第22話 神話編纂
第八位階下位
早めの夕食も終わり、助っ人の面々が帰るのを見送った所で、次だ。
アナザーにログインし、早速タスクを一つこなすべく、真横にいたサンディアを見る。
ベッドに肘を付き、僕を見下ろしていたサンディアは、ひらひらと手を振った。
強い奴は回復も早いが、完全回復にはまだ遠いだろう。
まともに戦える程回復はしていないだろうが、考える事くらいは出来る筈。
僕は寝たまま微笑んで、問う。
「神話は出来た?」
そう言う間に、サンディアはもぞもぞ近付いて、僕と足を絡め、細腕で僕を抱き寄せ、額を合わせる。
鼻先が触れる距離でじっと見詰めてくる赤い瞳を見ながら、伝わってくる情報を処理していると、徐に唇が触れ合い、情報が途切れた。
「…………ちょっと」
「♪」
悪びれる様子も無く、サンディアはペロッと舌を出して笑う。
「まったく」
仕方ない奴めと一先ず処分を保留して、情報を抜き取る。
その間も、サンディアは僕の頬に噛み付き、カプカプと歯を当てて来た。
行動パターンがウルルと同じで獣なんだよね。
そんな碌に喋らない獣サンディアから得た情報を、ざっくり纏めて行く。
先ずは、神話に組み込まれる強者達。
彼等にはそれぞれ色と月の称号を与え、月の王と呼称する事とした様だ。
アルビノの吸血鬼、リーリウム・サングレイスは白月の王。
吸血鬼達の帝王、ヴァンディワル・ドラクルは青月の王。
帝王の正統後継、レミアには黄月の王。
親族たるアスフィンは、灰月の王。
雷撃を操るセバスチャンは、紫月の王。
その愛弟子、リアラは緋月の王。
リーリウムの忠臣、カルミエラ・ヴァーリンは橙月の王。
純野良にしてはやたらと強いウェンザードは、赤月の王。
最高クラスの影使い、フォーレンは黒月の王。
魅了系に特化しているアンテは桃月の王。
そしてそれら10の月を従えるのが、弄月の女帝、サンディアと言う訳だ。
10人の王だけでも、単純なエネルギー量では既にイェガやクリカに匹敵しており、ここに更に鬼化魔獣やメイドが控えている為、亜神級の戦力と言っても過言では無い。
そして、サンディアはそれらの王たるに相応しい実力を持っている。
次に、月紅宮について。
様々な鬼化魔獣の住処であるそこに、血鬼郷とダンピールの楽園を併合。
月紅宮は単純な規模で言えば、イェガと同じくらいのサイズになった。
吸血鬼を畏れる信仰は、月紅宮に棲まう全ての生物を補強する効果を齎らし、魔力が循環する限り、全ての操血、操影、魅了、再生の力が増加する。
黄泉に楽園を願う信仰は、魂の防護膜として作用する様になった他、精神や肉体の治癒力を増加させる力となった。
また、新たな神話や色の月王達に対応する為、沈まぬ紅い月に照らされる月紅宮は名と形を改め、銀月の輝く宮殿、月煌宮となった。
月煌宮は銀月が常に輝いているが、ギミックとして新たに月王達の月が発生する様になった様である。
それはそこに棲まう者達の信仰を受け、月王達の力となる。
神権の励起装置であると共に、神気の集積装置、霊石の役割を担う。
言うなれば、模倣βコアである。
サンディアの模倣βコアは、その輝きを増す事で励起され、神権を下ろす。
中々どうして強力な代物だ。
流石は黒霧とサンディアの合作と言った所。
そんなハード面から生み出された神話の序章に曰く——
——そこは吸血鬼達の楽園。
永劫の夜に棲まう国。
数多の月が大地を照らし、幾多の星が夜を見上げる。
——弄月は輝く。
無尽の夜を導く様に——
この話のキモは、弄月が月であると明確に言及していない点だ。
月を輝かせるのはいつだって太陽であり、サンディアは輝く月と、月を照らすモノの両方から力を得る事が出来る。
そんな語り出しの物語は、大いなる光に照らされた盲目の少女が瞳を得る事から始まる。
要は僕に会って覚醒したよと言う事のメタファーであると共に、僕の目に適合したいよと言うシミリーだ。
そこから、戦いの歴史、6体の鬼化魔獣の使役や、10人の月王の支配が描かれ、追加に備えた空白のページが続いて、最後に大いなる光と一つになるのだとか。
色んな場面で欲望ダダ漏れだったし最後なんて感動のフィナーレに見せた欲望の塊だけど、まぁ良いや。魂合の縁が繋がりやすくなる副次効果もあるしね。
彼女の紡ぐ神話を承認し、共有した所で、最後に僕は金の本を開いた。




