第8話 王達の受難と幸福
第八位階下位
名も無く死んだ幼女には、後で良い名前を考えてやろう。
なに、彼女なら問題あるまい。5歳とは言え成人だった時の因子を30%も持っているし、それを上手く組み直して補強もしたし、何なら僕因子も雀の涙程度には入っているのだから。
一応子供だから配慮はあるが、ある程度は教育済みだし、彼女は良い首輪になってくれるだろう。
次はアンテ。
◇
「やぁ、おはよう」
「っ」
ガラリと病室へ入る。
一瞬驚いた様な顔をしたアンテは、頬を膨らませて明後日の方向を見上げた。
「話す事ないなら行くね、バイバイ」
「待てーい! そう言うところ! 良くないと思う!」
まぁ冗談はさておき、僕はベット傍の椅子に腰掛ける。
「調子はどうかな?」
「…………」
黙りこくるアンテ。
色々と言いたい事はあるだろうが、疑問の多くの答えは既に頭に入れてある。
後はじっくり整理すれば良いが、僕に直接聞きたい事もあるだろう。
その為のこの時間だ。
暫し待ち、アンテは口を開いた。
「……どうして嘘をついたの」
「嘘は付いてないよ。助けてくれるんでしょう? これから」
「むぅ……」
美貌を歪め、渋面を浮かべて納得行っていないアンテは、更に問う。
「……どうして騙したの」
「君が君の限界を越えられる様に手を尽くしたのさ」
「むむぅ……」
理解はしたが納得は出来ないアンテは、更に言葉を重ねる。
「……君なら、その必要すらないだろ?」
「ある物は使う物さ……不満?」
言うとアンテはキッと僕を睨んだ。
「不満だよ! ……あんな事やらなくても、ボクは……」
尻すぼみになるアンテに、僕は微笑んだ。
「僕の為なら何でもしてくれるって?」
「な、なんでもは言ってない!」
なんなら僕の為にとも言ってないけど。
僕は微笑みながら立ち上がり、アンテの頭を撫でた。
「……君が僕の役に立ちたいなら、君は死に物狂いで戦い続けなきゃならない。数百年の怠慢のツケを払う時が来た訳だ」
「うむむぅ」
「だが、君が無能な役立たずのままでも、僕は構わない、好きな道を選びたまえ」
まぁ、僕は君がどんな道を選ぶか、知っているけどね。
「…………一応言っておくけど、ボクは無能でも役立たずでも無くてちゃんと強いからね」
「うんうん」
「あと……捕まっちゃったから役に立ってあげる」
「そっか、捕まえて良かった」
「ほんとに思ってる?」
「思ってる思ってる」
「むぅ」
まぁ、戦闘力が低かろうと戦闘慣れして無かろうと、彼もとい彼女はレベル700くらいまで自力で至った者。
そこには確かな経験があるのだ。
足りない部分など幾らでも補えるが、土台を作るにはそれよりも少し手間。
土台があるなら十分だとも。
「せめてサンディアの足元くらいにはなってね」
「えぇ、ボクアレの足元にすら及んで無いの……?」
「自惚屋め」
何ならほぼ一撃で殺されておきながら随分な自信家だ。
僕は微笑みながら、アンテのおでこをピンッと弾いた。
◇
アンテをわしゃわしゃして、次に向かったのはウェンザードの病室。
ベットで上体を起こしボーッとしていた彼は、僕が部屋に入るなり、目を大きく見開いた。
「やぁ、おはよう」
「……あんたが神か」
確信を持って呟かれたその言葉に、僕は微笑んだ。
「その通りだ」
「……俺は、アイツみたいに強くなるぜ」
「君がその段に至る頃には、サンディアはもっと強くなっているだろうね」
「ハハッ、良いなぁ!」
髪の大部分に黒が残る彼は、気持ちの良い笑みを浮かべた。
実に良い。向上心の塊の様な輩だ。それでいて才能もある。
「君は強くなる」
「くくっあんたに言われると気分が良いなぁ!」
結果的に邪神の意志にも抗って見せたしね。
「いずれは僕の足元くらいにはなれるだろう」
「そうかぁ……足元かぁ……」
僕の足を見下ろしてそう言うウェンザード。比喩ね。
「今はゆっくり休むと良い。後々十分な修行を付けよう」
「ふはっ! 楽しみだなぁ!」
格に見合った厳しい修練だが、ウェンザードならば正しく子供の様な笑みで、目を輝かせて修行に勤しむだろう。
戦闘狂もまた、シャルロッテやアガーラ同様、異常な精神構造の一つだからね。
後はどれくらい振り切れるかだ。
邪神の欠片に臆している様ではまだまだだけどね。
◇
次に向かったのは、カルミエラ・ヴァーリンの元。
このカルミエラだが、苗字があるのは彼女が元貴族だからだ。
そも、吸血鬼が現在時点で数十万もの繁栄を成すに至った最たる要因が、第2回と見られるマレビト招致、レイド・オブ・ウォーズである。
その詳しい記録は残念ながら残っていないが、数年続いたと思われるレイウォーの歴史の中で起きた一つの罪業が、簡単に作れる強い戦力、吸血鬼の量産だ。
少し強い吸血鬼の血を蝙蝠に与える。たったそれだけの事で、新たな吸血鬼を生み出す事が出来る。
そう気付いたプレイヤー達の手により、終いには容姿ガチャが行われるくらいに吸血鬼が量産された様だ。
その大半は、使い捨ての戦力として強力な魔物と戦わされて死に、また幾らかは邪神の襲撃で、複数がマレビトの眠り後、命令を守った結果太陽に焼かれて死んだ。
そんな吸血鬼達の中で、野に放たれ野生化した者達等が鬼呪災害を引き起こしたりして、吸血鬼が増えたり減ったりしていた様である。
カルミエラ・ヴァーリンは、転生者の子孫に当たる。火の属性は転生者から引き継がれた物だ。
異世界からの転生者の子孫であり、違う異世界からの招聘者の作った吸血鬼によって吸血鬼へと変わった。
中々に数奇な運命と言える。
そんなカルミエラは、僕と会うなり言い放つ。
「やぁ」
「貴様、我が主をどうするつもりか……!」
情報は与えてあるし、処理能力もある。
その上で問うならば、それは彼女が真に知りたい事だ。
フォーレンは己が死ぬべきか否かを知りたかった。アンテは僕に裏切られたかどうかを知りたかった。ウェンザードは己が高みに行けるかどうかを知りたかった。
それと同じ様に、カルミエラは己が主の行く末を知りたいのだ。
僕は微笑み、答える。
「幸せにするよ」
「っ……戯れ事をっ! 何も知らぬ貴様が、どうやって我が主を幸せにすると言うのだ!」
そんな彼女に僕は首を傾げつつ、指先を小さく穿って血の雫を出して見せた。
「血をあげてみるとか?」
「ゴクッ…………そ、れは」
「試してみる?」
「……」
「毒味は大事だよね」
「そ、そうだなっ」
「冗談だよ」
「…………………」
怒るか泣くかはっきりしなよ。
「私はっ……私が恥ずかしい……!!」
「まぁまぁ、これでも飲みなよ」
「ふむぐっ!?」
真面目な子はだらけさせるくらいがちょうど良い。
それにしても、強い=旨い訳ではあるまいに、僕の血はやけに吸血鬼達に有効だな。
元々の相性が良いのかな。
そんな事を思いながら、まるで乳飲み子の様に指を啜りトリップし始めたカルミエラを見下ろす。
まぁ、流れるままに出した血では無く、ちゃんと力を込めた血だ。彼女が魅了されるのも致し方ないだろう。




