第18話 物量で殴れ
第八位階下位
ユキちゃんに貰ったアイテム、初心者用魔道具作成ペン、コードランは、便利な代物だ。
今まで削って失敗した物はアウトだった中でそれを元に戻したり、塗布した魔石インクを回収したり、金属線を自由に書いたり消したり出来る。
出来る事が多い分魔力消費も多いが、それもまた最低限、最低範囲の発動のみで、消費量なんて雀の涙だ。
これをくれた時、ユキちゃんは下から上から目線でふんぞりかえり、君達には過ぎた代物だけどね。なんて言っていたが、敢えて挑発して怒らせようとして来る辺りも可愛いのだよな。
そんなこんなで、複数の魔道具を仕上げ、ユキちゃん先生の合格を頂いた所で、迷宮狩りだ。
今回行く場所は、上位環境迷宮なる、プレイヤーのトップ層ですら足を踏み入れた事のないエリアだ。
やるからにはトップクラスに。そう思ってはいたが、まさか数日でプレイヤーのトップ10に入れるとは思わなかった。
まぁ、その不動の1位は背中どころか足跡すらも見えない遥か彼方な訳だけど。
私達が向かった先は、深淵とか言うヤバげな名前のエリア。
さぁさぁ、鈴平の技とアイテムを御覧じろってね!
◇◆◇
遠くの微かな灯りが、暗闇を一層暗くしている気がする。
半端な光は暗がりを一層強め、茂みや木陰に深き闇が宿る。
だからこそ、人は夜を恐れたのかもしれない。
そこは深淵と言う名に相応しい、漠然とした恐怖を宿す迷宮だった。
仄暗い、少し開けた入り口で、ふいに、光が灯る。
お姉ちゃんが光源の魔道具を使ったからだ。
「うーん、一個じゃ全然明るくなった気がしないなぁ」
「……『灯せ』……2個でも足りないね」
「闇属性が濃いからね」
「……へぇ……環境効果とかあるんだ」
成る程……そう言う面もあるんだ。
「火属性の光源なら光属性より通りは良いけど、光の光源は闇の獣に対する能力減衰や囮としての効果もあるから光属性を6個くらい使って操作したら良いと思うよ」
「ふむふむ」
うんうんと頷きながら、お姉ちゃんはナイフを5本取り出した。
「……因みに囮に使えるって事は、もう来てたり?」
「気配察知は常時意識してね、ほら」
ユキさんがそう言った次の瞬間、お姉ちゃんはナイフを起動し、私は少し遅れて光源の指輪を起動した。
「『灯せっ数多の光!』」
術式補完に頼って展開した光の数は、8つ。
本当は5個のつもりが、焦りで操作を誤った。
それはともかく、全ての光にパスを繋いで操り、八方に散らす。
同時に気配を探ると、じわりと感じる確かな敵意……でも、これは遠……っ!?
刹那、駆ける光を追う様に、茂みの影が伸びた。
「キキィ!」
「キィィァッ」
連なる木立から伸びた影は、蝙蝠の姿となって光へ覆い被さる。
立ち上った複数の影へ、お姉ちゃんのナイフが5本、続けて8本突き刺さる。
——爆発。
察知範囲内で魔力の波動が立て続けに広がり、戦場の後方で気配が揺らいだのを感じた。
「次来るよ! ハル!」
「うん!」
頷きながら魔力を纏い、ナイフを5本展開した。
ベルトにつけたマーカーを通じてナイフと自動でパスが繋がる。
一方、再度起動した灯りの光源は、手動でパスを繋いで、先とは違って回転させながら林を駆けさせる。
果たして、食い付いたのは、影の蜘蛛。
数十はいたそれへ、お姉ちゃんのナイフが次々と突き刺さり、私も少し遅れながら5本のナイフをどうにか操り、蜘蛛を5体仕留めた。
気配の揺らぎは特に無い。
これで取り敢えずは一息かな?
「ふぅ」
「足元」
「え?」
ユキさんの呟きに振り返ると、見えたのは、大きく跳んだお姉ちゃんの姿。
そうと思ったのも束の間、足に激痛が走る。
「ぁッうぅッ!?」
見下ろしたそこにいたのは、影の蛇。
思い出すのは、シャドー系の魔物の講義。
シャドー系は光の出現に極めて弱く、潜影は解除されやすいが、一部待ち伏せ系の特性を持つ魔物は急激な光に耐性がある。
光を外側に飛ばした結果、此方に伸びた木立の影を伝って、蛇が近くに来ていた!
そうと思う間に拳へ闘気を纏わせ、足に食い付く蛇の喉元へ打ち下ろす。
ドパンッと凄い音が鳴り、地面が陥没して影の蛇が弾け飛んだ。
「……はぁ」
荒く、大きく息を吐き、お姉ちゃんの方を見る。
ナイフが弾けた魔力波から、跳んだ後にナイフを投げて倒したのだと分かった。
流石お姉ちゃん、判断が凄い早い。
一方ユキさんは、足に噛み付けていない影の蛇の首根っこを掴み、魔石を直接摘み出して倒していた。
うーん……何の参考にもならない! ……いや、シャドー系は亜精霊に近くて魔石を奪えば簡単に倒せるって言う所かな。それにしたってあんな簡単に摘出は……難しいと思うけど。
インベントリから初級ポーションを取り出しつつ、操気法で毒を分解、または傷口から排出する。
この毒は……多分痛毒系の魔法毒。
死ぬ様な毒じゃないけど……精神への直接的なダメージだから継戦能力や集中力に影響が大きい。
早めの無毒化が必要な点は他の毒と変わらない。
毒を十分出し切った所で、傷口を治療した。
ふぅ、これで——いや、まだ一息付ける状況じゃないかも?
「……」
緩みかけた気を引き締め、辺りの気配を探る。
今度こそ、いない……よね。
とは言え気を抜かず、お姉ちゃんと目を合わせた所で、ユキさんがまた、呟いた。
「ヒント、敵の強さ」
そう言いながら、ユキさんは摘んだままの小さな魔石を見せて来る。
敵の強さ……どれもナイフで1発……あれ? 幾ら屑魔石を複数使ったナイフとは言え、敵の最低レベルは45って言う話しだった筈。
ユキさんが持っている魔石は、明らかに小さい。
レベル45の物にしては、サイズは勿論透明度も低過ぎる……?
それにレベル45の毒ならもっと酷い事になってた筈……つまり……弱い魔物が……なに?
「そうか! マギクラフトの魔物!」
な、成る程、弱い魔物を生成してぶつけて来たって事?
そうなると、慎重な敵の次の動きは……。
「……逃げられた……?」
「……か、もしくは応援を呼びに行った?」
ユキさんはコクコク頷き——
「次の襲撃は派手になりそうだね」
ニコリと微笑んだ。




