第27話 いたぶる様に
コロナって更新が遅れました
第四位階中位
後ろで、この世の物とは思えない様な轟音が響いている。
その衝撃は暴風となり、まるで嵐が吹き荒れるかの様に木々を揺らしていた。
「急ぎ、影響範囲外へ!」
竜翼の皆は小さいから吹き飛ばないか心配だったが、そこは人間より遥かに高い身体能力を持つ強種族。
私の方が風に煽られてよろめくあり様だった。
老人や子供達が里で暮らしているのも、こう言う万が一に備えての事。
会いに行くのに不便だろうと思っていたが、先人達の危機管理には頭が下がる思いだ。
しばらく走っていると、不意に先頭を進むドーラ様が止まった。
「っ!」
ドーラ様の双剣が迸り、木々と茂みを吹き飛ばす。
開かれた視界に見えたのは、四足の肉食獣、フィシンの姿。
荒地にしかいない筈なのに……!
「荒地の魔物っ、百はいますッ!」
「迎え撃ちますか!?」
剣を抜きながら問う私に、ドーラ様は前を指差した。
「敵の狙いは足止めの筈、此処は私が残ります、皆は里へ……!」
確かに、フィシン程度の群れなら、ドーラ様お一人で事足りる。
足こそ早いが一体一体は弱く、数が多いだけの獣。ドラジェの民の身体能力なら、一体くらい子供でも対処できるのだから。
それが100体ともなれば十分脅威だが、ドーラ様ならば難なく殲滅出来るし直ぐに追い付ける。
「ドーラ様、御武運を!」
「直ぐに追い付きます、迷わず、里へ」
大丈夫、大丈夫。
その筈なのに、背筋を這い上る様な不安が、いつまでも消えず付き纏う。
◇
ドーラ様と別れ暫く、それはさも当たり前に現れた。
「シャッ」
「ッ!?」
弟妹達の放った砂のブレス。
それは茂みを貫き、フィシンの群れが転がり出た。
「なっ」
驚くのも束の間に、直ぐに剣を抜き放ち、倒れるフィシンの首を落とす。
返す刃で、飛び掛かって来たフィシンを切り捨て、続けて正面から来たフィシンの頭を割る。
勢いは殺せず、死んだフィシンが腹部に直撃したが、よろめくだけに収めて追撃。
次また次と襲い掛かって来るフィシンに、非戦闘員の皆も槍を持ち、防御に徹して迎撃している。
襲撃の規模は思いの外小さかった様で、殲滅は直ぐに終わった。
ドーラ様がやられた訳ではないだろう。今も後方では地鳴りの様な音が響き、戦いは続いている。
恐らく、別動隊だ。
「負傷者はいますかっ、飛べない人はっ?」
辺りを見回すが、特に怪我人はいない様だった。
人だったら負傷者の何人かは出ただろうが、流石は竜翼の民。
「急ぎましょう!」
◇
何度かの小さな襲撃を退け、森を駆けた。
敵の規模こそ小さいが、毎回足を止め、怪我人を確認し、負傷者が出れば応急処置を施す。
ゆっくり、疲労が蓄積して行く。
ゆっくりと、怪我人が増えて行く。
遅れている焦りが、弱っていく不安が、溜まって行く。
「はぁ、はぁ……皆さん、もう少しです! 頑張って!」
もう少し、もう少しだ。
里には何度も行っている。めじるしは通った。
もう少し、もう少しで——
「——っ!」
刹那、変わらぬ奇襲を防いだ、と思った次の瞬間、衝撃が全身を襲った。
「ぐっ!?」
茂みに転がり込む。
油断をしたか、或いは目算を誤ったか。刹那の思考の答えは、目の前にあった。
反射的に刃を向けた先。
そこにいたのは——巨獣。
フィシンだ。
その斑の茶褐色は確かにフィシンの特徴。
違うのは、その毛皮に幾多の古傷を纏う事と、通常子供程度の大きさしかないフィシンの5倍はあろうかと言う巨躯。
盛り上がった筋肉は熱を発し、纏う暴力的な魔力で姿が仄かに歪んで見える。
油断など無かった。誤りなど無かった。緊張の糸が緩んだ事も無ければ、フィシンの攻撃など容易に防げると言う慢心も無かった。
——全力で防いでいた。
そうで無ければ、今頃生きてはいない。
見詰め合う事、僅か数秒。
焦れた獣は荒い息を吐き出し、瞬きの間に迫る。
それを防ぐのでは無く、大きく横へ跳んで回避する。
切り結ぶには力が足りない。切り抜けるには速度が足りない。
技を通す、間合いを探さなけれ——
「っぅ!?」
不意に、剣を落としそうになった。
力が入らない事に気付き、遅れて……肩が切り裂かれている事に気付く。
——避けた筈。
否、避けれていなかった。
敵が想定以上だった? そう考えた所で、足の震えに気付いた。
限界だったのだ。
「っ……此処に来て……!」
この局面で、限界を迎えるなんて……!
……いや、違う……もう限界である事を見抜いて、襲って来たんだ。
のそりと、ゆっくり振り向いたそれ、その煮えたぎる瞳に、私は死を予見し——
次の瞬間——何かが視界で閃いた。
空から星が落ちたかの様に、光の歪みがひらりとすり抜けた。
巨躯のフィシンは燃える様な瞳のまま、すとんとその首を地面に落とす。
「は……」
警戒し、後退る私の前に舞い降りたのは——
「よく耐えたわ、私こそがプラリネの女王、ファニエ・プラリネ! 委細承知よっ、後は任せて休みなさい!」
——希望の光だった。




