第9話 帝王に光を
第八位階下位
カルミエラを説得した次に向かったのは、ヴァンディワルの病室。
「やぁ、おはよう」
お決まりの挨拶に、ヴァンディワルは神妙な面持ちで問うた。
「……我が選んだ道は、間違っていただろうか」
「君の目的の一つは鬼呪災害の防止だった筈だ。その点では成した事は間違いでは無い」
「そうか……」
正しく、吸血鬼を搔き集め、その動きを縛り、これ以上鬼呪災害による亜人類の死を引き起こさない様にすると言う彼の第一目標は達成された。
「吸血鬼を皆殺しにする策は、鬼呪災害を完全に撲滅する為と、それを引き起こした吸血鬼に正当な罰を与える為だね? それもまた、僕の支配下に降った為に達成されたと言って良いだろう」
「……そうか」
……まぁ、僕が意図的に鬼呪災害を引き起こす事はあるだろうけどね。そこら辺はケースバイケースだね。
「君の統治の果てに、君の目的は達された」
彼が達成した訳ではないが、結果的に彼が吸血鬼を纏めたから達成された事だ。
だが……それは所詮、かつての彼の目標でしかない。
彼にとって悪でしか無かった吸血鬼と言う種は、彼の統治下に入る事によって、違う一面を見せた。
——簡単な事だ。
所詮吸血鬼なぞ、亜人類の一種族でしか無かった。
悪は悪人が成し、それ以外の善は悪に埋もれて見えなかった。
たったそれだけの事だった。
全てが終わって尚憂う彼の心を満たすのは、良心の呵責と、親愛への慚愧と、愛への背信。
それ等は永い刻の中で複雑に絡み合い、煮詰められ、押し固められ、大きな罪悪感となって彼の心を縛っている。
導きが、必要だ。
「今君が成すべき贖罪は、3つだ」
僕は指を3本立てた。
「一つ、君が成し得た筈の、避けられた筈の悲劇を、今後2度と引き起こさない様、力を付け、学び、幾千の悲しみと向き合う事」
「……」
ヴァンディワルは深く、頷いた。
「二つ、君が半端にしか愛せなかった者達が、命と引き換えに産み落とした忘形見と、良く話をする事」
「……うむ」
ヴァンディワルは過去を見下ろす様に下げていた顔を上げ、頷いた。
「三つ、君が罪を背負わせたと思っている彼女は、君程他者の死を気にしてはいない。君と彼女では器が違う。それでも罪と思うなら……君の気の済むまで何か手伝ってあげたら?」
「…………うむ」
ヴァンディワルは困った様に、悩む様に、眉根を寄せて頷いた。
さて、最後に一つ、答えを示そうか。
「それから、君が未だに思い悩む、吸血鬼が滅ぶべきだったか否かだけど……」
強い興味を持って此方を見るヴァンディワルに僕は笑った。
「……どうでも良い事だよ」
「……どうでも良い……?」
「うん」
本当にどうでも良い事で悩んでいる。
「人間は君が思っている程弱い存在では無いし、吸血鬼には君やリブラの様に、人の為に何かを成そうとする者もいる。悪人は裁かれるべきだが種の栄枯盛衰に関与する程の事では無い」
まぁ、それくらいは本人も分かっている事だ。
だからこそ思い悩んでいる。
——答えを与えよう。
「吸血鬼は滅びなくて良い」
彼が本当に欲しかったのは、一寸先も見えない暗闇を照らしてくれる光。
罪に濡れた手ではもう選べなくなってしまった道を、はっきりと示してくれる大きな声。
「罪には罰を、そして赦しを。君達がもし罪を犯したと思うなら、僕がそれを裁き、赦そう」
僕はヴァンディワルと目を合わせ、その瞳を覗き込む。
「君はもう、種を背負わなくて良い」
人も獣も、吸血鬼も、何も変わらないのだから。
「今はしっかり休みたまえ」
僕は微笑み、彼に一人の時間をあげる事とした。




