閑話 ゴーレムファイト! 二
幸いにも夜更かしはせずに済んだ翌朝。
いつも通りの授業を終えた放課後、遂にその時は来た。
全16ブロック、おおよそ1,000人の子供達の激戦である。
転送されたアルティアは広い会場を見渡し、一先ず相手の中に知り合いがいない事に安堵した。
——直ぐ倒してしまっては可哀想ですから。
……そんな理由なら格好が付くものだが、実際は強敵と分かっているが故の安堵である。
会場は火の色が濃く、全体的に赤い。
火属性の攻撃が極僅かに強化されるかも、そう思いはしこそすれ、その程度の強化で負けるなら最初から勝ち目など無いと思い直す。
相手はブロック内からランダムで決定される。
アルティアの最初の相手は、年上の少年だった。
あちこちで同時に小規模のフィールドが展開され、カウントダウンが始まる。
少年が出したゴーレムは、アルティアと同じ。金属の人型。
小盾と剣を持つスタンダードな戦士型ゴーレムだ。
果たして——カウントは0へと変わった。
起動したゴーレムが、同時に駆ける。
アルティアのゴーレムは後方へ、少年のゴーレムは前方へ。
アルティアのゴーレムが銃を構え、初撃を放つ。
少年のゴーレムは盾を構え、それを受け止めた。
——爆発。
大した事の無い威力のそれはしかし、小型のゴーレムからすれば脅威。
盾やそれを持つ腕に破損こそ無いものの、衝撃に腕を大きく弾かれ、体勢を崩す。
そこへ次撃、胴体を狙って放たれた弾丸は、今度は剣に衝突する。
次弾が来ると予測し、最も被害を抑える為に体の中心から頭部を守る様に添えられた剣だ。
——着弾。今度は石塊が棘の様に弾け、飛散する。
衝撃は先程よりも弱いものの、体勢を崩していれば耐えられる物では無い。
ゴーレムは地面を転がり、3発目が胴を穿った。
弾けたのは風の爆発。
金属のボディに大きな凹みを生じさせ、いつの間にか視界の上の方に表示されていた謎のゲージが半分を切ったのをアルティアは見た。
そして4発目、水の弾丸が更に凹みを増やし、相手の体力ゲージらしき物が半分減少。
盾を構えて防ごうとするゴーレムへ、5発目が放たれた。
弾丸は盾に当たり——放電。
バチバチッと鋭い音が弾け、体力ゲージがゼロになり、ビーッとブザーの音が響いた。
少年は目を大きく見開いた後、何度か頷く。
「くっそ……銃かぁ、そっかぁ……」
暫し頷いた後、アルティアに手を伸ばした。
アルティアはそれを握り——
「勉強になった、ナイスファイト」
「此方こそ、剣と盾の強度には驚かされました」
互いの健闘を称え合った。
◇
6回の予選、1,000人の中から激戦を制し勝ち抜いた16人が、一堂に会する。
その内おおよそ半分は見知った顔だ。
ウレミラ、メレリラ、レリミラの兎三姉妹。それからドールマスターとまで呼ばれていた友人、アーシアもとい鳳凰院結鶴瑠ことユヅル。死神の姉を持つ友人、ミルクリス・ターザハルダことクリス。蘇生の力を持つ友人、メイリン・ガダン。
客席には負けた子供達や家族、友人等が集まり、会場を見下ろしている。
転送が行われ、8組16名が定位置に付く。
アルティアの初戦の相手は、メイリン。
展開されたフィールドには、武士型のゴーレムが立っていた。
「胸を借りますよ、アルティアさん」
「卑下なさらず、6度勝ったなら本物ですから」
「おや……」
心底驚いたと言った様子で、メイリンは大きな目を丸くした。
御館様の愛娘達はその武威、技量、知識、共に既に神域へ踏み出さんとしている。
神の如き偉大な戦士達と、並び立つ事が約束された子等だ。
足りぬ心を満たす為、御館様は学舎を建立なされた。
そんな子等が、よもや自分の様な若輩の産物を、世辞でも無く警戒するなぞ、メイリンには意外な出来事であった。
対するアルティアは、武士型ゴーレムをじっと見下ろした。
得物は腰に下げた4本の刀と、手に持つ槍。顔は鬼の面で覆われ、鎧は全身を包み、何処ぞに遠距離武器が仕込まれている様子は無い。
隔たれたフィールド内。アルティアの目では、隠された術式を読み取る事は出来なかった。
しかし近接のみで、ここまで勝ち上がって来たと言うなら、相応の防御力か攻撃力、勝ちを確たる物にする策が仕込まれている。
果たして——
カウントダウンは0へと変わる。
初手、動きはほぼ変わらず、引くアルティアのゴーレムと、進むメイリンのゴーレム。
放たれた弾丸はしかし、突き出された槍の穂先に着弾し、それを破壊した。
その挙動でアルティアは武器の性質を看破する。
E級相当のゴーレムの演算力では、飛来する弾を正確に撃ち落とす事は不可能に近い。
それを可能にする物は……追尾系の術式。
近接系の武器に、追尾系の術式が仕込まれている……!
追尾系と言っても、そう便利な代物では無い。
対象指定が術式補完による物が多く、術式補完は認識があってこそ効果を発揮する。
即ち、本来であれば、認識が困難な速度で飛来する物を、撃ち落とすには、追尾系だけでは足りない。
それが故に、アルティアは鎧に付けられた術式も看破した。
面だ。いや、兜全体にもだろうか? 感知系、おそらく魔力感知が刻まれている。
……だが効果範囲が広いとランクが上がってしまうから……範囲を限定して魔力を感知する様に作られている? おそらく、視界、もしくは前方と言ったら良いか?
その見事な近接特化型のゴーレムに、アルティアは感嘆の吐息を洩らした。
次弾、続けて3発、4発。次々と打ち込まれる弾を、武士型ゴーレムは接近しながら刀を振るい、破壊されながらも撃ち落とす。
最後の1発は、刀を使わず手甲で受けた。
迸る雷撃がゴーレムを襲い、体力ゲージが3割程度削れる。
得物を失わない為に、敢えて受けたのだ。
アルティアのゴーレムは銃を捨て、剣を抜いて武士型ゴーレムへ襲い掛かる。
——交錯。
素早く鞘走った刀は、迫り来る剣には見向きもせず、勢いそのまま突き込まれた。
——響く金属音。
剣の衝突をモロに受けた武士型ゴーレムは、胴体に大きな凹みを作り、弾き飛ばされ、体力ゲージが一気に2割を切る。
一方アルティアのゴーレムは、この大会で初めて、体力ゲージを削られた。
突き込まれた刀の先端が、コアにギリギリで到達した。
それは乾坤一擲の一撃だったが、足りなかった。
削られたのは2割。
先端が僅かにコアのバリアを刺しただけ。
刀は折れ、後に残るのは得物を失い傷付き倒れた武士型ゴーレム。
武器の耐久力が低い故の複数持ち。それが失われた今、武士型ゴーレムに勝ち目は無い。
追撃に迫るアルティアのゴーレムが剣を振り下ろし——
——刹那、金属音が響き渡った。
それは、感知系の面目躍如。もしくは、アルティアの作った剣が幅広だった事も一因だろう。
本来のゴーレムのスペックでは到底出来ない奇跡。
正しく、見事な——白刃取り。
息を呑む程の妙技。
2人の試合に注目していた観客が俄かに騒めき立つ。
反応が遅れるアルティアのゴーレムへ、武士型ゴーレムは即座に動き、拳を叩き付ける。
衝撃で体力ゲージが僅かに削れ、剣は再度、振り下ろされた。
手甲で僅かに受け流された剣戟は武士の片腕を破壊し、追撃。
再度僅かに体力ゲージが削れ、対するも追撃。
今度もまた片腕を落とし、今度は蹴り。
それは武士の、最後の足掻き。
振り下ろされた斬撃は、武士の体力ゲージを吹き飛ばした。
ブザーが鳴り、一部の観客が拍手をしながら立ち上がって、武士の健闘とそれを打ち破った戦士を讃える。
一方幼き技術者達も、互いの手を握り合った。
「見事な武人でした」
「隙の無い見事な編成、感服しきりです」
微笑む2人を他所に、次々と試合終了のブザーが鳴った。




