第20話 尚も別格
第八位階下位
大陸への要衝を担った鈴代の末裔と言うだけあり、チアキもといミカの戦闘センスはやはりずば抜けていた。
獲物が拳である手前、銃を使う鈴森やアイテムを駆使する鈴平と比べて戦力と言う点では大差無いだろうが、スキルで見れば一枚上手と見て良いだろう。
ミカは次々と襲い来る武装した半護法達を最小の動作で打ち砕き、魔力消費を抑えながら戦い抜いた。
半護法はフィジカルこそそう強くは無いが、練度は高めだ。
レベルで言えば同格の連中を相手に1人で50人抜きを達成し、現れた護法と大立ち回りの末敗北、寄ってきた護法の群れは取り敢えず吹き飛ばし、終了とした。
ミカも時間いっぱい甘やかし、次、鈴宮の鬼才、マシロことシロ。
◇
「召喚」
その一声に応じて現れたのは、4体のドール。
大盾に全身鎧、戦鎚を持ったドールナイトに、ローブを羽織り、杖を持ったドールメイジ、黒装束に短弓を背負ったドールレンジャー、小盾と剣に軽装鎧、複数のアイテムを持ったドールリーダー。
どれもレベル的には精々30程だが、良く鍛えられているし、装備の質も高い。
ドールナイトは防御系の身体強化や自己修復系の力に特化して訓練されており、装備は防御補助や機動力を上げる術式が刻まれ、魔力の貯蓄を出来る様魔水晶が埋め込まれている。
ドールメイジは魔力操作に特化し自力で幾らかの魔法が使える他、耐久の高い金属の魔典を持ち、複数の魔水晶が縫い付けられたローブを纏い、おまけに魔盾発動用の籠手を付けている。
ドールレンジャーは隠密と察知のスキルが鍛えられており、黒装束は音や匂い、発散魔力等を遮断する術式が刻まれている。
また、武器の短弓には魔矢や追跡系の術式が刻まれており、矢を番たり狙いを付ける時間を短縮出来る為、素早い連射が可能となっている。
最後のドールリーダーは、基本的な武術と立ち回りの他に、薬や魔道具の生産能力を持ち、魔矢や魔盾、身体強化、念話等の魔法も使える、オールラウンダーな戦士だ。
また、武装の素材にもしっかり拘っており、各種適合率も高く調整され、魔石がきっちり練り込まれている為武装の魂はスキルを構築している。
その構造体は戦士達の戦いと言う錬磨を経る事で、装備の格としては最高レベルまで強化されていた。
後もう少し経験値を得る事でドール達も装備も一段能力が上がり、霊身の領域へ至るだろう。
僅か数日で随分と鍛えた物である。
当然主人であるシロも、防具こそ僕が用意した代物だが、そこに幾らかの魔道具を備え、複数の武器を保有している。当然アイテムも抜かりはない。
その誰もが認める実力で、数日もあれば大半の敵に対する優位性を容易に確保出来る訳だ。
「さぁ、ユキちゃん、行きましょうねー」
「いや、僕は行かなくても良いと思う」
目を瞑って耳を塞ぐ僕に、シロは微笑みながら言った。
此処は冥宮、振動が肌を伝い、無数の虫達が蠢いているのを感じる。
「ユキちゃん、私にだけ付いてきてくれないんだ」
「此処を選んだ自分を呪え」
純度100%の悪意を感じる。
「ユキちゃん、抱き付いても良いんですよ」
「そう言われると狙いを外したくなる」
「遠慮しなくても良いんですよ、今日はデートなんですから」
お化け屋敷のつもりかな? 呪って良いよね?
「……まぁ、仕方ない、その代わりちゃんとエスコートしてね」
「ええ、勿論」
「万が一があったら、僕はこの迷宮を消し飛ばす」
「わぁ、それは楽しそうですね」
「楽しくないんだよ」
ニコニコしよって。
僕は致し方なく、シロの腰に抱きつく。
万が一があったら迷宮消滅の前にシロの体が上下に泣き分かれる事になるだろう、分かっているな?
シロが口元に手の甲を押し当てているのを見上げ、僕は暗黙の念波を送る。
◇
わらわら湧いて出る虫達は、シロの念力により1匹残さず駆除されて行く。
その演算力は既にレベル2桁の物では無い。
オートコレクトによりシロのインベントリにゴミが入って行くのを死んだ目で眺めながら、僕は静かに思考する。
そう、意識を断つ訳には行かないのだ。
僕は本体であるが故に、常にアンテナを張っていなければならない。
そんな訳で、思考を続けて至近のゾワゾワから極力意識を逸らして行く。
ゴミは所詮ゴミとは言え、シロの実力であれば其処からエネルギーを搾り出すくらい造作もないだろう。
その魔力を分解し、属性を分類、武装や生物への注入も容易であろう。
サクサクゴミが消えて行く一方、洞窟の暗闇から現れたるは、大きな虫や不死者達。
他の迷宮と違いレベルが一回り低い物の、恐るべきはその数だ。
大型の蝿は最低数十匹の群れで飛んで来て毒液を吐くし、屍肉を喰らう甲虫はこれまた数十匹の群れでカサカサ駆けて来るし、各種ゾンビやスケルトン、ゴースト系も無数の群れで屯している。
だがまぁそれらにしても、シロの念力範囲に入れば、蝿は羽を縺れさせ落下、足の速い虫は転び、ゾンビやスケルトンも大体転び、ドール達がとどめを刺す。
ゴーストなんかはシロが全部1発殴り、怯んだ所を纏め上げて、魔法使いドールの範囲魔法で消し飛んでいる。
ほぼシロの演算力頼りだが、自分でバランスを取り、任せられる所は任せているので、ドールを上手く使えていると言える。
攻勢意思の捻出が少ないので、実質消耗も戦果の割に少なく抑えられているのだ。
時折現れる、敵の数が多い故に発生する一種のエラー、準エリアボス級の魔物も、ドール達の連携とシロの補助の前には大した障害では無く、中々に良い戦果を得られている。
これには僕も、シロの演算力を少しでも削り、その成長の手助けをしなければと話しかけた。
「……大蜘蛛の糸や毒腺」
「あぁ……糸は使えるかもしれませんね、出来れば甲殻がドロップして欲しかったですが。毒腺は毒耐性の強化用に使いましょう」
甲殻は単純に使い易くはあるけど対応幅で言えば糸の方が良いんじゃないかな? 甲殻は代用品が幾らでもあるけど、糸はそうそう得られないし。
毒腺の方は量があれば別の使い道もあったかもね。
「……異形化スケルトンの剣腕」
「そのまま武器に。魔石が出なかったのでウォーリアやソードマンの魔石で代用しましょう。刀身は強力ですが、取り敢えずリペアで見栄えを良くして硬化系を基礎、元から呪傷と生命吸収のスキルが付いてますよね?」
「魔石由来だから別途補強しないとスキル発現までかなり掛かるよ」
「うーん……生命吸収はゴーストの魔石で良いとして、呪傷は……ドロップ品の錆びた武器から抽出すればなんとか」
それなら行けるだろうけど、魔石の方はともかく呪いの方は、より簡単な製法がある。
呪いは基本的に殺害や破壊に対し反射する様な働きがある。
その挙動を利用し、錆びた剣を補強した腕剣で叩き折れば、内部に秘めた呪傷の呪いが剣へ移るだろう。
エネルギーリソース的には発散量を考えると最高率では無いが、大した物でも無いし、移し替えは手間の方が大きいから、破壊した方が良い。
何より、他武器の破壊はそれだけで武器の魂の錬磨に効果的だ。
「……硬化処理した腕剣で錆びた武器壊しまくると良いよ」
「ふむ……試してみます」
魔力の挙動を見るのは理を解する基礎だからね。




