閑話 ゴーレムファイト!
月の光が差し込む薄暗い夜の室内。
「ふ、ふふ、ふははなの」
如何にもマッドな笑い声を放ち、ウレミラはそれを掲げた。
六方に穴が6個空いた球体。
頭程もある大きな——泥団子を。
◇
場所は学園都市、オムニメイガス、図書館。
数多の知識を内包する広大な図書館の一角で、平均年齢5歳にも満たない学徒達が勉学に励んでいた。
「だぁー! もう、折角の休みなのに!」
始めて1時間で根を上げたのはグンガーダ。
対するは、アルティア。
「何が休みか! この中で満点取れなかったのは貴方だけですグンガーダ! それも3点も失点して!」
「凡ミスじゃん凡ミス! 分かってるんだって!」
「見直し逆算をするまでがテスト!」
「だ、だって解けたから……」
「字が汚いのも問題です」
ピシャリと言い放つアルティアに、グンガーダは暫し唸った後、言い訳を続ける。
「……テストは戦場だろ? 戦いでは素早く最低でもベターな手を打って行かないとダメなんだよ! だから字は汚いんじゃ無くてサイテキカされてるだけで——」
「じゃあグンガーダは1万点満点の時は300点失点するんですね、そんなんで戦場で生きて行ける物ですか!」
「そ、それは……300は……いやでも99,700点取ってれば十分だろ!」
あくまでもそう言い放ち、改善する気の無いグンガーダに、アルティアは切り札を切る。
「じゃあお母様は1兆点満点で1点でも失点しますか? 天武六仙の皆様は自らの1点の失点を許すと思いますか? グンガーダはお母様にバカのままでも良いよと微笑まれながら頭を撫でられたいんですか?」
「うっ……そ、そこまで言わなくても良いじゃんかよぉ……」
その様を想像して涙ぐむグンガーダ。
最強の戦神にして、至高の賢神。
どんなに無価値な物でも有効利用し、凄まじい魔道具や驚く程の偉業を生み出す偉大なる主。
そんな彼女に利用されない事、それ即ち見限りに等しい。
優しく微笑みながら撫でるのは甘い罠であり、そこで歩みを止めれば、気付いた頃には同格だった仲間達が自分より優しく頭を撫でられているに違いないのだ。
どんなに無能で、どんなに怠惰であったとしても、歩き続ければ愛は注がれる。例え歩き方を忘れてしまったとしても、その愛は変わらないだろう。
しかし、どんなに遅くとも進んでいれば愛が増えると言う事は、歩みを止めた時、他の者が歩み続けていれば、差は生まれて行く。
それは一種の脅迫。
ユキミンという生存に重要な役割を持つえいよーそを使った脅迫であった。
理解を示したグンガーダに、アルティアは語調を緩めて話す。
「これは、我々の誇りと覚悟の問題です。分かったならば勉強を続けましょう」
「……うん」
そんなやりとりをした後、アルティアは徐に山積みの本を押す。
倒れた本の山は、その裏で密かに机に突っ伏していたシュクラムの上に落ちる。
「ふぎゅぅ……痛い」
「痛い訳ないでしょうが」
まったく、とため息を吐きながら、アルティアは他3人を見る。
視線の先では、桃色の子兎達が予習復習を終え、明日のイベントに向けた準備を進めていた。
そう、明日行われる一大イベント、第一回ゴーレムファイト・初等の部である。
その名の通り、初等部だけがエントリー出来る大会であり、低レベルの情報提供量でどの程度の装備、ゴーレムを生産可能かを調べる為の催しだ。
提供されたコアに指定された等級以下の武装を装備させ戦わせる、極単純な大会である。
見られている事に気付いた3つ子は同じ様な顔でそれぞれ違う笑顔を見せ、アルティアもニコリと微笑み返し、作業に戻った。
今回の応募者は、アルティアと兎三姉妹のみ。
他の2人にはこの期に遅れを少しでも取り戻して貰う予定である。
改めて、アルティアは配布されたコアを見下ろした。
組み込まれているのは、一見して単純な下級ゴーレム。
反応速度は人並みで、武装の使用に関しては一通りの技量を持たせられている。
尖ったスペックは無く、汎用に調整された代物だ。
唯一単純なゴーレムと違う点は、二重のバリア機能が搭載されている事。
このバリアに割かれている魔力の片方が尽きたら、敗北判定となる。
戦闘力はE級相当であり、何処までも単純に、余計な演算を排除し洗練されたアルゴリズムは、ミスをほぼ起こさない。
低級の道具ないし生物としては、理想的なソルジャーであった。
「ほぅ……」
その機能美に、何度見てもアルティアは熱い吐息を溢す。
これ程精緻に構築出来る様になるまで、一体どれくらいの時間がかかるやら。
想像するだに遠い未来の事だ。
アルティアは完璧なコアに遠い道の先を見た。
「こほん……」
本の反対側からシュクラムがじっと見つめている事に気付き、咳払いを一つ。
機能美はともかく、道具としての等級はおおよそ3。
与えられる装備のランクは2+まで。
操魔力も属性錬成も十分だから作る事自体は造作もないが、低等級を維持となるとこれが難しい。
搭載されたバリア機能によりコア自体のスペックは抑えられている。
そこへ十分な攻撃力や利便性を求めて安易に武装のスペックを上げようとすれば、2+を優に超えてしまう。
必須である魔力タンクは、コアが魔力吸収をする様に設定すれば多めに積めるが、自動で注入するタイプにするとスペックを抑える為に容量を小さくしなければならない。
武装は、魔法式にするか実弾式にするかによっても変わり、魔法式なら魔力の注入により何回でも使えるがコストを喰い、実弾ならば多く積めるが使い捨てとなる。
また大量の武装を積むには所持させる必要があるが、ボディパーツを巨大化させると相応に質を抑えないと行けない為、必然的に脆くなる。
かと言って十分な耐久力を持たせる為にボディパーツを分割し、魔力タンクも複数都度仕込むとなると、却って接合部が脆くなったり、指示の伝達に遅れが生じてしまう。
当たらない攻撃を繰り返している内に魔力切れを起こして動けなくなる訳である。
書き上げた設計図は、金属製のボディ。それに纏わせる鎧。幅広の剣。実弾銃。それから機動力を上げる為のスラスターに、魔力タンク。
大きさは30㎝が限界。鎧には防御系統の術式を任意発動出来る様に取り付け、剣は柄に魔力タンクを仕込み、耐久力を上げる為の申し訳程度の魔纏術式。銃は単純な射出術式を乗せるのが精一杯で、代わりに独立している弾丸側に攻撃系統術式を仕込む。
スラスターは脚部、腰部、腕部等に取り付け、主に回避に使って貰う。魔力タンクは各部位に嵌め込む様に取り付ける。
これらを今から構築し、明日の実戦までに完璧に仕上げる!
アルティアは夜更かしも辞さない覚悟を決めた。




