第40話 選ぶのは君
第八位階下位
報酬は、スキルポイントが合計32Pに、アイテム、『境界結晶』『万象のチケット』
見たところ、境界結晶は形や質は神結晶と全く同じだが、良く見るとその中心に極々小さな歪みがあった。
髪の毛程の大きさだが、確かな歪みだ。
更に詳しく見ると、その歪みは穴だと分かった。
極々少量だが、その小さな穴から神気が流れ出ている。
まぁ、名称からして分かる事だが、おそらく、この穴は世界の狭間に繋がっている。
本来であれば壁の修復力で閉じる筈の物を、強固な術式で開いたままにしているのだろう。
即座に大勢に影響のある様な物ではないが、長い目で見ればお得である。
一方万象のチケットは、イベントのチケットの様だ。
万色のチケットが精緻な意匠と虹の主張が激しいチケットだったのに対し、このチケットは金枠の月を見上げる兎のマークがぽんっと押されただけの真っ白なチケット。
急増品と言われたらそうかもしれないが、寧ろ品格と神性さを感じるのは、そこに金と兎の符号しか無いからだろう。
何せ、この世界の管理者の上司が兎でその上が金だからね。
開催されるイベントのランクは分からないが、おそらく最低でも帝王級。
竜寝殿ならヴィーナやシャクナ。月煌宮ならウェンザードやカルミエラ、レベルにして750前後くらいはあるだろう。
寧ろ期待値としては、英雄級が皆シテンやリーリウムくらい、レベルにして800程あると嬉しい。
そこまで行けば神話を降ろせるレベルだ。
僕達と同じ様に、戦闘に特化した調整をされたレベル800。
その戦闘力は、ざっくり言えば原罪のノーデンスや大災霊ゼンゼム、ステージ4セフィロタス並だ。
そうあれ。
……流石に1体1体がシャルロッテ並だと戦力の捻出に困って僕が出る事になるかもしれないが、そこまでの奴がいるとすればアガーラとリターニァと……連携必須で複数人分の戦力を持つエラン&ゲッシュ及びゼンゼムくらいだろう。
邪神の眷属の撃破報酬は、やはりと言うか、中々に良い物であった。
チケットの方はイベント中ならいつでも良い様なので、しっかり準備を整えてから行こう。
さて、報酬の整理が終わった所で現場の整理だが……先ず妖精達とユーシアは妖精郷に回収し、治療と休息、情報収集を行なっている。
その一方で、妖精達が手分けをして、汚染地域の除染作業を進めている。
奴が霧の様に放っていた邪気は、生物の魂に入り込み敵意をコントロールする。
一粒でも残すと後に禍根を残すから、しっかり確実に除染しなければならない。
この機にきっちり西進し、フィールド制限クエストを熟し、マレビト用のフィールド制限を設けつつ、アルネアの巣を目指す事とする。
今日も午後は用事があるし、西進と妖精達の教育は妖精郷の妖精達と担当黒霧に任せよう。
◇◆◇
「リェニ姉様、救援感謝致します」
広大な花園を臨く宮殿の一室で、ファニエがリェニ姐さんに膝を付き頭を垂れる。
「君は相変わらず良く畏まるな」
「姉様ですから」
「そうか」
到底納得出来る説明では無いが、リェニ姐さんは昔と変わらない大らかな笑みで頷いた。
俺も前に出て、少し考えてから口を開く。
「……リェニ姐さん、随分久しぶり、だな」
「リェニ姐さん、お変わり……あったのか無いのか」
「うむ、グオード、ドーラ、永らくだ。変わりはまぁ、あったな」
遠くを見るその瞳に、何か大変な事があったのだと察する。
リェニ姐さんは一つ咳払いをして、口を開いた。
「さて、諸君等のこれからに当たって今回は私が水先案内人を務める事になったのだが……何か質問はあるか?」
そんな問いに、ファニエが食い気味に前へ出た。
「先程! 姉様をお母さんと呼んでいた娘がいましたが…………姉様は、御子を……?」
「ああ、まぁ、あれは義娘と思う事にしている」
「それでは、実子では無く……?」
「うむ」
先に聞く事がそれかと思うが……まぁ、見た所、ファニエはリェニ姐さんに惚れ込んでる様だから、然もありなんか。
それより何より、気になる事は山程ある。
東にいる神とやらはリェニ姐さんの事なのかとか、ユーシアは今どこに居て、どうなっているのかとか、此処は何処なのかとか、そもそもその嘘みたいに強大な力はどうやって身に付けたのかとかだ。
まぁ、実際の所ユーシアは大丈夫だろうと思っているが、思っているだけだ。大丈夫じゃ無いかもしれない。
分からない事、楽観するしか無い事が、恐ろしい。
「一つ、良いか?」
「うむ」
「ユーシアは、大丈夫なのか?」
突然、変質した。
あの光を、生じた莫大な力を、肌で感じた。
まだ子供だったユーシアが、俺達に届くか勝る程の力を、一瞬の内に身に宿した。
アレは本当に、大丈夫な物だったのか?
「うむ、彼女ならば問題無い。大きな力を振るったから酷く疲労しているが、肉体も元に戻ったし、後は一眠りしてしっかり体と心を休めれば、完全に復帰出来るだろう」
「そうか」
そうか……良かった。
一つ頷き、質問を続ける。
「……それじゃあ次に……東に神がいると聞いた。リェニ姐さんの事か?」
「否、私など彼の御方と比べれば塵芥に等しい」
「っ……」
……何の冗談か……本当に神がいるとでも言うのか?
見上げて遥か彼方であるとしか分からないリェニ姐さんが、足元にも及ばない力があるだと……?
「身内になる者に彼の御方等と迂遠な言い方をするのも良く無いか……ユキ殿と言う名の可愛らしい人の子の姿をしていて……そうだな、この世の理を全て纏めて一冊の本にした様な存在だ」
リェニ姐さんはやや呆れた様に、それでいて誇らしげに笑った。
……どうやら、その神とやらは、少なくとも悪い奴では無いらしい。
「彼女の力を表すなら、そうだな……詩的表現になるが、武威に置いて並び立つ者無し。魔に置いて見通せぬ地平の彼方に立つ。その知恵は天を穿ち、その御心は、深い愛と、無尽の好奇心で出来ている……あぁ後桃」
「桃が好きなのは分かった」
冗談を言えるくらいには良好な関係と言う事か。
こうもベタ褒めだと疑いたくもなるが、見てみない事には何とも言えない。
「他に、質問は?」
「あぁ、そうだな……俺達は、この後どうなる?」
「ユキ殿の配下となる事は既に決まっている。先ずは休息と教育。それが終わり次第育成と言う事になるだろう」
配下になる事は決まっている、か。
「……一応聞くが、断る事は?」
「可能だろう。しかし最終的には配下に取り込まれるだろう。差し伸べられた手を取るか、配下にしてくれと頼みに行くかだ。どうあれ無下にはしないだろうが」
そうか……選択肢はある様でいて無い。こう言う時、問われるのは生き様だ。
俺は族長。その行く末を定めるのが、俺の役目。
ドラジェは自由の民だ。
それ以上に、戦士である。
チラリとドーラを見た。
ドーラは当たり前に頷いた。
「……強くなれるか?」
「かつて無い程に」
「分かった」
目を瞑る。
今まで、強くなったつもりだった。
迷宮を巡り、それを時に破壊し、時に鎮静し、多くの生命を奪い、安寧を保って来た。
それが覆されたのは一瞬で、これがあれば大丈夫と振るった力は敵と互角に持ち込むのが精一杯。
足りなかった。どうしようもなく。
大切な物を、守るには。
——力が欲しい。
誰も見捨てずに済む力が。
誰もを十二分に守れる力が。
「……ドラジェは神の傘下に降る」
「プラリネも神へ従属します」
行く末を考えれば、至極当然の事だった。
第十六節:第二項、妖精達の目覚め——完




