閑話 ゴーレムファイト! 五
向かい合う2人は穏やかに微笑み、カウントダウンが始まった。
展開されたフィールドに現れたのは、球体。
アルティアは怪訝にそれを見下ろした。
穴が幾つか空いているが、それ以外に特徴の無い、泥の塊。
一つ確かな事は、それが決勝までの9戦を制し、今この場に立っていると言う事。
指向性を持つのは穴だけ。ならば、幾つか空いた穴から何らかの攻撃が射出されるのだろう。
十中八九、ただの泥団子と言う事は無い。
わざわざ泥を纏うのは……対衝撃性を上げる為? いや、泥である必要性が無い。同じ理由で構造を隠す為と言う訳でも無いだろう。
一体何故……。
アルティアはじっと泥団子を見詰め、それを見える範囲で観察する。
カウントダウンが進む中、唯一分かったのは、泥団子に空いた穴が、ほんの僅かに泥団子の中心からずれている事だけ。
カウントダウンは0に変わり、次の瞬間、それは起きた。
——4度の破裂音。
4度の炸裂音。
そして吹き飛ぶ体力ゲージ。
それは一瞬の事だった。
開始直後、斜め後方に避けながら撃とうとしたアルティアのゴーレムは、余りにも早過ぎる着弾を受けた。
初手から全力防御の手を打っていなかったら即死は免れ得ない威力の攻撃に、鎧は一撃で貫かれ、炸裂した弾丸が大穴を穿つ。
弾丸射出の威力に弾かれ、泥団子は宙を舞い、その2つ目の銃口がゴーレムを捉えた。
刹那、回避不能の2発目。
ボディで弾丸が炸裂し、コアが露出する。
そこへ更に空中で弾かれた泥団子が3つ目の銃口を向け、回避不能の3発目。
コアに直撃を受けた結果、バリアは一撃で吹き飛び、それでも泥団子は止まらない。
更に宙で回転した泥団子は、4つ目の銃口から4発目の弾丸を射出、コアの破損防止バリアを貫いて、コアに致命的な罅を入れた。
勢いよく回転する泥団子は、あちこちへ泥を撒き散らし、べちゃりと床に落下した。
その鈍い音も、一撃で術式的にも物理的にも破損した銃身が落下する金属音も、ブザーの音に掻き消された。
「……そ、んな……」
余りにも早過ぎる決着に動揺したのは一瞬。直ぐに口元へ指をやり、その構造を予測するアルティアを他所に、ウレミラは指を2本立てた。
「ぶいなの!」
斯くして、第1回ゴーレムファイトは、ウレミラの優勝で幕を下ろした。
◇◆◇
映像記録を見終わった僕は、一つ頷いた。
……これは酷い。
本体僕が分家とデートしたり吸血鬼のお世話をしている裏で、月の闘技祭会場で何かやっている事は知っていたが、流石にシステム面が酷過ぎる。
装備の制限がアイテムランク2+までと言うのは良かったが、それを幾らでも作っていいとなると話は変わって来る。
僕ならレベル600を消し炭に出来る兵器だって作れる。そこに現れる戦力差の要因は、物資を集められる財力だ。
まぁ、幸いにもイベントを吹っ掛けて準備期間を1日しか取らせなかった為に、財力よりも精緻な細工技術が問われる戦いとなったので結果オーライだが、やはり闘技祭同様総合エネルギー量による制限も設けるべきだっただろう。
何故そうしなかったのかは、まぁ主催者達を見れば透けて見える。
今回の大会は、ルカナと黒霧の共催だ。
制限が少なかったのは、低次におけるゴーレム制作の多様性データを取得する為。
これには、低次領域の研究開発を担当するルーシェレア・キルシアも一枚噛んでいるだろう。
報酬にはルカナ所長からしてみれば端金の数千万MCと、適当なトロフィーやメダル。
それと引き換えに数十万ものゴーレム研究開発データが取れるのだから安いもんである。
何か催しをするなら公平にしろとかつてのビーチバレーデスマッチの時に言って聞かせたのにコレだ。
幸いにも時間と言う制限があったが為に不満の声は上がっていないが、次からはちゃんとして欲しい所である。
そんな事を思いながら、優勝者の頭を撫でる。
僕の膝に座ったうーたんは、優勝トロフィー、どろだんごーれむ君1号を模したそれを大事そうに抱え、御満悦であった。
そう、酷いと言えば、うーたんのゴーレムも酷い。
他の子達のゴーレムはゴーレムが認識した後に射撃等攻撃行動を行なっているのに対し、うーたんのゴーレムはセンサーが感知した直後に自動的に射撃する様になっていた。
つまり、うーたんのゴーレムはゴーレムでは無いのだ。
正確には、おまけでゴーレムが付いている武器。
その武器を使用すると言う認識が必要だからまだ良いが、はっきり言って土俵が違う。
皆が自転車に乗って競っているなか、うーたんだけ車に乗って横を通過して行っている様な物だ。
かと言って、自動が悪いのかと言うとそんな事も無い訳で、あーたんの銃弾装填やユヅルの銃翼装填、クリスのマントの闇精整列も自動的に働いている物だ。
悪いのは融通の効かない全自動である。
「むふぅ……」
「……ところでなんで泥団子なの?」
「んー? ……お団子食べたかったの」
「そっか、じゃあ今度一緒に作ろうか」
「うん〜♪ 作るのー!」
ちょうど良いから子供達に色んな料理をさせてみよう。
◇
一頻り撫でた後、うーたんはこしょこしょと耳打ちし、あーたんをいっぱい撫で撫でして欲しいのと言って、早々に切り上げて行った。
そんな訳で、自室でぼーっとベットに腰掛けていたあーたんを見る。
彼女は既にレベル600を超えている。
そんな彼女が、何をするでも無くぼーっとしていると言うのは、それだけ今日と言う特別な1日を反芻しているのだろう。
遠慮なく入って隣に腰掛けると、暫し瞠目していたあーたんがピトッと擦り寄って来た。
「……負けました」
「うん」
「……分かってます、準優勝。他にも負けた人はたくさんいて、この成績は誉れです」
「うん」
「本戦では、自分の未熟と不明を痛感しました」
「うん」
「それでも……」
自分の気持ちを整理しようとするあーたん。ここは敢えて、その成長の邪魔をする。
「……9回勝った事にフォーカスするか、1回負けた事にフォーカスするかは人それぞれだけどね、準優勝を目指して挑んだ人はいなかったと思うよ」
「……」
黙って考えるあーたんに、続ける。
「優勝出来なかった事を悔やんで良いし、準優勝出来た事を喜んで良い。誰かの為に悔しいと言う気持ちを抑えなくて良いし、誰かの為に嬉しいと思う必要は無い」
「……」
無言のまま、ほろほろと涙を溢し始めたあーたんを、それ以上何も語らず抱きしめてあげた。
まったく、良い子が多くて困るね。
【ゴーレムファイトより】
・鉄塊騎士
〔3↑〕《実質評価:4↑》《成績:準優勝》
【製作者:アルティア】
およそ30㎝の人型ゴーレム。
鋼のボディと鋼の鎧を纏う騎士型ゴーレム。
モデルは白き聖騎士・ルクス。
主な武装
・総練身鎧《実質評価:4+》
練身・外、練身・内、練鎧・表、練鎧・中、練鎧・裏、の五重鎧。
外、表、裏に1分の硬化。内、中に5秒の圧縮マナフォートレスが仕込まれている。
・精密射撃型魔銃《実質評価:4-》
銃身に照準の魔法が刻まれた銃。加速の魔法が刻まれた威力型や幻痛の術式が刻まれた阻害型等の中から、結局当たらないと意味がないと言う事で選出された。
グリップには自動装填の術が刻まれている。
グリップにマナバレットの形成術式を刻む案は、形成可能なマナバレットではゴーレムの強度を貫けないと言う結論に至った為見送られた。
・高機動スラスター《実質評価:3+》
10回まで使用可能な高速移動装置。
風の術式が刻まれており、30㎝の金属塊を宙に浮かせる事も出来る。
使用制限は術式回路の強度に準拠しており、10度の使用で回路が崩壊する。
・唐燕
〔3↑〕《実質評価:4》《成績:ベスト16》
【製作者:メイリン・ガダン】
およそ30㎝の人型ゴーレム。
金属ボディに赤い鎧を纏った武士型ゴーレム。
……娘にも内緒の秘密の部屋に飾られた自作フィギュア、その中のお気に入りを模した物。
尚、部屋の掃除に娘は頻繁に立ち入っている模様。
主な武装
・唐楓
《実質評価:4-》
複数の細かい鎧の集合体。全てが二重構造であり、表面に硬化、裏面に浮遊の術式が刻まれている。
また、鬼の面には正面方向への魔力感知補助が付いている。
・赤輪
《実質評価:3+》
赤い槍、追尾の術式が刻まれている。
・紅燕
《実質評価:4-》×4
赤い刀、追尾の術式が刻まれている。
・シャドーリーパー
〔3↑〕《実質評価:4↑》《成績:ベスト8》
【製作者:ミルクリス・ターザハルダ】
およそ40㎝のガラスの容器型ゴーレム。
ベルトや鎖、マントを纏い、内部に黒い結晶が詰められた謎のゴーレム。
誰の趣味かは言わずもがな。
主な武装
・ダークサイズ《実質評価:3》×5
黒き細光の術式を8つ搭載した円筒状武器。
レンズを使う事で拡散と集光を操作可能だが、10回以上はガラスの強度が足りなくなる。
・ダークリーパー《実質評価:3-》×4
シャドーリーパーの小型版。黒き細光を2つ搭載した武装を持つが、浮遊の出力とサイズの都合上、魔力量的に2回までしか放つ事が出来ない。
・ナイトメアコート《実質評価:5-》
本大会における最高の鎧。
黒いぼろ布に見える物は死属性を保因する闇の種精霊。着弾した攻勢意思を殺すと共に弱体化させる力を持ち、また闇の種精霊が存在する限り無限に再生する。
容器内の無数の闇属性結晶が闇精霊を引き付け保持する役割を持ち、マントの留め金に見える物が闇精霊に限定して整列を促す信号を出し続けている。……その為3分と保たずに術式が焼き切れる。
・機天子
〔3↑〕《実質評価:4↑》《成績:ベスト4》
【製作者:アーシア(鳳凰院結鶴瑠)】
およそ30㎝の機械天使型ゴーレム。
所長からデータ開示があった本物の天使のゴーレムから着想を得てあれこれ武装を考えていた物を流用したゴーレム。
別段見て良いと発表があった訳でもないが見に行いったゴーレム通の1人。
主な武装
・白翼刃《実質評価:4+》×6
1翼に付き300枚の羽刃が取り付けられ、秒間100発の羽を飛ばす破壊兵器。
刃先が一定時間指定外の魔力に触れると弾けて深く刺さる作りになっている。
・光輝剣《実質評価:4》×2
僅か1秒だけ起動出来る高威力閃光剣。
24の白き細光を4つの集光術式で搔き集め、一筋の光とした武装。
……良く来るあの大天使ーリンのあの技を模倣して低レベルに調整した物。
・幻天輪《実質評価:3》
全方位に魔力感知を妨害する強力な波動を一度だけ放てる浮遊する輪っか。
・どろだんごーれむ
〔3↑〕《実質評価:5-》《成績:優勝》
【製作者:ウレミラ】
何を隠そう団子が食べたい夜に作られた泥団子。
泥を全て剥がすと、6方に6つの手を持つ球体が露になる。
主な武装
・どろまみれ《実質評価:3》
泥を保持し球体を維持しようとする装置。泥の生成は出来ない。
・どろでっぽう《実質評価:4+》×6
全てを吹き飛ばす本大会最高の武器。
二重構造の弾丸にはマナバーストと追尾の術式が込められ、銃身には加速、魔力充填2つ、追尾の付与術式が刻まれ、おまけに極小指向性魔力感知と指定された魔力因子を感知したら自動的に射撃を行う機能が付けられている。
その代わり一発撃ったら術式が焼き切れる。
魔力過剰充填により、マナバーストが術式補完されて威力が増大する仕様。
◇◆◇
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年もよしなにお願いします




