で武器を作ったと見せてくれたのを覚えている。
森の迷宮のエリアボス、フォレストウルフからドロップした、現時点でそいつだけしかドロップ情報が無い激レアアイテム、草魂喰いの森狼牙で作られた槍。
「……詳細は」
「武技にプラントドレインが付いていると言えば?」
「……本物か」
木や草、植物系の魔物から魔力や体力を吸収出来る割りかし強い武器だ。
ただ、それを作る為に金が掛かってアポート機能を付けられず、そのままにしてた代物。
「だが……」
「風の都市レグリスタにて宿屋内でログアウトしていたプレイヤー集団が軽犯罪指定を受け、それを騎士が処刑した際にドロップしました。違法所有により犯罪指定された場合、違法所有物は確定ドロップになります」
「成る程」
些細な疑問にも即座に先回りして答えてくれるのが、黒霧さんが大人気の所以だ。
本当にありがたいはなしだよ。
「それじゃあ——」
言いつつ手を伸ばした所で、黒霧さんはキュッと手のひらの上の槍を握った。
「……」
閻魔の沙汰を待つ積もりで俺はその微笑みを見る。
そりゃな。討伐の労力があるもんな。ただでなんて虫が良いはなしねぇよな。不義理だもんな。って言うか礼も言ってねぇな。
「……取り返してくれてありがとう。感謝の念に尽きない。幾らだろうか」
「どう致しまして。感謝を受け取ります。武具等総合額の10%が該当します。今回は22万MCとなります」
「分かった、俺が立て替えよう」
22万は十分痛いが、それ以上の価値だ。当然払う。
そんな積もりで言う俺に、黒霧さんは首を振った。
「所有権を持つ者本人、もしくは所有権を持つ者から合意を受けた者しか渡す事は出来ません」
「そりゃそーだ」
落とし主以外が貰える事になっちまうもんな。そりゃそうなるわな。
「直ぐ連絡する」
そう断ってソファから立ち、部屋の隅へ向き直る。
フレンド検索しコールを掛けると、ワンコールで出た。
『あ、もしもし大剣士さん、みかんです』
「みかん今時間良いか?」
『はい、全然、待機中なんで大丈夫です』
まぁ、だろうな、今日は第一陣ミドルとして第4フロアの攻略に参加予定だったからな。
ほんと、予備武器じゃなくて良かったな。
「例の武器の件なんだが」
『あ……すみません、何か分かりましたか?』
「喜べ……見つかったぞ」
『っ!! ほ、ほんとですが!?』
驚き喜ぶみかんに、その詳細を話す。
『あ……22万……』
値段の辺りで途端に気落ちするみかん。
痛い出費ではあるが、払えない額では無い筈だが……。
『あー、その、分かりました』
「なんかあるなら話せよ?」
『あー……いえ、特には』
特にはって事は何かはある訳だ。
「話せ」
『…………その、もう返ってこないと思って、ボス戦用に予備武器をちょっと強化してて、アイテムの補給とかしたら』
「一文無しか」
『宿代とか補給とか無しにしてもギリギリ……』
流石に宿無しだとな……犯罪にあったばっかりで不安だろうし、やれる以上やる奴は街中でもやる。
補給は次の狩りに必須だし、必然的にって所だな。
「分かった、うちで立て替えとくから後で払ってくれ」
『そ、そこまでして貰うのは……』
「ボス倒したらドロップの分前でどうにか足りるだろ? それに足りなくても催促とかしないから、気にすんな」
『うぅ……ありがとうございます、お願いします』
「まぁ金周りはきっちりしないと拗れるからな、きっちり請求はするから耳揃えて直ぐに返せよ」
『えぇ、催促……』
「はっはっは、冗談だ」
『はは、直ぐに返しますね』
「おう」
通話を切り、黒霧さんに向き直す。
「許可は貰った。22万だな」
「はい、確かに」
用意されていた魔法陣的なレジに指輪を当てMCを払い、槍を受け取る。
本当に黒霧さんは話が早くて良いな。
槍をクランインベントリに入れ、立ち上がり——
「それでは、相談料及び情報量2万MCになります」
「……そうだった」
朗報が朗報過ぎて飛んでた。事前に予算5万までって言っといたなそう言えば……まぁ、2万くらいは安い労力の内だ。勝手に奢っておく。
「はい、確かに。またのご利用をお待ちしております」
「あぁ、また」
10分で1万はやっぱり高ぇ……が、だからこそ待ち時間無く確実に、且つ秘密裏に対話が出来る訳だ。良く出来てる。
そんな事を思いつつ、カップに入れられた紅茶と茶菓子を持って、俺はギルドを後にした。




