第15話 トリガーを引こう
第八位階下位
細々とした業務を熟し、おまけに僕のスキルレベリングと言う極めてどうでも良い暇つぶしを行い、昼になった。
早めの昼食を取り、早速お仕事だ。
分家の子達に接待の時間である。
◇
皆アナザーが良いと言う事で、最初にキリカ&クンの姉妹と向かったのは、上位環境迷宮。
レベルとしては最低値が45で最高が650。
45は1番最初の1番安全なエリアで出現し、大体が群れており、レベル60程度のリーダー個体が率いている。
そこから出て危険地帯に入れば、レベル80クラスとかが普通に出る様になり、100くらいの大物が彷徨いて、更に進めば100が当たり前になる。
やがては200が、300がと数値がどんどん上がり、概ね450程度で止まって、550クラスのエリアボスが点在する様になり、最後にレベル500の巨人の幻影が彷徨く最終エリアに突入してレベル650のメイズボスと戦える仕様だ。
それでは、キリカとクンが何処まで行けるのかと言うと……魔力吸収を覚え、戦闘に高い才を持つ彼女等は、理論上何処までも行ける。
まぁ途中で、と言うか序盤で経験と練度不足で力尽きるだろうが。
情報の取捨選択にそれ等の効率的な処理、魂の厚さや質による攻勢意思への防御力に事実上の半自動装置であるスキルの練度、そう言った物を揃えて行けば精神力は間接的に増大する。
そして、経験上、精神力と言う不明なエネルギーを形作る物が、記憶に関与しているであろうと僕は睨んでいる。
それが経験なのか、知識なのか、或いはその両方かは定かでは無い。
故に、皆には能力を鍛え、色んな事を知り、経験して行って欲しい。
……これもその、一つだ。
「はッ!!」
放たれたキリカの蹴りが大きな狼の顎に炸裂し、重い体が跳ね上がる。
そこへ無数の銃弾を撃ち込み、次の瞬間、横合いから飛び掛かって来た2体目の牙を回避した。
バックステップで宙を舞いつつ、群がろうとする狼へ牽制の銃撃。
的確に鼻先へ撃ち込まれるそれに木端狼が怯む中、木端を超える更なる大型の狼、リーダー個体がキリカの着地点へ飛び込んだ。
果たして——大地毎噛み砕かんとするその大牙は、キリカには届かない。
着地の隙を狙った一撃は、まるで弾性に富むゴムボールの様に跳ねたキリカの足先を掠める事すらなく避けられ、二丁の銃口が向けられた。
「雷撃弾!」
放たれたのは雷の銃弾。
弾けた雷は大狼の全身を駆け巡り、その動きを大きく阻害する。
しかし、トドメを刺すには至らない。
次々と群がる狼へ牽制の銃弾を撃ち込み、着地と共に近場の狼へ接近、今度は薙ぎ倒す様に蹴りを放ち、倒れた狼の巨体を盾に、銃弾錬成の時間を稼ぐ。
相手はほぼ同格の獣。フィジカル面で圧倒して来る相手の、それも群れに、練気と読みで良く戦えている。
惜しむらくは、回避用の練気を維持している点で、その分のリソースを攻撃に転用していれば、今頃は3体くらい倒せているだろう。
錬成したのは威力の高い爆裂弾と、行動阻害に向いた雷撃弾。
威力と言う点で劣る雷撃は、上位属性故に錬成に爆撃と同じくらい時間が掛かっている訳だが……これがつまり回避用のリソースだ。
両方爆撃にして2体やる方がその後も楽だし、練気による回避能力は狼軍団の攻撃を十分回避出来る訳だが、どうしてもベターな選択を取ってしまう。
この比較的安定した立ち回りを選んでしまう点が、キリカの弱さだ。
まぁ勿論、まばたきの一瞬を争う戦場で、ベターな選択肢を選んで行けるだけで、キリカは十分な戦士だが。
それじゃあ精々ルカナ止まり。凡百とは別格であろうと、僕と血統を同じくする者としては及第点だ。
…………でもまぁ、キリカは本当は戦闘狂で、理性がそれを抑えているが故の今の結果だから、理性の鎖から解き放たれたら十分鬼才。
と言う訳で、キリカのトリガーを引いて見る。
「……キリカ」
小さな声にも関わらず、視線を向けたキリカに、僕は微笑み手をひらひらと振って——
「殲滅しろ」
——命令した。
鈴森は、元々鈴守の尖兵だった。
襲われたから撃退すると言う構図から、当主の命を受けた殲滅に変わる。
それが彼女の、引き金だ。
——気配が変わった。
それはある種のリミッター解除。タガが外れたとも言う。
これを鈴守に関わらない所でも出来る様になって欲しい物だ。
ともあれ、回避リソースと更なる予備リソースを攻撃に回したキリカは、先と比べて明らかに研ぎ澄まされた技のキレを見せた。
倒れる狼を迫っていた狼へ蹴り飛ばし、既に錬成していた爆撃弾を別の1体へ放つ。
それと同時に雷撃弾は動き始めた大狼へ放たれ、接近してきた狼の顎を一蹴りで粉砕した。
倒れた狼の頭を踏み付け、即座に錬成したのは、貫通力を少し上げ、その代わり爆発の威力を下げた、調節型爆撃弾。
即時に放たれたそれは狼の頭蓋を貫通し、脳の中心で弾けた。
ピンポイントで脳をぐちゃぐちゃにされた狼は絶命し、それと同時に背後から迫る狼へは、振り向く事すらなく爆撃弾を撃ち込み撃破する。
挟み込む様に迫る次の2体は、片方の鼻先へ飛び込む事で避け、同時に錬成した調節型爆撃弾で脳を破壊。
倒れ込む狼から飛び降り、狙い通り、蹴り飛ばした1体ともんどり打って倒れた2体目の鼻先に降り立ったキリカは、調節型爆撃弾で2体の頭を潰した。
そこまで行けば、後は蹂躙だ。
数を大きく欠いた大型狼なぞキリカの敵では無いし、格上の更に大きな狼とて、恐るるに足らない。
読みを更に深め、近距離では使い辛い爆撃弾を戦場真っ只中で調整し、リスクを織り込んだ闘気の一撃を放つ。
大狼の頭部を踏み付け、その脳を粉砕せしめて撃破したキリカの顔には、とても人には見えない美しくも酷薄な笑みが浮かんでいた。
一方クンはと言うと、彼女は姉と違って理性なんてどうでも良いジャンキーなので、最初から笑いながら銃弾をばら撒いて、別の狼の群れと戦っていた。
しかし、クンの弱みはそこでもある。
姉が冷静から一気に最高速度へ切り替えられるのに対し、妹は初動こそ早いが、最高速度に至るには少しの時間が必要だ。
また、戦闘の才こそあるが、どうにも浮かれてしまう様で、時に読みが浅く、手傷を負う場面が幾らか見られる。
これは、端的に言って油断だ。
だからイベントでもセロのコピーに遅れを取った。
まぁ、経験を重ねれば浮かれも遅れも改善されるだろう。
結局クンは、姉程苦戦する様な場面は無く、しかしてほぼ無傷な姉と比べて大小ダメージを負って狼の群れを退けた。




