第34話 呪いを祓おう
第八位階中位
「やぁ、なんとか間に合ったな」
邪神の眷属とファニエ達の間に降り立ち、一息付く。
まったく、黒霧殿も人が悪い。
こんなギリギリまで出撃許可を出さないなんて。
「リェニ姉様!?」
驚くファニエ達を見下ろし、少し良く見てみる。
前に会ったのはさて……かなり前だな、100年……は経ってないと思うが。
一つ言える事は、皆立派に成長したと言う事。
ファニエは次期女王として相応しい貫禄ある声だったし、グオードとドーラは武者修行と称して逃避行をしていた時の青っぽさが無くなり、達人の気を纏っている。
「見ない間に、立派になったな」
妖精の同胞として、ここまで鍛え上げた3人が誇らしい。
かつての私と比べると……まぁ、うむ、平和ボケと言う奴だな。
高々邪神の剥片程度にしてやられる訳だ。
稚子達の成長につい笑みを浮かべていると、不意に空間に揺らぎが生じた。
周囲に生じた歪みは急激に大きくなり、魔法陣が生じて光を放つと、ローシェの民が現れた。
……まぁ、走った方が早かったし、良しとしよう。
それにやや遅れて……何と言ったか、ワタヌキ? 兄妹にアニス殿が現れる。
そうかと思えば、西で凄まじい音が鳴り響き、即座にルェルァが飛んで来た。
同時にプリノンノも現れる。
「お母さん! 終わったよ!」
「うむ、ご苦労」
「じゃあ私はジョセンサギョー! おっさきー!」
「うむ、任せた」
「じゃあルェルァはお母さんといるー!」
「うむ、まぁ良かろう」
プリノンノとペローであれば一欠片も逃さず除染してくれるだろう。
蔓延る有象無象の始末も終わったし、後はコレだけだな。
「……さて」
警戒し観察する様に動かない邪神の眷属へ振り向いた所で、声が響いた。
「待ってください!」
駆け出し、立ち塞がる様に両手を広げたのは、人間の少女。
ユーシア・オルカン・ジェヴノー。
……ユキの予定通り、事は進むのだろうな。
まぁ、若人の助けになるのなら、幾らでも手を貸そう。
◇◆◇
心のまま、望むままに動けと、ユキさんに言われ、僅かな情報だけ与えられて現場へ送られた。
レベルにして500相当の邪神の欠片と戦う戦場なんかに放り込まれて、俺とフタバじゃ何も出来ないだろうと思ったが、蓋を開けてみれば、理由は直ぐに分かった。
年の頃は15程か? そこにいたのは、まだまだ幼い子供だった。
一目見て分かった。
ユーチカに良く似た顔。
ユーグランス王国の王家に連なる者だ。
『……ユキさん』
問い掛ける。
すると、突然世界の流れが急速に遅くなった。
これ上位者の知覚速度なんだろうな。止まって見えるとはこの事。
『お察しの通りだよ』
頭に響くその声は、ぶっきらぼうな言い方の割に、何処までも深い優しさに満ちている。
『やっぱり、王家の血筋か』
『良く目を凝らしたまえ』
そうと言われてはせざるを得ない。
じっと目を凝らして少女を見ると、それはじわりじわりと、そして弾ける様に見えて来た。
何処までも深い、情報群。
理解が及ばない、情報圧。
流れて行ったそれ等の中から、分かりやすく詳細に纏められた構造が現れる。
これは……スキルの構造体、なのか……。
枝分かれする複雑な構造体は、良く見ると所々が不自然に途切れていた。
その性質は、意思を伝える念通系……だが、幾らか記憶に作用したり、魔力を溜めておく様な構造も見て取れる。
続けて、その横に途切れた部分を再構築した予想図が現れる。
やけに複雑な部分もあるそれを、解説を読み解く内にようやく理解した。
『これって……』
『兄さんですね』
『うわっ』
突然のフタバの割り込みに驚いたが、何か目的を持って投入されたならそりゃあセット運用だよな。
『まぁ、つまり、彼女は君の子孫と言う事だね』
『……成る程』
子供もいないのに子孫とな。
いやしかし、そう言われれると親近感が沸く。
それは俺達が送られた目的の一部なんだろうな。
不意に、世界の速度が元に戻り、あんまり遠く無い所で凄い音が響いた。
現れたのは、ルェルァさん。
あとおまけにプリノンノ先生。
凄い音はルェルァさんが宝石爆弾ぶちまけて例の雑魚軍団を殲滅したんだろう。
雑魚とは言ったが中には俺とタイマンでやれる奴も混じっているし、フタバと一緒でも物量で押されて負ける様な規模な訳だが……。
一方先生は、愛犬もとい愛狼に跨ってここまで走って来た様だが、相変わらずの先生と言った感じで除染作業に走って行った。
そうこうやってる内に、リェニさんが邪神の眷属へ振り返り——
次の瞬間、少女が駆けて、邪悪を庇う様に両手を広げた。
「待ってください!」
何を、と思ったのも束の間、少女は言った。
「母様なんです!」
一気に加速が始まった意識。その中で、邪悪がニタリと嗤ったのを見た。
『……』
『……どこまで……!』
状況はなんとなく分かった。
直ぐに解析、開示される情報から、それが現代のユーグランス、ユグノ王国の神獣であると分かった。
少女と神獣が絆を結んだ事も、少女に巻き付いている蛇達が少女にとって義弟妹である事も。
そうと知って、奴が死した神獣の肉体を乗っ取った事も。
——落ち着け。
邪神に連なる者共は、邪悪故に邪神。
それがどれ程憤る様な事であっても、冷静さを欠いてはいけない。
そうであっては奴等の思う壺だ。
あぁ、だが……どれ程の覚悟がいるか……あれ程純度の高い化身に近付くは愚か、背を向けるなんて。
幾ら妖精の女王が声で加護を与えているからと言って、並大抵の意思で出来る事では無い。
そこには深い愛があった。
だからこそ、いっそう邪神の、子供の純粋な思慕に付け込む悪辣さに、怒りが込み上げる。
『ほら、面白いよ』
何がだよっ、とついツッコミそうになって、気付く。
新たに提示された情報、少女とそれにくっ付いている蛇達の魂に、更に大きく巻き付く、力の存在に。
これは——
『残留思念、と呼ぶには些か強い。信仰と言う大きな力によって破壊を免れた神獣の魂と、それによって守られた、神獣の最後の意思。それが彼女等を守っている様だ』
『そう、か……』
死んで尚、子等を守りたいのか……それがどれ程の思いか、想像も付かない。
ただ一つ言えるのは、それを子等に教えてあげたい。
形だけを奪った偽物では無く、形を失って尚、守ろうとしてくれている母の存在を——
『——と言う独特な構造は蛇の持つ神性、死と再生に準拠している。また最後の意思をひたすらに遂行するその状態は狂える魂に類似する物で、やはりアンデットの類いは魂の風化により頑強な生存意思だけが残った結果人ならざる獣が如き行動を取ると言うのが分かる。更に魂に巻き付くその構造は加護の形にも類似しており』
『はしゃがないでもろて』
『構造への理解が多くを救うんだよ。理解出来るレベルまで上がってね』
『うす』
『はい!』
まぁ、何はともあれ、最後はハッピーエンドじゃなきゃな。
救うぞ、なんとしてでも。




