第38話 一幕
曙光、這いずる木陰さえ目溢さんと、大いなる光は森海を照らす。
それは生誕の輝き。
もしくは再誕の福音。
光より出ずるは『偉大なる光輝』が眷属、闇を祓う者、神獣・ザングランス。
その身には5体の蛇を宿し、波打つ導きを与える蛇身を持つ、半人半蛇の美しき少女。
異形の神秘を纏うその姿は、正しく神の如き威容であった。
少女、ユーシアは花の顔を怒りに歪め、黒き大蛇を睨め上げる。
それは知恵深き邪竜の眷属。
免れ得ぬ消滅を前に、その邪心は小揺るぎもせず、ただただ邪悪なる者共にとっての最善手を思考する。
——神蛇、相まみえる。
それは星羅の煌めきが見守る、終末を賭けた神話の一片。
もしくは、母を、父を、故郷を、滅ぼされた子等の、復讐の戦い。
仕掛けたのは、邪竜の眷属。
『ユー…シァ……』
ザリザリと砂塵に塗れたその音は、暗闇の果て、確かにザングランスの面影があった。
ユーシアは体を震わせる。
それは然ながら鳴動する大山の如く。
僅かに漏れ出た憤激が、囁きとなって零れ落ちる。
『黙れ……! 母様の骸を、これ以上穢すな……!』
思う壺。
邪悪は怒りと憎しみを纏う神蛇へ、嘲る様に笑みを浮かべる。
それもまた、負の力を僅かにでも増大させる為の挑発。
束の間、邪悪は貼り付けた嗤いを消した。それが無意味となったが故に。
ユーシアは傍らに立つ2人を見下ろした。
妖精の王と女王。
変化に驚きこそすれ、その大きな力を感じて尚、守る様に前に立つ2人。
単なる同情や憐憫では無く、真っ直ぐに友人として、やがて同胞として、今や我が子として、愛してくれる2人。
あの日無くした物を、ずっと注いでくれた2人。
怒りや憎しみが嘘の様に、穏やかな笑みで、ユーシアは2人を見下ろした。
『ドーラ母様、グオード父様。方を付けて来ます』
そっと伸びた2人の小さな手が、ユーシアの手を握る。
見上げるその顔は、心配そうで、悲しそうで、嬉しそうで、そして何より、優しかった。
ドーラは手を抱きしめ、グオードは頷く。
『ああ……行ってこい』
『ええ……待ってますね』
笑顔だった。
我が子と愛する彼女等の、その纏う超善的気配が有って尚、心配は消えない。
母の姿をした物を討つと言う事が、或いは大きな力を振るわせる事が、もしくは戦場に送り出す事そのものが。
それは一つの覚悟の笑みだった。
『はい、行ってきます!』
返すもまた、笑み。
数瞬前と比べれば天と地程の力の差。
その身に満ちる全能感。
それがあって尚、命を賭す覚悟は変わらない。
その言葉は、その笑みは、覚悟の現れ。
死ぬかもしれない戦いへ身を投じ、必ず生きて帰るのだと言う、戦士の……戦士達の王たる偉大な2人の子である、誓い。
——神蛇、相まみえる。
それは星羅の煌めきが見守る、終末を賭けた神話の一片。
もしくは、母を、父を、故郷を、滅ぼされた子等の、復讐の戦い。
……或いは、父を、母を、同胞を、脅かさんとする邪悪との決戦。
舞台の幕は既に上がっている。




