第36話 有る物は形へ
第八位階下位
『はぁ……中々良いシチュだったな』
『兄さん』
『……わるい』
『私が言いたかった』
加速した意識の中、ちょっと息抜きする2人に僕が特段反応する事は無い。
急かす必要性も無い。
何かを始めるには、気合を入れる時間も必要な物だ。
ワタヌキ兄妹は一頻り戯れた後、ぐっと意識を切り替えた。
『さて……やるか!』
『やるからには完璧だよ!』
『応とも』
早速とばかりに取り掛かる、2人の筒抜けの思考を見下ろす。
まぁ筒抜けと言うか、僕の演算力をツールとして利用させているので、差し出されているとも言える。
取り急ぎ兄妹が手を付けたのは、ユーシアの魂に宿る先祖帰りの力。
不完全なその力の構造を修理し、絆を強く繋ぐ念通系の欠けていた受信経路や、眠れる力の活性を促す共振機構の構築等、必要なピースの作成を行なった
続けて、6つの魂と一つの魂片の縁を繋ぐ作業。
縁はそうそう切れる物では無いが、薄れる事はある。
日々変動する縁を強く繋ぐには、思い出と意思が必要だ。
記憶領域へのアクセスは未だ只人の2人には荷が重いので、その殆どを僕が担い、記憶をリフレインさせてそれ自体の補強、間接的に縁の補強を計る。
元よりあった親子の縁、再会で更に強固に繋がれた義母と義娘の縁、そして兄弟姉妹の縁。
その繋がりを更に深め、最後にユーシアに宿る先祖帰りの力へと繋ぎ合わせる。
これで土台は完成した。
ここからが大事な作業である。
兄妹が次に取り掛かったのは、魂片の合成だ。
神獣ザングランス。
その神話を宿す、魂の欠片。
それはその実、アンデットの魂に等しい。
急速に風化し壊れた魂に残るのは、最も強固な部分のみ。
それ故に死者はその多くが本能に囚われ、生へ執着する。
また時には、己の妄執に囚われ、それ以外の全てを無くす事もある。
それらは大概欲望の権化となり、その他多くを害する事を良しとする物だ。
ザングランスの魂に残るのは、死の間際に強く願った子等の生存と幸福。
僕的に言わせて貰えば、筒抜けの愛属性生産回路のみ。
それに成長は無く、やがて朽ち果てるその日まで、永遠に子等へ愛を唄う骸だ。
構造的には一意専心シャルロッテの一部分を切り取った様な物である。
また、ザングランスの魂片の基本的な構造はそれだけだが、そこに被せられた神話はザングランスの形を保つのに一役買っている。
残存する神話の概要は、蛇故の不死転生性質と、同種が砂中から獲物を狙い飛び出す様子からか、地の底から這い出て死せる魂を引き込む黄泉の遣いとされる。
また、その不死転生性質か見えていないのに砂中から獲物へ飛び掛かれる様子からか、真実の瞳を持つ太陽神の眷属であるともされている。
ユース神やグァラン神の様な固有名詞は時の中で喪失された様だが、性質から白い夜の神話を引き継いでいるのは間違いない。
この魂片と性質を使い、作るのは一つのユニークスキル。
情報を繋ぎ合わせ、出来たのは、シェイプチェンジとフィジカルブーストの複合スキル。と言うよりも、出力は低いがオーバーロードと言った方が良いか。
変身後の見た目は半精霊化している事以外はラミアそのもので、後は角が生えるくらい。
能力は、単純に身体能力の上昇と再生力の大幅上昇、それから砂塵ブレスを吐けたり、闇と光属性への適性が向上する。
おまけに、次の仕込みの為の余裕も持たせて、取り敢えずの完成。
最後に、次の仕込みこと、フタバによる蛇5匹とユーシアの合一化。
意思の方向性は定まっているし、長い時間で相性は十分に親和している。その縁は深く繋がっている。
元々の条件は整っているので、後は魂を接続させて蛇達も精霊化させるだけで、肉体を混ぜ合わせることが出来る。
スキルに持たせておいた余裕は、言わば港。
ユーシアを母体に、蛇5匹の魂を繋ぎ止める魂港である。
確保した魂はエネルギー源や演算補助装置としての役割を担って貰う。
完成したその姿は、ユーシアの下半身が蛇になっている以外は対して変わっていない。
背中から蛇が5匹扇状に生えて巻き付いているが、合一化する前と差して変わっていない。
一方能力面では、大きな変化がある。
例によってエネルギー量が多い事の他に、蛇達はユーシアの肉体の一部故に、ユーシアが使える砂塵ブレスを放てるし、闇と光の魔法も程々に使える。
合一化しているから意識の統率も出来ており、連携面でも何等問題は無い。
その戦闘力は、およそレベル250相当。
やや弱いし目標値にも届いていないので、此処からが神話の加護を紡ぐ時間だ。




