第10話 白百合は大輪に咲く
第八位階下位
ヴァンディワルとのお話しを終え、次に向かったのはリブラの元。
リブラの通名はリブラ・ドラクル。
ヴァンディワル・ドラクルの妹としてドラクル姓を名乗っていたが、当然本名は異なる。
——リーリウム・サングレイス。
優雅なる太陽の如き白百合。
彼女が元々その様な子だったから、そして、彼女に太陽の元を歩んで欲しいから、彼女の主であるマレビトがその様な名前を付けたのだろう。
僕がサンディアに願ったのと同じ思い、安直だが真っ直ぐな、願いの乗った良い名前だ。
病室に入るや、僕は微笑みながら手を上げた。
「やぁ、おはよう」
「うむ、おはよう」
平然としている彼女の横の椅子に腰掛け、話を続ける。
「調子はどう?」
「うーむ、なんというか……驚く程に快調じゃの」
「後々僕とサンディアで調整するから、一層良くなると思うよ」
「ほう、それはまた……」
手をにぎにぎ調子を確かめているリーリウム。
サンディアの眷属となる事で増大した力の整理だから大した話では無い。
「何か質問はあるかな?」
「ふーむそうだのぅ……吸血鬼の行く末は安泰なのであろ?」
「そうだね」
「我等を虐め倒したのも我等をより強くする為、そうじゃな?」
「そうだね」
「うーむ…………我が宮の娘等と愛し合うのは良しとするか」
「子を成すなら要相談。それ以外は自由かな」
最後はともかくとして、流石は赤の因子を持つ者か、情報の整理が素早く確実だ。
器が違うと言うのは正しくこの事。
後は少しくらいの調整だ。
「悩みは……少し罪悪感がある事くらい?」
「むむ……ううむ……お見通しか……」
「何もしない事を選択した後悔だね」
「ふふ、選択した、か……そう仰々しい物ではなかった……ただただ、無為に、何もしなかったのよ」
遠くを見詰めてそう言う彼女に僕は肩を竦める。
「青血会やら白百合会やらは足掻いた結果だろう?」
「……何も出来ておらぬさ……強権を振るうには、我等は弱過ぎた」
僕は2度程頷いた。
「確かに、ちゃんと情報収集を出来ていれば。或いは一人一人きっちり罠にでも嵌められていれば、3体の帝王級が潜在的に敵では無い事は分かった筈だもんね」
「否だ、例え話し合ったとしても、奴等の言葉を信じられる程、我等は強くなかった」
寝首を掻かれる事を恐れ、自らを過小評価する彼女に、僕は首を横に振った。
「いや、君と彼、そしてカルミエラが、戦う事を決意していれば、3体の帝王くらい倒せていたし、他の木端はそれを見守らざるを得なかっただろう。或いは他の木端が暴れていたとしても、懐にいたであろうセバスチャンとリアラが十分対処出来た筈だ」
戦力上では木端の数が多く、二の足を踏むのは分からなくも無いが、それでも勝てる相手だった。
「君達に足りなかったのは、力ではなく心だよ。戦いを始め、血を流し、または血を流させる、覚悟だ」
「……耳が痛いのぅ」
リーリウムは僕から視線を逸らし、窓の外を眺める。
「まぁでも、君はそれ、あんまり気にして無いでしょ?」
「……それを頷くのはちょっとどうかと思うのだが?」
振り返った彼女に、視線を合わせる。
「強者とはそう言う物だ」
力を得て、世界を知れば、自ずと心は、同じ形になって行く。
「人も獣も変わらない。世にあるのは味方か敵か、それ以外。それならば、全てを飲み込み力とすれば良いだけの事……今の僕みたいにね」
「……なるほど、然りだな」
「まぁ、君はこれ以降何も悩む事は無いさ」
僕はリーリウムの肩を叩き、微笑んだ。
「強くなりたまえ。それをもって君の贖罪としよう」
「……ふ……ふふふ、それは断れぬの」
リーリウムは、正しく大輪と咲く白百合の如く、爽やかで淑やかな笑みを浮かべた。
「……ところで我と一晩どうじゃ?」
「十分な功績を上げたら考えてあげる」
「ほう! ほうほう! 人をのせるのがうまいのぅ!」
考えるだけなら無料だ。
先程よりも一層目を輝かせる彼女に、僕はただただ微笑む。




