掌話 ラースの道 一
第八位階下位
偉大なる主人より神器を授かり、俺は直ぐに彼女と相対した。
偉業を成し、七聖賢としてその名を歴史に残した聖女。ミュリア・リーズベルト
「どうか、兄を俺にくれないか」
「え!? ……え……だ、ダメです」
「そこを何とか、星の回廊に刻む1人目の友は奴しかいない……!」
「あそっち…………そう言う事は兄さんに聞いてください!」
「いやしかし、奴は頷く。ならば最も奴を想えるミュリアに問うべきだろうと」
「だ、誰が想えるですか! もう…………まぁ、兄さんもラースさんと肩を並べられるなら嬉しいだろうと思いますよ」
「そうか、感謝する、ミュリア」
早速俺は、ルーベルの元に向かった。
◇
「ルーベル、俺の部下になってくれ」
「良いぞ」
思った通りの快諾に、俺は一つ頷くと、星の回廊にパスを形成し、ルーベルを登録した。
戦闘訓練を期待するルーベルと一戦交え、その日を終えた。
◇
暗い空が焼けて赤く染まり始める頃、天舞う竜の揺籠で、俺は静かに瞑想する。
魔力の基本属性変換、上位属性変換、高速変換、同時変換。
続けて操気法、練気法、闘気法、仙気法、真気法。
次は属性の真気法。
一通り終えたら、真気の操作訓練。
一息に真気を錬成し、それを自在に、且つ素早く操作し、そして練り上げ、圧縮する。
気を練ると言う作業は、その名の通り、操気により気を練ると言う事。
意思を通した気を操り、気を掻き混ぜる。
気を握り込むように押し固める事も有効だが、より大切なのは気に強い意思を通す事。
それを練り、固め、より強靭な気を練成し、それを腕にして更に強力な気を生み出す。
理論上、より早く気を練るには、強靭にして強固な意思を拡散させる事であると言う。
だが、俺にはそれが理解出来ない。否、出来なかった。
今となっても、その全てを解している訳では無いが、分かっている事は一つ。
偉大なる主人、ユキ様は仰った。
一瞬に掛ける熱量が大事なのだと。
まさしくそれが答え。
2本の腕で練り上げていた気を、3本へ、4本へ、10、100、1000……遥かにそれ以上へ。
増大した無数の腕は、それ即ち細部まで意思を通した、一瞬の莫大な熱量。
摩擦が火を起こす様に、無数の手を擦り合わせ、一瞬の内に莫大な気を練り上げる。
これを更に上げていくには、分散させた意思を纏めてより強靭な意思を用いるしか無い。
基礎魔力質が格上の相手と戦う時は、どうしても練り上げの工程が必要になる。
彼方を立てれば此方が立たぬ、歯痒い思いは何時になっても消えない。
魔力操作訓練を終えると、次はそれを武術へ組み込んで行く。
合理的な型を一通り熟し、それを更に深く、早く、正確に打ち込み、魔力をそれに合わせて行く。
瞬時に練成した真気を拳撃に合わせ、放つ。
その瞬間にも、ただ放出するのでは無く、強い意思を通して、時に鋭く大気を穿ち、時にそれを切り裂いて、時にそれを打ち据える。
基礎を終えたら、次は技の訓練だ。
肉体と魔の瞬間的な錬磨による、超高速の一撃を放つ迅術。
どの様な体勢からでも最高速を出せる様に、体のあらゆる部位の強化や操作を行う。
腕や足、腰、果ては首まで、全ての動かせる部位が、迅術の加速装置だ。
基礎だけではどうしても勝てない天才達へ、向け得る一つの先鋭化された牙。
体系化された天才の技。
それが迅術。
「はぁ……はぁ……」
流れ落ちた汗を拭う。
今や半精霊体となったその身に汗をかくのは、肉体制御が出来ていない証。未熟の証だ。
気を一層引き締めつつ、汗が浄化により消えるのを待ち、それを休憩とする。
じっと立ち、暫し待つと、それはガサリと現れた。
「……来たか」
「きゅ」
フー・フラン。兎の亜竜にして、武の道を行く者。
その背に負う巨大な手裏剣は、主人から賜った神器。
「フー、俺の部下になれ」
「きゅ! きゅきゅ!」
「上等、来い!」
叫び襲い掛かって来たフーを迎え撃つ。
素早い踏み込み、メロットに踏み潰されていた先日とは比べるまでも無い高速。
同時に分身、4つに分かれたフーが四方から迫り来る。
どれも威力を持つ実体。本体がどれかは即座には分からない、ならば全てを防ぐだけ。
「きゅぷぃ!」
「ふっ!」
放つは操魔の腕撃。
念動力による拳で、全ての分身を迎撃する。
衝突の余波で地面が抉れ、木々が吹き飛ぶ。
「きゅぷっ!」
離れたフーはその一声と共に、更に8体の分身を生成、同時に24のデコイを生み出し、合計36体のフーが周囲を高速で駆け回る。
吹き荒ぶ風はやがて竜巻となり、巻き上がる小石がフーの拳や足で次々飛来する。
それら全てを、高質の気を纏い、練磨の鎧として防ぎ、更に気を練って行く。
——明らかな時間稼ぎ。
フーの分身達から幻影と隠密を越えて、強い気が練られて行くのを感じる。
デコイの意味が無い。様に見せかけて、蔓延る幻影と隠密の気が、更なる幻影を隠していると見るべきだろう。
故にこそ、俺がやるべきは一つであり、俺が挑むべきも一つだ。
練り上げた気を纏い、高質の気を盾としつつ、更に気を練り、時を待つ。
果たして——その時は訪れた。
12の分身から、神器の手裏剣が投じられる。
それは所詮模倣の偽物。
そこそこの練気と幻想に塗り固められたそれらは、魔纏の鎧へ着弾し、受け止められる。
その中の一つ、概ね予想通り、俺の死角から迫る刃が、魔纏の鎧を貫いた。
「はッ!!」
迅術による加速移動。それと同時に振り向いて、勢いそのままに拳を振り上げた。
カンッと響く金属音。
手裏剣の腹を捉えた拳は込められた指向性魔力を打ち砕き、それを空高く打ち上げる。
続けて足を強化して一息に、手裏剣の射出地点へ飛び込んで、迅術による最速の飛び蹴りを放つ。
「きゅ!!」
「っ!!」
衝突。
急速に練られたフーの気と俺の気、足と足がぶつかり合い、狙い通り相殺する。
未だ宙にいるフー目掛け、足を振り下ろす。
またもや瞬時に練ったフーの気と蹴り上げを相殺、踏み潰されるのをギリギリで転がって逃げたフーを追い、その背に決め手の拳を振り下ろした。
「ふきゅん!?」
直撃、の前に気を霧散させ、フーの首根っこを掴む。
持ち上げたフーを抱き、闘気を解いた。
「これで勝ちで良いか」
「……きゅ」
頷くフーを、早速星の回廊へ繋げた。




